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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
2章 北方戦域防衛編
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2章 49話

戦争が始まる。

イルム平野に布陣するガイナス軍。

マフィリアも加わり、そこには別の人物も……。


少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

 テントの外に出ると、思いのほか良い天気だった。

 寒さは肌に感じるが、程よく日差しが降り注いでいる。

 だが、それもいつまで保つか。


 風に湿度を感じる。

 それに、山側には重く澱んだ雲がもたれ掛かっている。


 ……昼まで保つかどうか。

 雪に降られるだろうな。

 機動力の低下、視界不良、体力の消耗。

 いい事はこれといって無い。

 せめて敵味方平等に作用すればいいが、それも当てにならない。

 つくづく不利な戦いだな……。


 周囲の兵士達も各々に準備を進めている。

 だが、数が少ないところを見ると、もう平野へ向かっている者もいるようだ。

 用意ドンで始まる戦争とかいつの時代だって思うが、都合はいいから文句はない。

 奇襲で数を削りたくても、俺の部隊だけでは無理があるし、敵は砦の向こう。

 ならばこちらの戦力を損なうリスクを負う必要はない。


 そんな事を考えていると、準備を終えたマシィナがテントから出てきた。

 何処となく機嫌が悪いようだ。

 ……まぁ、俺のせいだから何のフォローもする気は無いが。


 そうこうしているうちに、ニーナ、クリフ、ノレイン、フレイ、ミシエラ、隊長達が俺の前に整列。

 その後ろに続く様に、部隊員も全員揃った。


「……揃ったな。さぁ、戦場に向かおうか」


 俺はそう言うと、戦場となるイルム平野へ向けて行軍を開始した。


 移動中は、誰も、一言も発しなかった。

 きっと、色々な感情が、その胸中に渦巻いているんだろう。

 それこそ、言葉にできない程、グチャグチャに。


 ……それでいい。


 それを整理するのは自分にしか出来ない。

 自分で答えを出して、勝手に納得するしかない。

 それに、集中の仕方は人それぞれだ。


 どう足掻いても、目的地は死地。

 一秒後に死ぬか、一分後に死ぬか。

 はたまた運良く、運悪く生き残るか。

 想像以上の精神的ストレス。

 その極限の先にこそ、生物としての本質が垣間見える。

 ……こいつらがどんな戦いをするのか、なかなか楽しみではあるな。


 つまらない時間というのはあっという間だ。

 張り詰めているのなら尚更。


 森の終わり。

 ……宴の始まりだ。


 拓ける視界。

 イルム平野の先、グルガ砦。

 右翼、左翼は既に展開済み。

 すり鉢状。

 鶴翼の陣。

 本隊の位置は、俺の部隊。


 なかなかに壮観じゃないか。

 前線全軍、約1万4千。

 増援、3千。

 スライのとこから1千。

 合計1万8千。


 右翼9千。

 左翼9千。

 中央本隊として俺の部隊。


 ……いやぁー。

 実にいい。

 ゾクゾクするわ。


「さぁ、嬉々として殺したり殺されたりしようじゃないか。もう、想像しただけで、絶対に楽しいなぁ」


 俺は両手を広げると、誰に憚ることなく、口角を歪ませた。


「ヴェイグ」

「……んあ?」


 俺が一人で気持ち良くなっていると、いきなり声を掛けられた。

 もちろん、声音で誰かは分かるが。


「噂では聞いていたが、本当に戦闘狂なんだな。まったく、これだから魔族は……」

「そういう貴方は平常運転ですねぇ。マフィリア先生」


 声のした方に身体を向けると、そこには装備を整えたマフィリアの姿があった。

 緑を基調とした戦闘服。動きを制限しない革鎧。

 マフィリアらしい、エルフらしい装備だ。


「魔族の本性が抑えきれないか? なら私が殺してやるぞ?」

「別に本性とかじゃなく、これが普通なんですよ。あと、殺さないでください」


 俺がそう言うと、マフィリアは小さく微笑んだ。


 ……まったく。

 ずるいくらい綺麗な人だな、ほんと。


「それで? どうしてここに? まだ集合には早いと思いますけど……」

「私はお前の部隊に入ることにした」

「……は?」


 あからさまになんで?って顔をしている俺を置いてけぼりにし、マフィリアは言葉を続ける。


「勇者の存在は知っていたけど、アレは駄目だな。話をして直ぐに分かったよ。ならお前に付くしかないだろ?」

「いやいや、他にもあるでしょ? 作戦くらいは聞きましたよね? 右翼も左翼も重要な役目があるんですよ? それにここは危険……」


 マフィリアは言葉を遮るように俺の前に出ると、右手を腰に当てがった。


「私はエルフィンドルの戦士だ。ならば生命を賭ける場所は私が決める。共に闘うのならば、お前がいい。ヴェイグ」


 驚いた。

 それ以上に、上質の決意が俺の心を揺さぶった。


「とんだ馬鹿がいたもんですね。なら好きにしてください。そして、好きに死んでください」

「勝手に殺すな」


 向き合った俺達は、無邪気に笑った。

 戦場だというのに。

 マフィリアは、いい戦士だ。

 それに、いい女だ。

 なんなら、一番まともなんじゃ……。


 そんな事を考えていると、陰湿な殺気が身体にまとわりついてくる。

 ……まぁ、出どころは分かっているので気付いてないふりをするが。


 それよりも、先程から気になっている人物が一人。

 ずっとマフィリアの後ろに控えている男のエルフ。

 エルフにしては珍しく、よく鍛えられている。

 身体も大きく、衣服の上からでも分かる筋肉の隆起。尋常ではない努力が窺える。

 イケメンだが、良い顔つきをしている。戦士として。

 ……この雰囲気、何処かで……。


「マフィリア先生。後ろの彼は?」


 我慢出来ずに俺が尋ねると、思い出した様にマフィリアが答えた。


「彼はグノール。私の副官だ。とても優秀だよ。今回も自ら志願して来てくれた」


 マフィリアから紹介されると、グノールは一歩前に出ると、その場に跪いた。


「お初にお目にかかります。私の名はグノール。ヴェイグ様のお話は、父から伺っておりました。いつかお会いしたいと思っていましたが、こんなに早く会えるとは……」

「……彼はね、グーデン殿のご子息だよ」


 ……そうか。……そうか。

 言われて納得した。

 面影がある。

 肉体もそうだが、滲み出る戦士としての雰囲気が。

 絶え間ない努力が。


 良い息子じゃないか、グーデンさん。


「様付けはやめてください。グノールさん。グーデンさんには大変お世話になりました。恩人のご子息に様付けされるのはむず痒い。それに、俺に向かって膝を折る必要はありませんよ。上も下もない、同じ戦士。そして俺は魔族ですから」


 俺がそう言うと、グノールはゆっくりと立ち上がった。


「では、ヴェイグさん。それと、私の事は、グノールと」

「分かった、グノール」


 俺がそう応えると、グノールは強く拳を握った。


「……父は、ヴェイグさんは良い戦士だと言っていました。例え子供でも、魔族であっても、強き戦士であると。瞳を見れば、分かると。あの日。父が死んだあの日も、門から出る前に言っていました。この闘いは、ヴェイグが何とかする、と。それまで持ち堪えるのだと」


 絶魔地帯が無ければ、グーデンさんが遅れをとるような戦いではなかった。

 エルフィンドル最強は、俺の目で見ても、尋常ではなかった。

 復讐以外に興味はなくとも、別に薄情な訳ではない。


「俺は俺に出来る事をしただけ。結果的にどうにかなったのかもしれないが、大層な事をした訳じゃない。……だが、グーデンさんがそんな風に言ってくれていた事、心から嬉しいよ。貴方の父は、本当の意味でエルフィンドル最強だった。心優しく、気高かった。俺に言えるのは、そのくらいだけどな」

「……いえ。父も、喜んで、くれている、はず……」


 本当に、良い息子じゃないか。

 俺はグノールに歩み寄ると、軽く肩を叩いた。


「グーデンさんとは戦場に出れなかったが、お互い死力を尽くそう、グノール」

「はいっ!」

「それなら私も、先生は付けなくてもいいぞ?」


 いきなり何言ってんだ、この人?

 だって呼び捨てとかしたら絶対怒るでしょ?

 ……これだから魔族はって言うでしょ?


「流石にそれは……」

「今回はヴェイグが上官だし、なんだかお前に先生とか言われると、少し気持ち悪いんだよ」

「言い方! 俺も傷付くんですけど?!」

「自分より強い奴に敬われたくないしね」

「いや、でも、歳上だし……」

「歳が何だって?」

「何でもありません!」


 そんなやり取りをしていると、聞いていたニーナ達や部隊員達から緊張の色が抜けたようだ。

 まぁ、良いのか、悪いのかは置いといて。


 ……さて、本命のお出ましのようだ。

 勇者一行。


 各々の命運を賭けた戦いが始まろうとしている。

 痺れるように、背中を駆け上がる殺意。

 釣り上る口角。

 目的を忘れないように、俺は一つ息を吐いた。

読んで頂きありがとうございました。


Twitterのフォロー、ブクマ、感想、評価等、励みになるのでよろしくお願いします。

@_gofukuya_


これからもどうぞ呉服屋。をご贔屓に。

                  呉服屋。

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