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悪役令嬢の品格 -20回目はヒロインでしたが、今回も悪役令嬢を貫きますー【コミカライズ原作】  作者: 幸路 ことは
コミカライズ後 短編集

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199/200

アドニス・オランドールは、ベロニカの兄である【コミカライズ8話記念】

コミカライズ8話で、ベロニカの兄「アドニス」が初登場したのでSSを投稿します。

本編では名前すらなかったキャラですが、コミカライズ版では今後ちょいちょい出てくるようになります。

 オランドール公爵家は武の名門であり、代々将や騎士として王家を支えてきた。アドニス・オランドールも物心ついたころから剣を握っており、武の腕を磨き王と国を守ることがオランドール家に生まれたものの務めだと信じて疑わなかった。父も、母も、祖父母も、一族で武器を扱えないものはおらず、公爵家が抱える護衛隊は他の貴族がお飾りで持つものではなく、日々実践形式の練兵が行われていたからだ。


 幼いながらにオランドール家に恥じない武人として生きようと、誇りが芽生え始めていたアドニス7歳。純粋に剣に打ち込む日常は、妹が初めて剣を握ったこの日に打ち砕かれた。


「このわたくし、ベロニカ・オランドールが汗をかいて剣をふりまわすなんて、ぜったい嫌ですわ」


 ベロニカは訓練用の剣を手渡された瞬間、そのまま落とした。エメラルドグリーンの目を吊り上げ、高い位置で一つに結った赤みがかった金髪の、頬にかかるドリルのような縦巻きを右手で振り払う。


「わたくし、扇子より重いものを持ちたくありませんの」


 オランドールに生まれたからには、女の子であっても身を守るために最低限の武術を叩き込まれる。子どもが生まれれば、その子の名前が彫られた子ども用の剣を父親が贈る伝統があるほどだ。その剣を、ベロニカはなんの躊躇いもなく捨てた。


(オランドール家に生まれたくせに!)


 その傍若無人のふるまいに、アドニスは怒りを覚え、エメラルドグリーンの瞳で睨みつける。外に跳ねた髪が、そのまま怒りを表しているようだった。見た目はそっくりだと言われる妹だが、その性格は真逆だった。アドニスが嫡子として厳しく育てられ、期待通り剣に打ち込む真面目な性格なのに対し、ベロニカは男が多い一族で珍しく女の子が生まれたと親戚中から甘やかされ、我儘に育ってしまった。今は剣の稽古をするために訓練着を着ているが、いつもは毎日のように違う派手なドレスを着ている。


「おいベロニカ、師に謝れ、これは……」


 目に余ると口を出せば、ベロニカは一瞥し鼻で笑う。


「私に指図しないで。では、ごきげんよう」


 二の句が継げない剣の師に対して、ドレスを着ていないのにカーテシーをし、踵を返した。


「喉が渇いたわ。砂糖たっぷりのミルクティーと、赤のドレス」


 タオルを持って待機していた侍女に、お茶の用意と着替えを命じる。その後ろ姿は高慢な令嬢であり、アドニスからすれば、武の道しか知らず、父と剣の師に従う自分とは全く異なる生き物だった。


(なにあいつ、嫌い)


 師が剣を拾ってベロニカを追い、誰もいなくなった訓練場。その中で、アドニスは日課の素振りを始める。ベロニカが剣を落とすのを見た瞬間、言いようのない怒りに包まれて剣に手が伸びそうになった。自分が極めようと情熱を注いでいる剣を侮辱されたように感じたからなのだが、言語化できるほどアドニスは大人ではない。その衝動的な苛立ちは、体を動かすことで解消するしかなかった。




 翌日には、ベロニカに剣を教えるという話はなくなっていた。長年公爵家に仕える侍女や護衛隊員の中には「公爵家の伝統が」と眉を顰めるものもいたが、多くは納得半分、諦め半分だ。なにせベロニカは、朝食の卵が固い、お茶の温度が熱い、ドレスとアクセサリーの組み合わせが気に入らない、読み聞かせの侍女の声が低いなどなど、自分の意に添わなければ頑として動かず、やり直しを命じていた。子どもらしく駄々をこねることも、泣きわめくこともなく、ただ命じる様は王よりも不遜だった。そのベロニカに剣を教えるなど無謀だと、両親も薄々分かっていたのだろう。武の道はアドニスに極めさせようと、期待から鍛錬の量が二倍になった。


 アドニスは体を動かすのが苦ではないため嫌ではないが、何も思わないわけではない。自分の要求を通し、我儘放題をして勝ち誇った笑いを浮かべるベロニカが、アドニスはますます嫌いになった。しかもベロニカはアドニスに対しても容赦がなかった。


「お兄様、その臭い不愉快ですわ。さっさと身を清めて、この部屋に相応しい格好になってくださる?」と言われたのは、鍛錬後に果実水を飲もうとサロンを通って厨房に行こうとした時だった。


 雨の日に自室で素振りをしていたら、「うるさい羽音で目が覚めてしまいましたわ。蜂のほうがマシでしてよ」と、隣の部屋で昼寝をしていたベロニカが目をさらに吊り上げて乗り込んできた。


 他にも、「剣ばかり握っていて、いざというときに女性の手が握れるのかしら」、「カップを握る手が荒れていて、高級な紅茶がまずくなりますわ」、「お兄様のダンス、生まれたての赤子のほうが上手に踊れるんじゃないかしら」と、1年で兄妹喧嘩は数知れない。


 だが、剣を持たない妹相手に表に出ろと言うわけにもいかず、自ずと口喧嘩となればアドニスに勝ち目はない。その結果、鬱憤を晴らすために丸太に剣を打ち付けていれば腕は上がる。アドニスが9歳になったころには、同世代の子供の中でも腕力、技術ともに頭一つ飛びぬけており、大人も一目置く存在となっていた。




 9歳にもなれば、お茶会の席で親の隣にずっと座っていることもなく、子どもたち同士で集まって遊ぶようになる。子どもたちだけが交流する茶会もあるほどだ。そこにベロニカが出席することはほとんどなかったが、アドニスは気晴らしによく参加していた。妹の愚痴を、友達であるルドルフ・バレンティアに吐き出すために。


「ベロニカ嬢は相変わらずというか、ますますひどくなっていないか?」


 歓談の花が咲く庭園の隅で、立ち話には熱量と重さのある話を聞いたルドルフは、最近かけ始めた眼鏡をクイッと持ち上げて眉間に皺を寄せた。ルドルフとは同い年で嫡男ということもあり一番気が合う。


「そうなんだ。この間言い返したら、扇子ではたかれた。何が扇子より重い剣は持ちたくないだ。十分武器じゃねぇか」


 語気を荒げるアドニスに、ルドルフは落ち着けと果実水を渡すが、その怒りもよくわかる。家の付き合いもあって、ルドルフはベロニカとも幼馴染だが、会うたびに言葉のナイフが飛んでくるのだ。数時間ならなんとか流せるが、家族となれば毎日だ。「腹が立つ」と勢いよく果実水を飲むアドニスの肩を労わるように叩いた。ルドルフなら確実に舌戦になる。いや、もうすでに何度か開戦し、刺し違える結果となっていた。


「お前は一人っ子だからいいよな~。一週間でいいから兄を代わってくれない?」

「無茶言うな。公爵夫妻の耳を汚したくない」


 それは、限界まで研ぎ澄まされ、言葉だけを見れば美しい罵詈雑言でだ。「だよなー」と、もともと本気ではなかったアドニスは力なく返す。兄である必要のないこの場だけが、唯一の救いだ。そして、次はどこの茶会に出るのかと予定を聞こうとしたその時、にわかに茶会が騒がしくなった。高名な人が来たのかと、二人して賑わいに目を向ければ、ひときわ体格のいい老貴族が目に入った。


「あれは、ローゼンディアナ伯だ」


 この年で貴族の顔と名前をほぼ覚えきったルドルフは、すぐに人物を言い当てた。


「あぁ、最近養子を迎えたっていう?」

「その顔見せもあって、最近社交の場に出られることが増えたらしい。あの家には今年8歳の女の子しかいないから」

「へー。あの赤髪のやつか。養子に来て突然妹ができるって可哀そう。……さっそくご令嬢たちに囲まれてるな。お~、笑顔をふりまいてる」


 紹介されて挨拶をしている男の子は、アドニスたちよりも年が上で、遠くからでも分かるぐらいキラキラと眩しい笑顔だった。両親から常々愛想よくしなさいと注意される二人は、思わず顔を見合わせる。


「すごいな。殿下並み……」


 ジーク殿下とベロニカは昨年婚約を結んでおり、仲を取り持つように言われたお守役がルドルフとアドニスである。王子を彷彿とさせるふるまいが嫌なことを連想させ、二人の表情に憂鬱さが混じった。ジークはベロニカの毒舌を受け流せるほど大人ではない。どうなるかというと、癇癪を起して暴れまわるのだ。二人同時にため息をつき、視線を鈍色の髪の男子に向ける。ご令嬢たちに囲まれても臆することなく話しており、すぐに場の中心となっていた。


「あの様子なら養子として問題なさそうだな」

「妹にいじめられなければいいけど」


 二人の興味はすぐに逸れ、次のお茶会の予定へと移る。そしてその後、出席する茶会で度々彼の姿を見ることになり、名はクリスで年は13、妹を溺愛していることが耳に入るようになったのである。


あと一話あります。

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本編終了後の短編集です!

『悪役令嬢の品格ー読者様への感謝を込めた短編集ー』

コミカライズ版です!

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