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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
9/93

1章 2話

遅くなりすみません。

1章の2話です。

楽しんでいただけると幸いです。

 意識を刈り取られてから数分。

 俺は通路で目を覚ました。

 ナリーシャは何やらあたふたとしていたが、特にこれといって身体に問題もない。

 平手打ちを受けたのも、一応見てしまったという罪悪感に対して、自分なりの誠意を見せたつもりだ。

 とりあえず部屋に戻って着替えたいと俺が言うと、ナリーシャは「せ、正門でまっているから!」と、まだ若干動揺した様子を見せつつも、そそくさとその場を去っていった。

 全くもって、お転婆なお姫様だ。



 自室で着替えを終えた俺は、気を取り直してナリーシャの待つ正門へ向かっていた。

 木の匂いが漂う通路を抜けると、眩しい光が差し込み、その向こうにナリーシャの姿があった。

「謝らないから」

 第一声がそれですか。

「いや、別に謝って頂かなくても……」

「謝らないからっ!!」

 頑固だなぁ。

「僕が悪いので、謝罪なんて必要ないですよ」

「分かっているならいいわ!さぁ、行くわよ!」

 そう言うとナリーシャは、どかどかと街の方へ歩いていった。

 ご機嫌斜めのご様子だ。



 少し街を歩いただけでも分かることだが、ナリーシャは街の人々から人気がある。

 正確に言えば、このエルフの国の王であるダーシェさんの娘である所が大きいのだろうが。

 往来を行き交うエルフ達、店を並べる通りの店主達もこぞってナリーシャの名前を呼び、手を振る。

 ここに来た当初からの住民の反応や、街全体の活気で分かる。

 ダーシェさんの治世はとてもいいものなのだろう。

 戦時下であっても、住民達の笑顔は絶えることはないし、皆いきいきとしている事がすぐにうかがえた。

 無理をしている事なんて何も無い。

 皆そうしたいからしているような。

 心から王を信頼している事が手に取るようだった。

 それはメルカナでも同様だったが、エルフィンドルの方が『支持』という面では上なのではないかと感じている。


 魔族は力が全てだ。

 魔王とは、その頂点に座するもの。

『支持』よりも『支配』という色の方が濃くなるのは当然の結果だ。

 只でさえ魔族は多種多様。

 力でねじ伏せなければ、言う事を聞かない連中も多いだろう。

 全てがそうとは言わないが、暴力に勝る圧力はない。

 まぁ、メルカナは少し特殊な例なのだということは理解している。


 あとエルフィンドルに来て思った事は、木材を中心とした建築物が多いことだ。

 多いというより、ほぼそうだと言った方が正しいか。

 街の周辺には森しかないし、まぁ当然と言えば当然の事なのだろうが、メルカナは石造りの建物がほとんどだった為か、最初のうちは新鮮だった。

 でもそれ以上に、なんだか懐かしい匂いがした事を鮮明に覚えている。


 鎮樹と呼ばれる大木を中心にして、円を描くように形成されたこの街は、他からの侵略を寄せ付けない自然の要塞だ。

 要塞と呼ばれるのには2つほどの理由がある。

 一つは、その鎮樹の根。

 その根は街中に張り巡らされ、更には街の外縁にまで達する。

 外縁部では、その根が大きくうねる様に幾重にも折り重なり、分厚い壁を作り出している。

 それが城壁のような役割を果たしているのだ。


 二つ目は、大精霊の加護だ。

 ここエルフィンドルの南に広がる大森林には、この世界に4体しか存在しない、大精霊がいるのだという。

 その精霊のお陰でこの周辺はアストラルが濃く、強力な言法を行使する事も可能なのだという。

 城壁を形成する根の上には、所々に台座が設置されており、戦闘の際にはその台座から強力な言法を放つのだと言う。

 攻守ともに万全の、自然の要塞。

 まぁ、大精霊うんぬんの件は半信半疑だけどな。

 実際に見たり、会ったりした者はほぼ皆無だと言うから、信憑性に欠ける。


 以上の理由からエルフィンドルは、ここ数百年他勢力からの侵攻を防いでいるのだそうだ。

 今でもこうして健在なのだから、信じる他ないというのがとりあえずの俺の見解かな。


「ナリーシャ様!それにヴェイグ!ちょっと寄って行ってくださいよ!」

 野太い声で話しかけて来たのは、商店街に店を構えている揚げ芋屋の主人だ。

 この店はいつも抗い難い匂いを漂わせていて、ついつい足を止めてしまうこの辺りの名物店。

 活気のある商店街の中でも、評判の高い店舗だ。

「エギル!言われなくても寄っていくわよ!」

 全くこのお姫様は。

 色気より食い気だな。

「そうこなくっちゃ!揚げ芋2つな!」

「さっすがエギルね!」

 流石も何も、この店それしか出さないだろうが。

「待たせたな、ほらよ!揚げたてだぞ」

 ナリーシャは「わっひゃぁー!」とか変な声を出してそれを受け取った。

 そんなに好きなのか。

「はいっ!ヴェイグの分!」

 満面の笑みで俺に揚げ芋を手渡してくる。

 こうしていると、ただの可愛い女の子なんだけどな。


 ふと、遠い記憶が頭を過ぎる。

 前世でも、店先でこんな事したっけな。

 揚げたてを出してくれるコロッケ屋。

 あの時は妹と……。

 夕日が妹の横顔を照らす。

 屈託のない笑顔。

 幸せなんて分からない。

 でも、胸の辺りが熱くなる感覚。

 きっと、きっと大切な記憶なのだろう。

 食べたコロッケのあたたかさ。

 衣の食感。

 腕の袖を掴む妹の手。

 誓った思い。



「ヴェイグ、食べないの?」

 ハッと我に返る。

「あ、いや、食べるさ。鍛錬の後でお腹空いてるからな」

「なんだヴェイグ?うちの揚げ芋にケチつけるのか?」

「いやいや!そんなわけないじゃないですか!ここの揚げ芋は絶品ですよ!」

 絶品なのは事実。

 食べないなんて事は無いが、食べざるを得ないプレッシャーをかけられている事もまた事実。

 なんでここの店主は、エルフなのにこんなにごついんだよ!

 ゴリゴリのマッチョじゃん!!

 エルフって華奢でイケメンじゃないのかよ!

 食べなきゃ殺される……。

 でもほんとに美味いから、残さず完食しますけどね。


 ここの揚げ芋は、あの時食べたコロッケと似た味がする。

 数少ない、幸福な記憶。


「ありがとうございます、エギルさん。今日も美味しいです」

 俺はひと口頬張ってから答える。

「おうよ!うちの揚げ芋は天下一さ!ヴェイグは常連だもんな」

 ……。

 やばっ!!

「常連?」

「いやいや!常連な訳ないじゃないですか!アハハハハハ……」

「ちょっとこっちに来なさい。無闇に外に出るなと言われてるわよね?」

 俺は襟を掴まれ店先から離された。

「やだなー。ナリーシャ様、目が怖いですよー」

 冷や汗が頬を伝う。

「……はぁ。まぁいいわ。この事は黙っていてあげる。街の人との交流も大事にしなさい」

 意外だった。

 俺がキョトンとした顔をしていると、「何よっ!」とナリーシャがちょっと恥ずかしそうな顔をした。

「いや、ありがとうございます」

「わ、分かればよろしい!」

 ナリーシャは、周りの事を考えられるいい子なんだろうな。

 するとナリーシャがおもむろに右脚を俺に差し出して来る。

 ……まさか。

「分かったなら、さっさと脚を舐めなさい」

 ぐっ!往来の真ん中でなんという冷たい眼差しっ!

 明らかに磨きがかかってやがる。

 なんだなんだと、少し人だかりができる。

 周囲からの無言の圧力。

 それでもっ!

「誰が舐めるかよっ!!」



 その後も、ナリーシャと一緒にいくつかの店を回った。

 洋服屋に、雑貨屋。

 防具屋、武器屋、鍛冶屋、八百屋、装飾屋。

 どの店の店主も、ほんとにいい人達ばかりだ。

 そりゃあ頑固そうな人もいるが、誰一人として俺の事をぞんざいに扱ったりしない。

 人との繋がり。

 こんなにも、あたたかい気持ちになるものだったかな。

 もう、ほとんど覚えてすらいない。

 ふたつの記憶を持っている事にもだいぶ慣れてきたが、それでも、俺の心を占領し続ける燃えるような憎悪は、衰えることなどありはしない。



 日が落ち始めてきた。

 そろそろ城に戻る時間だ。

 皆がまた来てくれと手を振ってくれる。

 鍛錬頑張れよと、声を掛けてくれる。


 きっとナリーシャは、自分なりにこの人達の為になるようにと、こうして街を回っているのだろう。

 まだ同じ歳の、小さな少女。

 それでも王の娘として、少しでも皆の笑顔を守れる様に行動している。


 偉いな。


 これが誇りや、威厳というものなのかもな。

 数歩前を歩くナリーシャの背中を見て、そんな事を思った。

「どうかした?早く城に戻らないとお父様に怒られちゃうわ」

 おもむろに振り向いたナリーシャ。

 きらきらと輝く金髪。

 夕日に照らされたその笑顔の裏でも、きっと様々な事を考えているのだろう。

「分かっています。見回りご苦労様です」

「べ、別にそんなんじゃないわよ」

 ふんっとそっぽを向く。


 俺も鍛錬に励まないとな。

 いつ何が起きてもいいように、少しでも早く強くならなくては。


 あかねに染まる道をナリーシャと歩きながら、俺はそんな事を思うのだった。


ほんとに遅くなりすみません。

もう少し頻度を早められるように頑張ります。

これからもよろしくお願いします。

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_gofukuya_

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