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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
2章 北方戦域防衛編
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2章 13話

ナイガスに無事到着したヴェイグとマシィナ。

予備知識が何も無いままのヴェイグは少しでも情報を手に入れようと街を観察する。

だが、大した事も分からぬまま、女王陛下との謁見に向かうことに……。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

呉服屋。

 服を買う、という思いつきはもちろん突然の事ではない。

 そもそも薄着で来たのは俺のせいではない。

 あのクソ親父のせいだ。

 全面的に俺に非は無い。

 この寒さは正直良くないし、これからの行動に差し支える可能性すらあるのだ。

 そう、当然の行動。

 もちろん、それが目的の全てではないが。


 俺は案内役の兵士に待つように促すと、マシィナに金銭の催促をした。

 一応聞かれると良くないワードもあるので、耳元で。


「マシィナ、魔王から金を預かっているだろ? 幾らか出してくれ」

「……気持ち悪い。死ぬんですか?」


 表情に変化なし。

 しかし、不快感を露にしている事は分かった。

 何故って?明らかに距離を取られたからな。


「どうでもいいから出してくれ。必要経費だ」

「……」


 返事は無かったが、マシィナは肩から提げていた大きめの鞄からこぶし大程の袋を取り出した。


「私に触れないで下さい。本当に」


 ……。以前も言ったが、俺にだって傷つく心くらいある。あるんだ。


「……言われなくても触れないよ。あらぬ誤解を招くだろうしな」


 俺は慎重にマシィナから袋を受け取ると、辺りを見回した。


 建造物は石造りがほとんど。

 これだけ雪が降ることを考えれば、木材で作るよりも頑丈だからか?

 それに煙突がある建物が多い。

 この寒さだ。室内に暖炉がある可能性が高いか。

 だが、それだけでは片付けられない事もある。

 街に入った時にも思ったが、あちこちから鳴り響く金属を叩く音。

 そして寒いながらに感じる熱気。

 鍛冶屋。

 恐らくはかなりの数の鍛冶屋があるな。

 そりゃあ戦時下だから武器や防具はあるに越した事はない。

 だが、突貫で数を増やした様には思えない。

 ならば、ここは元々鍛冶が盛んであると予想できる。

 こんな情報でも役に立たないとも限らないからな。

 あとは往来に人の姿も多い。

 文字通り、人間。

 それに獣人、エルフの姿も確認できた。

 多種族で成立している事は嘘ではない。

 雰囲気も暗くはない。

 極端ではない緊張感。

 危機感は持っていない。

 だが、浮かれている訳ではない。

 正直、中途半端だな。


「服を買わないの? 死ぬの?」


 マシィナの言葉で分析を中断。

 まぁ、何も知らないよりは、まだマシか。


「今買ってくる。少し待ってろ」


 俺は適当に店に入ると、動物の皮で出来たコート、比較的軟らかい素材で造られた編上げのブーツを購入した。

 コートの裏地には毛皮も使用されていてかなり暖かい。

 縫製の技術も悪くない。

 人間は器用、ということか。

 あまり着膨れするのは好きではないから、これで十分だ。


「これでよし。悪かったな兵隊さん。それじゃあ城まで案内頼むわ」

「いえ、あの格好では流石に寒かったでしょうから。それでは、参りましょう」


 俺達は気を取り直して城まで向かうことにした。



 大通りを暫く行くと、大きな城門が見えてきた。

 はっきり言って、案内など必要はない。

 外壁から一直線だし、城だって大きいから終始見えていたし。

 まぁ何処の馬の骨とも知れぬ者を、自由に歩かせる訳にはいかないのは分かるが。


「少々こちらでお待ちください」


 兵士はそう言うと、城門の門兵のもとへと行ってしまった。


 それにしても、中々に頑丈そうな釣り上げ式の門だな。

 見上げると門の上にも兵士の姿。

 深深と降る雪が、頬に触れると同時に溶ける。

 白い息が虚空に霞み、消えた。


 雪。

 忘れもしない、あの時も、雪だった。

 友であった、あいつが死んだ日。


「お待たせしました。女王陛下の確認が取れました。直ぐにお会いになられるようです」


 ……余計な事を考えるのは辞めだ。

 それよりも、今はやる事があるしな。


 ギシギシと音をたてる城門。

 軋みをあげる不協和音。

 まるで何かの悲鳴だ。

 今度は鎧を身に纏った兵士に促されるまま、俺とマシィナは城内へと脚を踏み入れた。



 城内は白を基調とした石造り。

 豪華絢爛、という程ではないが柱などには装飾や彫刻が施されている。

 人間にありがちな自己顕示欲。

 階級社会の象徴か。

 左右には2階に上がるための階段。

 正面の通路は更に奥へと続いていた。

 俺達が向かうのは奥。

 2階を潜り、奥へ奥へと進んで行く。

 通路の脇には大きな柱が立ち並ぶ。

 重厚感があって、何だか息苦しい。

 それでも天井が高いせいか、いや、おかげか、多少は息苦しさが緩和されている。

 こんなとこ、住みたくはねぇなぁ。

 地面には蒼い絨毯。

 寒いのに寒色とか、センスを疑う。

 そんな文句を頭の中に並べていると、意外に早く謁見の間らしい扉の前に到着した。

 それにしても、俺最近謁見してばっかだな。

 好きでやってる訳じゃない。

 まぁ、おかげで慣れたけど。


「謁見希望者2名、到着致しました」


 大きな扉がゆっくりと開く。

 続く蒼い絨毯。

 左右には等間隔に鎧を纏う兵士。

 ずっと思っていたが、この程度の兵士では護衛の意味を成さないと思うんだがな。

 俺とマシィナは玉座の前まで来ると、例のごとく跪いた。


「両名、面を上げよ!」


 男の声。

 顔を上げると、玉座には女性の姿。

 薄い桃色の髪。

 大きな青い瞳。

 白いドレス。

 それに負けないくらい、雪のように白い肌。

 宝石をあしらったティアラ。

 美しい女性。

 それに、若いな。

 歳は18くらいか?


「女王陛下からお言葉がある。発言は控えるように!」


 さっきの声もこいつか。

 玉座から向かって右手側。

 明らかに階級の高そうな身なり。

 ウェーブのかかった白髪。

 胡散臭そうな口髭。

 体型は、肥えた豚だな。

 国の要職に着いている貴族か何か?

 少なくとも戦えるようには見えない。


「私は、ナイガスの女王。セラシュ=ノーブル=ナイガス。来られた要件を仰って下さい」


 か弱い声音。

 気丈に振舞っている様だが……。


「恐れながら申し上げます」


 マシィナが口を開く。

 魔王とどう言う話になっているのかは俺は知らない。

 とりあえずは様子を見るか。

 ってか普通に話せるじゃねぇか!

 俺はちょっとした殺意に拳を握った。


「マシィナ。久しぶりですね。元気にしていましたか?」


 やっぱり面識あり。

 でもこの対応だと、死神と呼ばれた理由は探れないか……。


「はい。攫われていましたが、身体は問題ありません」


 攫われてたとか、普通に言うんかい!


「お前など、そのまま戻らなくとも良かったものを……」


 ……。

 問題事に首を突っ込みたくないもんだ。


「攫われていたとは、いったい何処に……」

「はい。南方の都市メルカナ。魔王アバルスの居城に」


 周囲がざわつく。

 そりゃあそうだ。

 こいつ相変わらずの無表情で凄い事言うよなぁ。

 というか、それ言って良いのか?


「魔王アバルスというと、あの穏健派の……」

「しかし陛下。穏健派といえど魔王は魔王。こいつは魔王の手先になったのではないですか? 危険ですのですぐに追い出すべきかと」

「……しかし……」

「判断を誤ればナイガスを危機に晒してしまいます。ただでさえ戦時下なのです。ご決断を」


 当然の反応だ。

 マシィナは馬鹿なのか?

 それとも何か作戦が?


「私は魔王から指示を受けていますが、害を成すつもりは……」

「陛下! やはり危険です! こんな死神の言うことは聞く必要ありません! 誰か、こいつらをつまみ出せっ!」

「あっ、えっ? ベルドリン、その判断は早計では……」

「待って下さい。私はナイガスの為に!」

「うるさいっ! 口を慎め、バケモノがっ!」


 ……バケモノ、ねぇ……。

 傍に控えていた兵士達がマシィナを取り囲む。


「さっさとつまみ出せっ!」

「ま、待ってください! 陛下、私は!」


 ……。

 何だ。ちゃんとあるんだな、感情。

 表情は変わらねぇけど。


「陛下! お話しだけでも……」

「これ以上抵抗する様ならこの場で斬っても構わんっ!」


 兵士の一人が、剣の柄に手を掛けた。

 まったく。

 本当にこれだから人間は……。


「……はぁ。マシィナから手を離せ、殺すぞ?」

読んでいただきありがとうございました。

幸先が不安な謁見。

しかし、こんな所で失敗する訳にはいかないヴェイグ。

魔王から与えられた任務は人間側の勝利、もしくは現状維持。

マシィナ達のやり取りに痺れを切らしたヴェイグは、助け舟を出したが。


これからも、どうぞ呉服屋をご贔屓に。

Twitterのフォロー、ブクマ、評価、感想等々、励みになりますのでよろしくお願いします。

呉服屋。

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