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序章 7話

序章の7話目、最終話です。

これでついに序章も終わりです。

読んでいただけると幸いです。

 血の雨が降り止み、一面を赤黒く染め上げた。

「気絶したか……。まぁこれからのことを見られても面倒だ。かえって好都合か」

 街道に倒れるナリーシャをそのままに、俺は先ほど倒したゴブリンだったモノに目をやった。


 身体強化が正常に行われていたとはいえ、この世界の生物に自分の技がどこまで通用するのかは疑問だった。

 魔物の身体構造が人間のそれと違っていれば、望んだような効果は期待出来ない。

 俺の技はあくまで人間用だからだ。

 だが問題はなかったようだな。

 あとはかつてと比べ体格が小さくなっているために、技の威力が落ちると思ったが、その点も大丈夫なようだ。

 俺は感触を確かめるように手を閉じたり開いたりさせる。

 不具合はないようだ。

「多少鍛えておいてよかった。今までの俺に感謝だな。この身体でもそれなりには戦えるか」

 それにしても身体強化は凄いものだ。身体機能全体がかなり底上げされている。

 身体の隅々まで力が漲る。

 イメージ通りの動きが出来る、と言った方が正しいか?

 ……言法だったな。

 効果が瞬間的な薬物投与とも違う。副作用もなく継続時間も多少長い。

 前の世界には無かった力。


「言法は有用だな。鍛錬しておいて損はないか」

 この先、この世界で戦っていくためにも言法は必ず必要になる。

 今後の方針としても、自分の身体を鍛える事の次には重要な位置づけになるだろう。

 何にしろ、鍛え直すことが出来る、というのは転生した大きな利点と思うしかない。

 守りたかったものは、もう何処にも存在しないという事実は変わらないが。

 だが、俺には今がある。

 守りたいと、そう思えるものが。


 ひとしきり考察が終わり、俺は残るゴブリンに向き直った。

 追っ手はあと一匹。

 あたふたと慌てている様子は見受けられるが、逃げるという選択肢はないらしい。

 その証拠に、短刀はこちらに向けたままだ。

 念の為に周囲にも気を張ってみたが、他に追っ手や、援軍が来る兆候は見られない。

「よー、お前勇敢だなぁ。この状況で逃げないのか?」

 話しかけても通じる訳はない。

 だが、俺に向けられている殺意は、肌で感じ取る事は出来る。

「悪いが、敵である以上は排除させてもらう」

 俺は腰を深く落とし、構えをとった。

 ゴブリンもそれに反応したのか、小さく「ギギッ」と鳴いて一応戦闘態勢をとる。

「さぁ、お前の覚悟を見せてみろ」

 そう言った瞬間、ゴブリンは俺目掛けて突進してきた。

 間合いも、駆け引きも全くない。

 稚拙。あまりにも愚かな選択。

 だが、その覚悟だけは評価しよう。



 俺は虐殺者じゃない。

 俺は殺人者だ。

 生命の価値に優劣をつけたり、ひとまとめに無価値だとは思っていない。

 全ての生命の価値は平等だ。


 だが、その者が何かを成そうとしたり、何かに立ち向かっていく覚悟の重さというものは平等では無い。

 それがその者の意志の強さであり、その者が考える正義なのだと思っている。

 その点を理解しているからこそ、殺人者であっても無差別に生命を奪うことを俺は好まない。

 俺はあくまでも俺の前に立ち塞がるもの、敵対するもの、そういった相手の生命は容赦なく奪う。他者の覚悟と正義を踏みにじってでも、俺が前に進むことを誰にも邪魔はさせない。

 それが俺の覚悟であり、俺の正義だ。

 詰まるところ、人の数だけ正義はあり、人の数だけ譲れない戦いが存在するということなのだ。

 例えそれが話し合いであっても、殺し合いであっても。

 そこだけはブレてはいけない。

 俺が人格破綻の殺人者でも。

 それが揺るぎない事実であっても。

 譲れないもののために生命を奪っているという根拠が消えてしまえば、もう俺は俺では無くなってしまう。

 ただの虐殺者になってしまう。

 そんな気がするから。



「お前の生命、奪わせてもらう」

 突進してくるゴブリンに向かい、俺は強く一歩踏み込んだ。

形切かたぎり流、殺人術」

 魔力炉が稼働する。

 体内を熱が循環していく。

 この感覚にはまだ慣れない。

「一之型、八番」

 ゴブリンが短刀を無造作に振り下ろした。

 その短刀を左手で軽くいなす。

 次の瞬間、身体強化によって鋭利な刃物と化した俺の右肘がゴブリンの首筋を捉えた。

「霞小太刀」

 俺の右肘が通った軌道に沿って、ゴブリンの血が弧を描く。

 首筋から大量の血を吹き上げながらよろよろとよろめき、数歩歩いた所で膝から崩れ落ちるように倒れた。


 肉を引き裂く感触。

 血の温かさ。

 むせ返るような鉄の臭い。

 思い出す、前世での戦闘の日々。

 血によって塗り固められた、もう開くことのなかったはずの記憶。

 背中を何かが這い上がってくる感覚が身体全体を支配する。

 それはとても懐かしいモノ。

 以前の俺と常に背中合わせに存在し続けた『死』の気配。

 自分が死ぬか。相手が死ぬか。



 その時、俺は笑っていた。



 これで追手は全て片付けた。

 あとはお姫様を城まで連れていく作業を残すだけだ。

 俺は気絶しているナリーシャに近づくと、肩を叩いて呼びかけた。

「おーい、お姫様起きろー」

 返事がない。ただの屍のようだ。

「しょーがないか。こうなったのは俺のせいだしな」

 一応責任は感じているし、起きない以上は運ぶしかない。

 俺はナリーシャを抱き上げた。

 抱き上げてから思ったことだが、これってお姫様抱っこだよな?

 これ人生で初めてしたわ。

 しかも初めてが本物のお姫様というのがなんとも贅沢なのやら、何なのやら。

 それともう一つ、それがお姫様だからなのか、エルフだからなのかは分からないが、見た目以上に軽い印象を受けた。

 ナリーシャを抱き抱えたまま暗くなった街道を進む。

 前世の記憶と、今の記憶、二つを共有して持っているというのはなんとも不思議な感覚ではあった。

 だが、言ってしまえば過去の記憶に違いはない。

 今俺はここにいるが、俺の意識は過去に囚われたまま。

 それでも俺はヴェイグとして生きていかなきゃいけない。

 当分の間気をつけなければならないのは、それらを混同してしまうこと。

 つまり、自分はこの世界の人間ではなかったという事実が周りに知られること。

 どうせ話しても理解はされないだろうが、さっきまでの自分とはまるで別人になってしまったと言う事はバレたくはない。

 歳に見合わない戦闘能力。

 この世界にはない知識。

 そういう事が露見するのは厄介だ。

 その時が来れば話すが、今はバレないように慎重に行動しなくてはならない。


 そんなことを考えていると、急な違和感が身体を襲った。

 全身に力が入らなくなり、俺は情けなく地面に膝をついた。

「いきなり力を使ったからか? それとも、俺の動きに身体がついて、これなかったの……か?」

 視界も霞んできた。どのみち、限界のよう……だ。

 そして、そのまま気を失った。



 夢を、見ているのか。

 暗い空間。

 目の前には俺がいる。

 正確にはヴェイグが。

「やぁ。初めまして」

「あぁ。初めまして」

 なんだか気まずいな。自分と話すというのは。

「生命を奪うって、あんな感覚なんだね。僕には、やっぱり出来そうもないよ」

「悪いな。お前の身体であんなことしちまって」

 目の前の俺が首を振る。

「この身体は紛れもなく君のものだよ。謝ることないさ。それに、君だからナリーシャを救えたんだ。僕じゃ無理だった。これからは君の力で皆を守ってくれるんでしょ?」

「あぁ。それは約束するよ。お前の覚悟は裏切らない」

「ならいいんだ」

 本当に安心した顔をしている。

 ヴェイグ、お前は優しい。

 やはり俺とは違う存在だ。

「そろそろ起きてあげて。皆心配してるみたいだから」

「わかった。また遊びに来いよ。いつでも歓迎する」

「ありがとう。じゃあ、また」



 俺が気がつくと、ベッドの上に寝かされていた。長い時間気絶していたらしい。

 大きな窓からは日差しが入り込んできている。もう朝のようだ。

「知らない天井だ」

 なんてお決まりのようなセリフを吐く。

 実際は毎朝見ていた天井なんだが。

 すると隣でガタッと物音がした。

「坊っちゃま! やっと目を覚まされたのですね!! 皆、心配したのですよ?」

 マナが俺の手を握り、涙目でこちらを見ている。ベッドに身を乗り出して、ずいっと顔を寄せて来ているような状態だ。

 顔が近い。

 ほのかにいい香りがする。

「う、うん、マナさん。俺……僕は、どうやってここに?」

 危ない!口調にも注意しないと。

「ガレウス様が担ぎ込んで来たのですよ。ただ気絶しているだけだから部屋に寝かせてやってほしいって」

 そうか、俺はあのまま兄に運ばれて屋敷まで戻って来たのか。

 ということは、兄はあの惨状を見たという事になる。

 何かしらは聞かれるな。

 上手くはぐらかさないと面倒か。

「坊っちゃま? どこか痛みますか?」

 マナが更に身体を寄せてくる。

 ……胸が腕に当たっているんだが。


 以前の俺はただの9歳のガキだった。

 だが今は前世の記憶を取り戻している。

 そんな今だからこそ思う。

 マナは巨乳だな、と。

 いかん!落ち着け!平常心、平常心だ!!

 心頭滅却すれば火もまたなんとやらだ!

 なんて心の中で葛藤を繰り広げていると、バタバタと何やら騒がしい足音が扉の向こうから聞こえた。

 バタンッ!と凄い音を立てて扉が開いた!

「お兄様! 目を覚まされたのですか!?」

 凄い勢いで入ってきたのは妹のエリーだった。

 薄いピンク色のワンピース姿だ。

 お気に入りのパジャマだと、以前言っていたっけな。

 よく似合っていると思う。

 俺がベッドの上で身体を起こそうとすると、マナが身体を支えてくれた。

 ……まだ胸が当たってますけど。

「エリー、心配掛けてごめんな。ただ気絶してただけだから大丈夫だよ」

 エリーはホッと胸を撫で下ろした様子だ。

 別にぺったんことか、そういう意味はない。

「安心しました。お兄様にもしもの事があったら、既成事実をでっちあ……あーっ!」

 急にエリーが大声を上げた。

「ちょっとマナっ! お兄様に当てている凶器を今すぐ退けなさい!! そうやってお兄様を籠絡する気!?」

「あらやだ。そんなことはありませんよ? それより、兄の心配よりも嫉妬とは見苦しいですね。エリー様」

 何を隠そう、マナとエリーは仲があまりよろしくない。

 いや、逆にいいと言うべきか。

 俺の中のヴェイグがそう告げている。

「心配していますー! 私がお兄様を看病するからマナはどっかに行って!」

「いやいや、これは使用人の仕事ですので」

 マナがさらに胸を押し当ててくる。

 目線と目線がぶつかり合い、バチバチと火花が散りそうだ。

 俺は自分の顔が赤くなっているのが分かった。

 赤面、というやつだ。


 自分で言うのも何だが、俺は前世で恋人が出来たことがなかった。

 好きな人はいたが、鍛錬が大変だったし、恋愛にかまけている暇はなかったのだ。

 ……そういう事にしておいて欲しい。

 だから、こういう事に耐性がない。

 起きていきなりのハーレム展開。

 ヴェイグ。お前も大変だったんだな。

 べ、別に羨ましくはないしっ!


「ムッキーッッ!!」

 エリーが頬を膨らませてジタバタと暴れる。

 これはこれで可愛らしいと思った。

 割と本気で。

 でも妹なんだよなぁ。

 記憶はあるけど、実感がない。

 あーでもないこーでもないと二人が言い合いをしているとまたも入口の方から足音が聞こえた。


 部屋の入口に立っていたのは、ナリーシャだった。

 こいつがこのタイミングで何故ここに?

 見舞いに来るようなタイプじゃないだろうに。

「あら、起きたのね蛆虫。少し話があるわ。他の者は席を外しなさい」

 来ていきなりすごい言い様だな。

 だが、何かあるのか?警戒するべきか?

「あんた何者よ! 私の夫になんの用?!」

 エリー、お願いだからややこしい事を言わないで。

「この人は昨日会談で来ていたエルフのお姫様だよ。大丈夫だから席を外してくれないか? それと夫じゃない」

「お兄様! 私というものが有りながら、何処でこんな女を引っ掛けて来たのですか!」

 ブレないなぁ。

「兄妹で結婚とか、ほんとケダモノね! 死ねばいいのに。いいから虫けら共は何処かへ飛んでいきなさい!」

 こっちもブレない。

 俺を蔑む視線が痛い。

 だがしょうがない。聞かれてはまずい話かもしれないしな。

「マナさん、エリーを連れて席を外してくれませんか?」

 俺がそう言うと、マナはナリーシャに一礼して、エリーの首根っこを掴み無理矢理引きずりながら部屋を出ていった。


「静かになったな。それで? 話って何ですか?」

 俺が尋ねると、何やらナリーシャはスカートを掴んでモジモジとしている。

 目線も斜め下の方をオロオロと泳ぎ、何やら頬を赤らめている。

 何だ?この少女のような反応は?演技なのか?と俺は身構えた。

「そ、その。昨日は……助けてくれてありがとう。礼を言わなくてはと思っていたから……」

 ……可愛い、だと?

 いったい何の罠だ?

「それに……ちょっとだけ、かっこよかった……」

 !!!!!!??????


 カッコヨカッタ?


 自分の耳を疑った。

 俺を油断させて、不意打ちでもしてくるつもりなのか!?

「ま、まぁ蛆虫の割にはいい働きだったわ! 私の脚を舐める栄誉を与える!」

 ……前言撤回。やはりブレないお姫様だな。

 俺のトキメキを返せよ!

「そ、それはどうも。心から遠慮致します」

 だが問題はそこではない。お姫様、やはり覚えていたのか……。

 余計な事を言われるのは厄介だな。

「それにしても、あんた蛆虫の割にはかなり強いのね。あそこまで出来る蛆虫を私は見たことがないわ! 強蛆虫ねっ!!」

 もう何回蛆虫って言われたかな?

 人間の尊厳って何だろう?

 そんなことより、どうする?口封じか?

 ちょっと脳を揺さぶって……流石にまずいよな。

 とりあえずは上手く丸め込むしかないか。

「いえ、僕なんか皆の足元にも及びません。あの、実は、まだ戦闘をするなときつく父上から言われていまして、出来れば皆には黙っていて欲しいのですが……」

 俺がしおらしくそう言うと、ナリーシャが不思議そうな顔をする。

「なぜ? あんなに強いのに」

「どのようなお叱りを受けるか分かりません。どうか、内密に」

 我ながら強引な話の展開だ。

 こーいうの苦手なんだよなぁ。

 だが、これで無理ならやむを得ないか。

「んー、分かった! だけど、黙っているかわりに一つ条件を出すわ!」

「条件……ですか? 何でしょう?」

「それは追って話すわ! 待っていなさい、蛆虫!」

 そう言うとナリーシャは大きな声で笑った。

 嫌な予感しかしない。だが、致し方ないか。

「そう言えば蛆虫。あなたの父上が呼んでいたわ。もしも起きているようなら謁見の間で待っているからって」

 これが本題か。

 ゴブリンの事か?それとも何か別の?

「私は先に行くわ。準備が出来たら来てちょうだい」

「分かりました。すぐに参ります」

 するとナリーシャが俺に向かって右足を伸ばした。

「……。何ですか?」

「褒美に脚を舐めたいのでしょう??」

 誰が舐めるかよっ!



 俺は急ぎ着替えて城に来た。

 通路の両脇にそびえる高い壁には、大きな窓が幾つも並んでおり、その窓から光が差し込んで来ている。

 その光が床に敷かれた赤色の絨毯を優しく照らし、俺を行くべき場所へ導いているようだった。

 立派な石造りの回廊を進むと目の前に大きな扉が現れる。

 この扉の先が謁見の間だ。

「ヴェイグ、参上しました」

 すると中から「入れ」という声がかかった。

 重い造りの扉を開けると、その先には父のグウェインとエルフのダーシェさんが待っていた。その後には何気にナリーシャの姿もある。

 なんだかもじもじとしている様子だ。

「大変だったようだな、息子よ。大丈夫だったか?」

 父は壇上にある立派な椅子に、ふてぶてしく腰掛けている。

「兄上が運んでくれたお陰で問題ありません」

 父達の方に歩み寄りながら答える。

 壇上の父の前まで来ると、俺は片膝を着いて頭を下げた。

「それよりも父上。兄上は……ご無事なのでしょうか?」

「うん? ガレウスがそう簡単に負けるわけがなかろう」

 まぁ確かに。俺から見ても化物レベルだからな。

「思ったよりも落ち着いているようだな。お前ならもっと取り乱していると思ったんだが」

 何のことだ?

 という表情が伝わったのか、父が言葉を続ける。

「魔物の襲撃の件だよ」

 ……そうか!普通なら取り乱すよな!

「そ、そうです父上! あれはどういう事ですか? 危うく死ぬところでしたよ!」

 これでなんとか取り繕えたか?

「まぁまぁ、落ち着けヴェイグ。いきなり襲われた事は俺の耳にも入っているが、これは予想していた襲撃だったんだ」

 よかった。なんとか取り繕……はい??

 あからさまに何を言っているのか分からないという顔をしている俺に、父は事の顛末を話してくれた。


 要約するとこうだ。

 穏健派である南方軍とエルフは停戦条約を結びたい。だが、普通であれば魔族相手にそんな願いは通らない。

 会談に合わせて他の魔族が襲撃に来るという情報を掴む。これを逆手に取る。

 南方軍としても、こちらが襲撃を指示した訳では無いという絶対的な証拠を提示することが出来ない。

 ならば無実の証拠として、停戦の申し出を受け入れる。

 穏健派らしい、平和的解決。

 という、なんとも無理矢理に取ってつけた様な顛末だった。


 脳裏で自称神の仮面がちらついた。

 あいつが一枚かんでいそうだな、と。

「とりあえず流れは分かりました。ですが、何故僕が呼ばれたのでしょうか?」

 問題はここだ。その真意が分からない。ゴブリンの件か?

「単純に巻き込んだ以上、説明は必要だと考えたんだがな。もう一つ話しておくことが出来た」

「それは何でしょうか?」

「あー、それなんだがな……」

 俺は身構えた。が。

 何やら父は椅子の肘掛で頬杖をつきながら、ニヤニヤと顔を歪ませている。

 嫌な予感しかしない。

「分かっていた襲撃。不測の事態も起きたとは聞いている。だが、お姫様に危険が及ぶとは思って居なかったんだ」

 何のことだ?

「お姫様が不服を申し立てて来てな。危険にあった見返りとして、お前を下僕に欲しいそうだ」

 はぁーーーーーーーっっ??

「いやいやいや、そんなの僕には関係ないでしょ!! もちろん行きませんからねっっ!」

「誓約の書類にサインしちゃった♡ てへっ♡」

 てへっ♡じゃねぇーだろクソ親父がぁー!

 なるほど、ナリーシャが言っていた条件とはこれか!!

 なんておぞましい事考えやがる!

 あんな奴の下僕とか冗談じゃない!

 そりゃあ多少は可愛いが……。

 そんな事では騙されないぞ!

 俺が絶望したような表情を浮かべていると、ダーシェさんの後ろに隠れていたナリーシャがずいっと前に出てきて、両手を腰に当てて言い放った。

「という訳よ! 有難く思いなさい! これから死ぬまで私への感謝を心の中で叫び続けなさいっ! 脚を舐めながらねっ!!」

 絵面が酷いな!どんな変態だよ!

 いい加減にしろーーー!!

 と言いたいところだが、黙っている事への見返りだ。そうはいかない。

「脚は舐めませんが、……承知致しました」

 苦虫を噛み潰した様な顔をしている俺に父が声を掛ける。

「まぁずっとという事ではない。いい機会だと考えて、少し外の世界を見てくるといい」

 確かに、それ自体は悪くはない。

 悪くないのだが……。

「分かりました。この世の地獄を見てくることにします」

 俺はそう言うと、謁見の間をあとにした。



 とまぁ、こんな感じで一連の騒動は収まった。

 南方軍はエルフ国と正式に停戦条約を結び、しばらくの間は戦闘は起こらなそうだ。

 ゴブリンの件に関しては何の追求もなく、逆に不自然さを感じたが……。

 ともかく俺は10歳を迎え、魔力属性が定まってからエルフの国に行くことになった。

 半ば捕虜だな。

 だが、エルフは言法に関して多くの知識を有していると聞く。

 言法に関しては、俺も知らない部分が多すぎる。

 自分自身、力をつける為にも行かない手はない。

 それに自分の属性が何になるのか楽しみな面もある。

 いい機会だと思うしかないかもな。

 下僕、というのが問題ではあるが……。


 それと仮面の男。

 俺の意思を無視してまで強制的に転生させられた意味。

 戦い、生命を奪い、奪われなければならない理由。

 そんなものが、この異世界にあるのか?

 元いた世界と全く関係の無いこの世界に。

 だが自称神は前世での経験がどうとか言ってたしな。

 何はともあれ、転生の理由を見つけなければならないようだ。


 記憶と力は戻った。

 あとは、この世界の事をもっとよく知り、混沌の時代を生き抜いていかなければならない。

 この先どんな試練が待っているか見当もつかない。

 未知の力を使う敵も大勢いるだろう。

 俺が切に願うのは、面倒な事にならなければいいという事だけだ。

 そんな願いとは裏腹に、それは無理だろうなという妙な確信が俺の頭の中を支配している事は、もう言うまでもない。


序章完結。

読んでいただきありがとうございます。

次からは1章、本編に入ってまいります。

少し時間がかかるかも知れませんが、早くアップできるように頑張っていきます。

本編もよろしくお願いします。

Twitterのフォローも良ければお願いします。

@_gofukuya_

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