第18話 ギルネ様とあの日の真相
「ギ、ギルネ様、お味はいかがでしたでしょうか?」
僕は恐る恐る食事を終えたギルネ様に尋ねた。
ギルネ様はギルド長だったので色んな美味しいお料理を食べられて非常に舌が肥えているはずだ。
もしかしたら、ご満足させられなかったかもしれない。
「ティム、心配するな。ティムがハンバーグをこねた時点でもう世界一美味しい料理になったからな!」
「お、大げさですよ、僕だってハンバーグをこねるくらいは出来ます!」
ギルネ様のお褒めの言葉に僕は安堵する。
ハンバーグをこねるだけで褒めてくれるなんて、少し僕への期待値が低すぎる気もするけど……
食事を終えて、テーブルなどを"収納"する。
そして僕はギルネ様に提案した。
「では、ギルネ様! 早速冒険に出発いたしますか!?」
「いや、もう少しゆっくりしよう。ティム、別に復讐をしようってわけじゃないんだ。あまり肩肘張る必要はないぞ」
「で、ですが……実際にギルネ様はあのギルドに様々な物を奪われたわけですし――」
「ティム、それは違う。私は『奪われた』んじゃなくて自分から『放棄』したんだよ。自分の本当にやりたいことを自分で選び取ったんだ、君の“冒険者になりたい”という夢と同じようにね」
ギルネ様は穏やかな表情でそう言うと、ベッドに腰を掛けた。
そしてご自身の隣をぽんぽんと片手で叩く。
僕は意味に気が付き、「失礼します」と隣に座らせていただいた。
「ティム、あのギルドの名前は私の名前と同じ『ギルネリーゼ』だ。ギルド長の名前がそのまま付くのは珍しいだろう」
「そ、そうですね。他のギルドではほとんど見ません」
「うむ、少しだけ昔話をしよう。最初はな、幼くして魔法の才能を開花させた私の力に冒険者達が惹きつけられただけだったんだよ」
「ギルネ様は未だにとてもお若いですからね。他にもその……目立ってしまうのも分かります」
僕はなぜか急に照れくさくなり「お美しいので」という言葉が出てこなかった。
「いつの間にか人が増えて、ギルドになった。私はギルド長に祭り上げられただけだ。だから、ギルドの名前も私の名前になった」
「そ、そういう経緯があったんですね」
「だが、ある時気がついたよ。ギルド員達が見ているのは私ではなく、私の能力だけだ。私も彼らの喜ぶ様子が見たくてつい様々なクエストやレアアイテムの収集をしていたがな」
ギルネ様は少し悲しそうに語り始めた。
「ティムとのクエストの為にキャンセルした幹部達との会食の予定があったな。あれも『私の力をどこで発揮するか』を幹部の間で私が自分たちの思い通りになるよう誘導する為のものだ。今、ティムとしたみたいに楽しく食事をする機会は無かったよ」
僕は何も言えなかった。
1000人のギルド員をまとめ上げていたギルネ様が孤独を感じているなんて、皮肉もいいところだ。
それも、ギルネ様はギルド員を喜ばせる為に頑張ってこられていたのに……。
「やがて、ギルド員達の目もこの国の価値観と同調するように曇ってきた。強さこそが、宝こそが全てだと。思いやりだとかがなくなってきたんだ」
「それは……僕も、少し感じていました」
「ティムも酷い扱いを受けていたな」
戦闘能力至上主義のような考え方。
戦えないギルド員へはどんな酷い行為も許される。
僕は身をもってそれを感じてきた。
「そんな風潮にうんざりしてきた頃。私は変装してギルド内の様子を見てみる事を思い立った。ギルド員が多いからな、バレることもなかったよ」
「そ、そんなことをされていたんですか!?」
「その時に、食堂でイジメられているティムを見たんだ。隠れて見ていたが、君はどんなに酷い扱いを受けても冒険者一人一人に思いやりをもって雑用をしていたな」
「見られていただなんて……。お、お恥ずかしいです……」
「私も恥ずかしかったよ、誠実で思いやりのある君を私のギルドでこんな扱いを受けさせてしまっていることがな」
ギルネ様は当時の感情を思い出すかの如く、身体を震わせた。
「その後、ギルド内を歩いているとティムの働きがギルドを支えている事に気がついてな。まぁ、君は謙遜するだろうが……。だが今日の様子を見るに、私の知らない君の能力もまだまだあるみたいだな」
ギルネ様は少し呆れるような表情でため息を吐いた。
「私は翌日、すぐに君を呼び出した。君がイジメられている事を私に訴えれば私は君を救う事ができる。もしかしたら、辞めたいのに辞められないのかもしれない。そしたらまさか土下座されるなんて思わなかったけどな。私も思わず慌ててしまったよ――つ、つい変な事も口走ってしまったな……」
ギルネ様は少し顔を赤くされた。
変なことなんて言っていただろうか。
「とにかく、私にとってもあんな場所を抜ける良い口実だったんだ。今はこうして君と自由になることができた。もう一度言わせてもらうよ。ティム……感謝してる」
「ギルネ様……」
僕は勇気を持ってギルネ様に尋ねた。
「ぼ、僕を呼び出した日の『前日の僕』を見ていたってことは……」
「あぁ、ティムがイジメでメイド服を自分で作って着させられて給仕をさせられている時だな。最初は本当に可愛い女の子かと思っていたよ。呼び出してみたら可愛い男の子が来たわけだが」
「あ……あ……あ……」
僕は自分の顔がみるみる赤くなってゆくのを感じた。
最悪の初対面だ。
「いやー、本当に可愛かったな。いや、ティムはいつでも可愛いが。私にとっても本当に衝撃で――ってティム!? おい、大丈夫かっ!?」
「ぼ、僕を見ないでください……」
僕は羞恥で真っ赤に染まった顔を両手で覆ったまま、ベッドに倒れた。
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