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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
2章 北方戦域防衛編
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2章 45話

突如現れたマシィナ。

どうやら後を付けてきたようで、ネヌファとの会話に割って入ってきた。

それに、ヴェイグの過去についても聞いてくるのだが……。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

 いつもならば白い頬が、少し紅潮している。

 汗をかいている様子はないが、それなりに歩き回ったようだ。

 マシィナの軍靴にはかなりの雪が付着していた。


「どうした? 俺達はほぼ真っ直ぐ森を歩いてきただけだがな。もしかして方向音痴だったりするのか?」

「……そんなことは……ない……」


 訳ないだろ。

 俺達は大した距離は歩いてない。

 疲れ具合から見て、あちこち探し回ったようだな。


 そもそも隊への説明と訓練はどうした?

 ……まったく。

 自由すぎるというか、自分勝手すぎる。

 まぁ、俺が言えた義理では無いがな。


「俺の指示を聞かなかった事は、今は置いといてやる。それで? お前は何をしに来たんだ?」

「……ヴェイグと、その女が、いやらしい事をしているんじゃないかと、思って……」

「そんなことするかいっ!」


 そもそもネヌファは大精霊だぞ?

 それに、そんな事しようにも、触れられないからな。

 物理的に無理なんだよ。


 ……別に、ガッカリはしてねぇ。

 ほんとだぞ?


「信じられない。その女は危険」

「泥棒猫の分際で、私とヴェイグの邪魔をすると言うのか?」

「泥棒猫じゃない。むしろ、あなたの方が邪魔者。死ねばいいのに」

「……何だと?」

「それはこいつの口癖みたいなもんだ。気にするな」

「……ほんと、死ねばいいのに」


 ……こいつ、ほんとに何しに来たんだよ。

 マシィナとネヌファを一緒にするとろくな事がない。

 一刻も早く立ち去ってほしい。

 いや、なんなら俺が立ち去りたい。


「今は言い争いをしている場合じゃない。用が無いなら戻れ」

「ヴェイグは黙ってて」


 ……こいつ。

 俺は今、虫の居所が悪いんだよ。

 あまり俺を、苛立たせるな。


「巫山戯るな。お遊びに付き合ってる暇はねぇんだよ。殺すぞ?」


 俺は殺意を顕にした。


 明日は山場だ。

 時間を無駄にしてる余裕はない。

 隊長達や隊員達に、部隊編成の説明をする事も、訓練をする事も、彼奴らの生存率を上げるためだ。

 この俺がそんな事を考えてやってるんだぞ?

 何故従わない。

 この世界の奴らは、危機感が足りなすぎる。


「死にたいなら好きにしろ。そうやってヘラヘラして、勝手に死ね。時間は無限じゃねぇんだ。俺の邪魔をするな」

「……ごめん、なさい……」


 マシィナは視線を落とし、しおらしい態度を見せた。

 相変わらず表情は変わらないが。


 そうやってれば可愛いもんなのに、どうしてそんな性格なのか。

 まぁ理由は知っているし、理解してるつもりだが、もう少し、なんかこう、あるだろ?

 こいつのこういう部分が、周囲の悪意を増長させている一因なのかもな。


 ネヌファはと言うと、ざまぁみろといった視線をマシィナに向けていた。


 ほんとお前ら、仲悪いんだな。

 何がそんなに気に食わないのか。

 女の考える事は、前世からさっぱり分からん。

 人生2回分で童貞ってのも嫌だが、まぁ、面倒だからいいかなとも思うな。

 ……ほんとに、俺の周りにはまともな女がいない。

 見た目は良いのに。

 ……見た目は良いのに。


「それで、何か用なのか?」


 俺は頬杖をつきながら、あからさまに面倒臭そうな態度でマシィナに問いかけた。


「……正直、なんでか分からないけど、胸の辺りがもやもやしたから、後をつけてきた。でも、そんな事よりも……一度死んでいるって、どういう事?」


 ちょうどその部分から聞いたのか。

 ……別に隠すつもりもない。

 当初俺が心配していたような事は起こらなそうだから。

 それでも、言い触らすような事でもない。

 ましてや、自分と関係が深くもない相手に。

 ……面白い話じゃ、ないからな。


「お前に話す必要はない」

「……そんな言い方……」

「知る必要はない事だ」

「私の事は知っているくせに! 聞いたくせに! 結局ヴェイグの事は何も教えてくれないの?!」


 ……驚いた。

 もちろん、その強い声音にもだが。

 何よりも、その表情に。


 初めて見る、取り乱した表情。

 怒りを、憤りを顕にした。

 まるで、年相応の普通の女の子の様に。

 拳を固め、髪を乱し、体裁など気にせずに。


 驚きはしたが、話す義理など……。


「ヴェイグ。話してやったらどうだ? 細かく全てをではなく、もちろん大雑把でいい」


 これまた驚きだ。

 お前ら仲悪かったんじゃないのか?

 ネヌファが助け舟を出すとは思わなかった。


「そうは言ってもな……」

「ヴェイグは女心を理解しなさすぎだ」

「そんなもん分かるわけないだろ。分かってたら童貞じゃねぇっての」

「何にしろ、話してやれ。それで満足するんだから」

「……分かった。分かりましたよ! 話せばいいんだろ!」


 真剣なネヌファの態度に押し切られ、マシィナに事の成り行きを話した。

 ……もちろん、渋々だが。


 マシィナは大人しく、俺の話を聞き続けた。

 そんな深い話はしていない。


 俺は元々こことは違う世界にいた事。

 兵隊をやっていた事。

 多くの人間を殺した事。

 そしてある日、大切なモノを失った事。

 復讐だけを目的として、さらに多くの生命を奪った事。

 気づいたらこの世界に転生し、前の世界の記憶を持っていた事。

 どうやらこの世界に、俺の復讐に繋がる何かがあるらしいという事。


「俺の目的は復讐だけだ。それ以外の事は心底どうでもいい。関係のない人間がどれだけ死のうともな。俺は狂った殺人者だ。それでも、矜持はある。俺の復讐の邪魔をする者、つまり俺の成す正義を邪魔する者には容赦はしない。立ち塞がるというのなら、全力で殺す。殺して、目的まで辿り着く。その覚悟だけが、今の俺を構成する全てだ。どうだ? 聞くだけ無駄だっただろ?」

「……そんな事は、ない……」


 まったく。

 どいつもこいつも、なんて顔しやがる。

 この手の話をすると、皆そんな顔をする。


 悲しみ。

 哀れみ。


 お前らには関係の無い事だろ?

 それに、もう過ぎたことだ。


「まぁ、だから俺は一度死んでいるんだ。理解は出来たか?」

「……うん」

「ネヌファも、これで満足か?」

「あぁ。辛い話をさせて悪かった」

「よせよ。それに関しては何とも思ってない。ただ、俺は復讐を成せれば、それでいい」


 何だか微妙な空気になっちまったな。

 こうなるから、この手の話は苦手なんだ。


「さて、とりあえず話は終わりだ。ネヌファも一旦戻っていいぞ。明日は朝から頼む」

「……分かった。それではな」


 ネヌファはそう言うと、微かな風と共に姿を消した。

 話を聞いたせいか、以前よりも納得出来る光景だと感じた。

 いきなり目の前から姿を消すとか、常識から考えたら、普通に異常だからな。


「マシィナは俺と一緒に本隊に戻るぞ。お前がやらなかった事をやらなきゃならんからな」

「……分かった……」


 今は表情に変化は無い。

 だが、辛気臭い。

 俺の過去を聞いた事への罪悪感なのか。

 それとも別の何かか。

 俺はそういった感情の機微には疎い。

 やめて欲しいものだ。


 俺は岩から立ち上がると、マシィナの方へと歩き出した。


「ほら、行くぞ。お前一人だとまた道に迷いそうだしな」


 そう言うと、俺はマシィナの頭をポンポンと軽く叩いた。

 細く艶やかな髪の感触。


 緊張が解けたのか、少し表情が柔らかくなったが、まだ頬が少し紅いな?

 体調でも崩したか?


 俺はそんな事を考えながら、本隊へと戻った。

いつも読んで頂きありがとうございます。


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@_gofukuya_


これからもどうぞ呉服屋をご贔屓に。

呉服屋。

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