2章 28話
ユルグが連れてきたのは少年、少女兵だった。
勇者の指示らしい事に多少の苛立ちを覚えたヴェイグだったが、これからの行動の幅を考えると、どうしても必要とな事は確か。
隊長を決め、自己紹介をしてもらうのだが……。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
呉服屋。
「じゃあまずは自己紹介からだ。隊長であるお前らの名前ぐらいは把握しておかないとな。じゃあ、お前から」
俺はそう言うと、あの時真っ先に答えた黒髪の少女を指差した。
少女は動揺した様子も見せず、一歩前に出る。
「私は中央本隊所属、ニーナです。よろしくお願いします」
背筋をぴっと伸ばし、はきはきと答えた。
その姿を見ただけでも真面目な性格だと分かる。
融通の効かなそうなクソ真面目。
まぁ悪いとは言わないがな。
「じゃあそのまま隣に交代。さくっと終わらせよう」
次は男の子。
見た目は小柄。茶色の髪。短髪でつんつんしてる。瞳も茶色。
目付きが少し悪く、左の眉の所に大きな傷。
「俺はクリフ。中央本隊所属。よろしく」
おー。
見た目同様つんつんしてるな。
分かり易い性格のようで何よりだ。
「……わ、私は、左翼分隊所属……。ノレイン、です。……よろしく……」
もじもじと答えた少女。
12歳にしては身長があるが、小心者。
クリフと同じく茶色の髪。長さは肩くらい。
茶色の瞳。黒縁の眼鏡。
顔も大人びてるな。
身長と相まって12歳には見えない。
そして次。
「私はフレイ。右翼分隊所属です。見ての通りの獣人です。よろしくお願いします」
よくよく考えると、こんなに近くで獣人を見るのは初めてだ。
と言っても、人間との違いは耳と尻尾くらいだな。
妙に毛深かったり、鼻が尖ったりはしてない。
短く整えられた黒髪。その上には耳が2つ。
お尻には尻尾。
……猫、かな?
獣人はその獣の特長を有する。
もし猫なら、身体のしなやかさ、とかかな。
父上や兄上、魔王もライカンスロープで獣人だと思われがちだが、全然違う。
獣人と、ライカンスロープの決定的な違い……。
それは、魔族か否か。
魔力生成器官の有無。
獣人は、生まれた時からその獣の特長を受け継いでいる。
そして、その割合はその先変化する事はない。
個々での差はあるが、ある時、急に元となった獣へ近づく事はない。
だが、魔族、ライカンスロープは違う。
魔族としての可能性覚醒。
魔力生成器官を使用すれば、より効果的に、より強大に、身体を変化させられる。
その元となった獣すら超えて、更に上位の生物へと進化していく。
これこそが、魔族を最強種足らしめる力。
驚異的なスピードで順応し、必要な能力を獲得する。
恐るべき種族。
だが、全ての魔族がそう出来る訳じゃないし、限界も制限もある。
無理なものは無理。
でもこれは、ほとんど上位の魔族にしか出来ない芸当だ。
思考が脱線したが、俺が言いたいのはつまりこういう事だ。
……もふもふも、可愛いな。
「……ヴェイグ?」
俺はマシィナの声で我に返る。
別に驚きはしなかったが、考えてた内容を鑑みると、少し気恥しさを覚えた。
「さて、次で最後だな」
最後は男の子。
すらっと背が高く、オールバックの金髪。
瞳は蒼。
エルフ以外の金髪は珍しいな。
……ちなみにイケメンですよ……。
何かこう、マダムとかに人気が出そうな、母性をくすぐられる的なあれっぽい。
俺には分からんが。
単純に白人種っぽいな。
「俺はミシエラ。左翼分隊所属です。よろしくお願いします」
普通に礼儀正しいな。
嫌味のないイケメンか?
それならギリギリセーフ。
何がって訳じゃないか、色々セーフにしておいてやろう。今の所はな。
さて、これで一応全員の自己紹介が終わった。
ニーナにクリフ。ノレインにフレイ。そして、ミシエラ。
人の名前を覚えるのは得意じゃないが、流石に隊長くらいはな。
「それじゃあ、俺達の部隊の行動方針を説明する」
俺が何の気無しに話を進めようとすると、突然ニーナが手を挙げた。
それはもう理想的な挙手の動作で。
「……はい、ニーナさん。何か質問かな?」
俺はめんどくさそうにそう言うと、ニーナははきはきと話し出した。
「私は勇者様と共に戦いたいです。少女兵であっても名誉な事ですし。それに勇者様は強い。いきなり現れた人の部隊には入りたくありません。原隊への復帰を望みます」
「俺も嫌だね。さっさと元の隊に戻してくれよ」
「……わ、私も……」
……。
まぁ、当然の反応だとは思う。
実力も素性も知れない相手の部隊にいきなり入れられたんだからな。
……でもなぁ、そんなに素直に言われると少しショックだなぁ。
何より、あの勇者より弱いと思われているのがなぁ。
腹立たしいが、それよりもやっぱりショックの方が大きいなぁ。
とりあえずそれは置いといて、これはこれからの士気に関わる事。
ちゃんと対処しておかないと面倒になりそうだな。
さて、どうするか。
「まぁ勇者様と一緒に、国の為に戦いたいという気持ちは分かるがな、あれの下にいたら死ぬぞ?」
俺は諭すように目の前の少年少女達に言った。
理解はされないだろうが。
「そんな事はありません。アルネス様は人間最強。それでも犠牲が出るのは仕方ない事です。それが戦争ですから」
おーい、イケメン。
お前までそんな事言うのかよ。
まったく、その歳で悟った様な事言うんじゃねぇ。
「私達も兵士です。死ぬ事を恐れたりしません」
フレイー。もふもふで可愛いが、馬鹿か?
戦って死ぬ事は、自殺とは違うんだぞ?
「……うーん……」
俺はその場で腕を組むと、空を見上げて低く唸った。
由々しき事態だ。
そもそも、俺はいつも単独行動だったし、指揮とか向いてないんだよなぁ。
……よし。
「分かった。じゃあお前達は隊列に戻れ」
俺の指示を聞いた隊長達は、並んで待機していた子供達の元へと戻った。
「全員聞いてくれ。原隊に戻ればまず間違いなくお前達は死ぬ。名誉の死ってやつだな。国の為に戦って、国の為に死ぬ。それを望む奴は手を挙げろ」
俺がそう言い終えると、ニーナ達隊長は直ぐに手を挙げた。
それを見てか、つられる様に続々と手が挙がる。
……全員か。
「お前達の意思は分かった」
俺は隣にいるマシィナに視線を向ける。
いつも通りの表情。
綺麗で、何を考えているのか分からない。
眉一つ動かさず、息をしているのかさえ怪しい。
そして、恐らくは優しい奴。
本気で守りたいんだろうな。
今度こそ。そう言った、意志の様なものを感じた。
俺は視線を戻すと、浅く一つ息を吐く。
その拍子に、何かが胸の中から出ていく事を期待して。
そして一人、これから自分が行う事に、胸を踊らせる。
隠すこともせず、唇を歪ませて。
「……お前ら全員、殺してやる……」
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呉服屋。




