第10話 『ギルネリーゼ』
ギルネ様の決断に場は騒然とした。
さすがの事態に幹部たちは慌てふためく。
「ま、待ってください! ティムを追放するのはギルネ様の為なんですよ!?」
「お前の言う『ギルネ様』とはどちらのギルネリーゼだ? ギルドのことか? 私のことか? どちらにせよティムを失えば終わりだがな」
「こいつに何の価値があるんですか!? 目を覚ましてください!」
「おかげで目が覚めたんだよ。今、この瞬間、私はギルドを抜ける」
「そんな簡単に抜けて良いものではありませぬぞ! ギルネ様は当主ゆえ!」
「――確かに、ギルドを作った者としてのケジメは必要かもしれんな」
ギルネ様は幹部達との言い合いを区切ると、その身に着けていた宝具を外して置いていった。
「私は着の身着のまま出ていく。私の宝具、魔具、財産等は全て置いて行こう」
「だから、そういう問題ではっ!」
「――いや、待て」
話に割り込んだのはニーア様だった。
「貴方が長年で取得した武器、宝石、希少な鉱石や素材も全て置いていくのですか?」
「目当ては私の宝具、そして"神器"だろう? 安心しろ、置いていってやる」
「ふふ、であれば良いでしょう。血迷ってくださり感謝いたします」
ギルネ様は「来い、"ニルヴァーナ"」と呟くと、その右手に綺麗な杖が現れた。
神聖な空気を纏った白い杖は国宝のような美しさと荘厳さを感じさせる。
「素晴らしい、これが神器ニルヴァーナ……」
ニーア様は満足そうに幹部達に目配せをする。
幹部たちも黙って頷いた。
ギルネ様がその杖を手放すと、杖は空中にとどまった。
そして最後に持っていたハンドバッグも名残惜しそうに机に置く。
「私はもう何も持っていない。これで後腐れなく抜けられるな?」
「――待ってください。まだ指輪が一つ残っているようですが?」
「……これは宝具じゃない。ただの赤い宝石が付いた指輪だ」
「であれば財産です。どうぞ、置いていってください」
「…………」
ニーア様の指摘にギルネ様はわずかに震える手で指輪を外して机に置いた。
「ギルネ様、いや――ギルネリーゼ=リーナブレア! 即刻このギルドから立ち去れ!」
「……分かった。ほらティム、行こう」
ギルネ様に追放を言い渡された時から僕の頭は使い物にならなくなっていた。
何の思考も出来ないまま、僕は抜け殻のようにギルネ様について行った。