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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
2章 北方戦域防衛編
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2章 12話

魔王にナイガスの近くまで送ってもらったヴェイグとマシィナ。

とりあえずはアストラルゲートで死ぬことは無かった。

だが、ゲートを越えた先は、猛吹雪。

2人は無事にナイガスへ到着出来るのか。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

呉服屋。

 キラキラと輝いてはいない。

 白は白だが、やや鈍色というか、グレーというか。

 久々に雪を見たと思うが、嬉しさや懐かしさは込み上げてこない。

 それどころか、俺の胸に去来した感情は、不快感。

 それもそうだ。


「物凄く吹雪いてるな。冗談抜きで5メートル先が見えねぇ」


 もともと雪は好きじゃないし。

 これだけ視界が悪いと不機嫌にもなるってもんだ。

 頬に当たる礫のような雪。

 粒が大きい。それにかなり水分を含んでいる。

 これは、まだまだ降るな。

 早めに人がいる所に出ないと、今の格好なら簡単に凍死出来る。

 それに現状で膝まで埋まるほどの積雪。

 移動するだけでもかなりの体力を消耗する。

 動ける時間もそれほど長くはない、か。

 万が一このまま夜まで彷徨う事になれば、死が随分と現実的なものになる。

 それだけは避けなければ。

 周囲を見渡しても、あるのは凍った木々ばかり。

 樹氷ってやつか。

 不本意だが、力を借りるほかないだろう。

 非常に不本意だが。


「……マシィナ、ここがどこだか……っておぉい!」


 俺がマシィナの方に目をやると、何やらとても暖かそうなコートを羽織っているところだった。

 もふもふ。

 凄くもふもふだ!


「お前、それ何処から出した!?」


 俺がそう言うと、マシィナは相変わらずの無表情で答えた。


「やっぱり死ぬんですか?」

「このままじゃ本当に死ぬわ! 何でお前だけそんなコート持ってるんだよ!」


 マシィナはコートの前を止めると、表情を変えずに首を傾げる。


「冬は寒いから?」

「そんな事は聞いてねぇよ!? 何でお前だけ持ってるんだよ!」


 いや、ここでマシィナを責めるのはお門違いだ。

 悪いのは全て、あのクソ親父。

 今度戻ったら、またボコろう。


「まぁ、それはもういいや。お前ここが何処だか分かるか?」

「お前じゃないです。マシィナです」

「何でもいいから、近くに街とか村とかないのか?」

「マシィナです」

「このままじゃ凍死しちまう」

「マシィナです」

「……」


 こいつ、めんどくせぇ。

 はっきり言って俺の苦手なタイプだ。

 無表情だとか、会話が成立しないとか。

 そういうのはまだいい。

 何よりもこいつは、我が強いんだ。

 ナリーシャやエリーとも違う。

 間違っているとか、合っているとかじゃない。

 認めない。

 曲げる気がない。

 理解出来ないどころか、多少でも理解出来るからこそ苦手なのだ。

 ある意味で、同類だから。


「……マシィナ、この近くに街や村はあるか? そもそもここが何処だか分かるか?」


 俺がちゃんと名前を呼ぶと、マシィナは数拍置いて答えた。

 もちろんその数拍の間に、こいつが何を考えていたのかは分からない。

 もしもわかる時が来たら、その時の俺は何かに目覚めているのだろう。超能力とか。



「もちろん分かります。このまま真っ直ぐに進めばナイガスが見えるはずです」


 ……正直驚いた。

 こいつが余りにもまともに答えたから。

 そう、普通。普通だ。

 気に食わない事を言わなければ会話が成立するのか?

 それとも、何か別に……。ってダメだ!

 寒さで思考がまとまらない!


「分かった。とにかくナイガスに急ごう!」


 俺は脚で雪を掻き分けると、踏み固めながら進み始めた。

 かなりの重量を感じる。

 いざとなったら身体強化を使って進むことも考えないとな。

 ここがどういう場所か分からない以上、無闇に言法を使いたくない。

 それに、雪崩が起きたら洒落にならない。

 マシィナは、大人しく付いてきている様だな。

 手脚の指の感覚がない。

 本格的に急がないと。


 俺は一歩一歩気をつけながら進んだ。



 俺達は思ったほど進まない内に木々の間を抜け、多少切り立った崖の上部に出た。

 雪は尚も降り続け、相変わらずの視界。

 しかし、見下ろした先、石造りの高い城壁が見えた。


「マシィナ、あれがナイガスか?」

「……そうです。山間部を切り開いて造られた天然の要塞、ナイガス」


 表情に変化はない。

 だが、その瞳が微かに曇った様に見えた。

 それに歯切れも悪い。

 故郷のはず。

 面倒だから詮索はしたくはないが、俺に訳ありだと悟らせるには十分だ。


「とにかくこの寒さはまずい。早く城門に行こう。……入れるんだよな?」

「もちろんです」


 俺は何も聞いてないが、マシィナは魔王から何か聞いているのか?

 まぁ、ここは任せるか。

 人間側に与する事になるのだから、事を荒立てたくはない。

 あくまでも可能な限りだがな。


 崖の下へ降りると、一応雪はかいてあるようだった。

 だが積もるペースが早いのか、それでも踝の上まではある。

 今までに比べれば歩きやすいことに変わりはないが。

 城門の前には兵士が2人。

 敵は近くにいないのだろうが、それでも戦時下に2人は少ない。

 こちら側は切り立った山。

 それにこの積雪。

 警戒が薄いのか。


 俺が兵士に近付こうと一歩踏み出すと、マシィナが俺の前を先行した。


 兵士は手に持つ槍を前に突き出し、警戒心を露にした。

 遅すぎる対応だがな。

 俺は大人しくマシィナの後について行く事にした。


「そこの2人止まれっ! ここはナイガスの東門、戦時下に何の用だっ!」


 何の用って。

 敵だったらどうするつもりだ?

 能天気な奴らだ。


「私はある方の遣いで来た者です。女王陛下にお目通りを。マシィナと言えば分かるはずです」


 マシィナと言えば分かる、か。

 こいつは意外に高い身分だったのか?

 少なくとも、女王陛下とやらと面識がある程度には。


「……マシィナ、だと?」


 兵士達の様子が変わった。

 この感じ、いい方向にではないな。

 明らかな殺気。嫌悪。侮蔑。

 よく知る負の感情。


「……死神め……。何しに戻ってきた?」


 ……死神。

 考えたくもない。

 絶対に面倒事だし、関わりたくない。

 この世界には死神とかほんとにいるのか?

 いや、それよりも、神って言ったか?


「ある方の遣いだと言ったでしょう? 早く女王陛下に伝えなさい」

「そう言って陛下に危害を加えるつもりか! さっさと失せろっ!」


 これはちょっとまずいな。

 雲行きが怪しい。

 このままじゃナイガスに入れない可能性が……。


「あなた方を殺して入ってもいいのですよ? そうなれば困るのは陛下とナイガスの民。それでいいのですか? それに陛下にこの男を会わせなければ、あなた方が陛下に殺されますよ?」

「そ、それは……」

「これは陛下の意志。それに背くつもりですか?」

「何の証拠もないだろうがっ!」

「だから、陛下に確認をして欲しいと言っているのです」


 不毛だな。

 何があったか聞きたくもないが、とにかく寒いから早くして欲しい。

 そう、とにかく寒い。

 寒すぎる。

 あー、本当にくだらない。

 面倒臭い。


「ごちゃごちゃうるせぇな。いいからさっさと確認してこい。そして一刻も早く街に入れろ」


 ついつい苛立ちが口をついて出てしまった。


「お前は死神の仲間か? そんな薄着で馬鹿じゃないのか? そのまま凍死していろ!」

「……」

「あなた達、本当に死にたくなければ……」


 そう言えば、人間と話しをしたのは久々だ。

 久々だから、忘れていた。

 人間とは、斯くも愚かな生き物だった。

 傲慢で、思慮に欠け、都合のいい様に思い込み、決めつける。

 そして、簡単に裏切り、寝返り、手の平を返す。

 愚か。

 そう俺は、人間が大嫌いだった。

 どうしようも無く許せなかった。

 自分もその人間である事が。

 もちろん、そういう者ばかりでないことも知ってはいる。

 でもそれは、あくまでも『出来た人間』だ。

 ただの人間は、生ゴミと同義だ。

 俺は、そう自覚している。


「マシィナ。そこをどけ」

「ヴェイグ。殺すつもり?」

「お前も言っていただろ。問題があるのか?」

「ここで騒ぎを起こすつもり? 死にたいんですか?」

「……邪魔するのなら、お前も殺す……」


 無表情。

 それなりに殺気を放っているんだがな。

 眉一つ動かさないか。


「ひぃっ! ゆ、許してくれ! そんなつもりは無かったんだ! ただ、ただちょっとした嫌がらせをしていただけで……」

「そうです! どうか、お許しを! 女王陛下へ取り次ぎをしますのでぇ!」


 2人の兵士は槍を捨て跪くと、ガクガクと震えている。

 情けない。

 誇りも、矜持も無いのか。


「さっさと行け」

「は、はぃぃぃっ!」


 そう言うと兵士は門を開け、中に居た兵士に俺達の事を引き継ぐとそそくさといなくなった。

 まったく、逃げ足だけは一丁前だ。


「一足先に確認に向かいましたので、城までは私がご案内いたします」


 今度の兵士はまともそうだな。

 とりあえずは一安心。


「……本気で殺すつもりだった?」


 半歩後ろを歩くマシィナが俺に問いかける。

 表情が変わらないのは実にやりづらい。

 表情から意図を読み取る事は重要だ。

 世間話でも、交渉事でも。


「……ああ……」

「私の事も?」

「……必要ならな」

「……死ねばいいのに……」

「聞こえてるっての」


 やっとの思いでナイガスに入ることは出来た。

 あとは、女王陛下。

 どんな人間なのか、予備知識は全くない。

 だが今はそんな事よりも……。


「よし! 服を買おう!」

読んでいただきありがとうございました。


Twitterのフォロー、ブクマ、感想、評価等々、励みになりますので、よろしくお願いします。

@_gofukuya_


これからも、どうぞ呉服屋をご贔屓に。

呉服屋。

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