第11話 ティムの懇願
ギルドを出ると、道すがらギルネ様は僕に呟いた。
「ティム、すまないな。冒険者になるのが夢だったのにギルドを抜ける事になってしまって」
「……はい」
「クエストはまた今度にしようか、まずは今日の宿を確保しよう」
「……はい」
「節約しないとな、だ、だから、その、一緒の部屋で良いか? 仕方なくだぞっ!」
「……はい」
ギルネ様が何かを言っているが、僕の耳には何も入らなかった。
何が起こったのか脳みそが理解を拒んでるみたいだ。
――ようやく現実を受け入れ始めたのは宿の部屋が取れた頃。
ギルネ様が硬そうなベッドに飛び込んで自爆なされている時だった。
僕の頭は少しずつ思考を始める。
(どういうことだ……これじゃまるでギルネ様までギルドを追放されたみたいだ)
(何で? 僕のせいで? 僕を一人にさせない為に?)
(最高位で何もかもを手に入れていたギルネ様が、僕みたいな欠陥冒険者と?)
自責の念がふつふつと心に湧いてくる。
ギルネ様はこんな安宿のベッドの上でのたうち回っていて良い存在ではない。
贅の限りを尽くした絢爛とした椅子に座って、優しく微笑んでいるべき方なのだ。
(まだ間に合う! ギルネ様は少し気の迷いを起こしただけだ!)
(引っ込みがつかなくなって、若気の至りというやつだ!)
(僕が頭を下げれば! 誠心誠意お願いすれば! 分かってもらえるはず!)
(ギルネ様はきっとそれを許さない……僕一人で! 謝りに行こう!)
「――ギルネ様、僕は食料を調達して来ます! ギルネ様はこのお部屋で休んでいてください」
適当な嘘を吐いて僕はギルドに戻ろうとした。
ギルネ様に嘘を吐くなんて最低だ。
でも、ギルネ様の将来がこんな所で棒に振られないで済むのなら――。
僕はいくら最低になっても構わない。
「な、ならば私も共に行くぞ!」
「もしかしたら、ギルネ様のギルド脱退がすでに世間に出てしまっているかもしれません。僕が一人で様子を見てきます」
「う、うむ……そういうことなら仕方がないな。姿を消す宝具も置いてきてしまったからな……」
「僕なら誰にも知られてませんから、安心してください」
不安そうなギルネ様の視線を背中に感じながら――
――僕は決意と共に部屋を出た。