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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
2章 北方戦域防衛編
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2章 11話

マシィナと共に謁見の間へと入ったヴェイグ。

魔王の前に跪くと、頼み、もとい命令の内容が明かされる。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

呉服屋。

 マシィナの事があったからか、謁見の間に入ったあとも昨日のような圧力は感じなかった。

 まぁ単純に今日は寝不足じゃないだけかもしれないが。

 頼むから、寝不足だけであれだけの殺気を発しないで欲しいものだ。

 流石は魔王というところか。


 玉座には、威風堂々という言葉がしっくりくる魔王アバルスの姿。

 やはり、大きい。

 その身体から漂ってくるアストラルの密度が異常としか表現出来ない。

 その気は無いのだろうが、常に圧力を感じざるを得ない状況。

 ただそこに存在する事が、世界の許容限界だと感じる。

 本物のバケモノ。

 俺は玉座の前まで来ると、マシィナと共に跪いた。


「昨日はご苦労だったな、ヴェイグ」

「いえ、とんでもございません」

「あまり時間が無くてな、早速本題に入らせてもらう。許せ」

「かしこまりました」


 魔王は腕組みをすると、その本題とやらを話しだした。


「ヴェイグは北方軍の事は知っているか?」

「知ってはおりますが、あまり詳しくは……」

「そうか。北方軍は魔王ベルディアが率いる軍でな、兵の練度も高く、優秀な幹部も多く従軍している」

「優秀な幹部……」


 魔王の口から出るのだ、相当な手練だろう。


「軍の規模もここ南方軍よりも大きい。まぁ、もし戦ったとしても負ける気はしないがな」

「はは……」


 そう言われても苦笑いくらいしか出来ん。


「それでな、北方軍はここ数年隣接する人族の国と戦争をしている。その名はナイガス」

「……ナイガス。聞いたことはあります。この大陸の北方に位置し、他の種族も多い連合国家だと」

「その通りだ。でも軍の主要な役職の殆どは人間で構成されている。人族の中ではかなりの軍事国家だ」

「……それが、どうかしたんですか?」

「実はな……」


 声音が変わった。

 ここからが本当の本題か。


「ここ1年程は拮抗状態を保っていたんだが、1ヶ月ほど前にナイガス側の前線の要衝、グルガ砦が陥落したという情報が入った」

「それでは、人族側が押されていると?」

「そうだ。俺はナイガスに特別な思い入れはないが、このまま北方軍が押し切れば魔族側の優勢が確定する。戦争全体のバランスが崩れてしまう」


 おかしな話だ。

 魔族なのに、人族側に負けて欲しくないかのような物言いだ。

 前から思っていたが、これ程の力を持つ魔王が、何故穏健派なんだ?


「恐れながら、魔族側の勝利ならば問題は無いのでは?」

「……ヴェイグよ、お前は魔族とそれ以外の生物の違いは何だと思う?」

「それは……魔力生成器官の有無では?」

「それ以外は?」

「姿かたち、外見と身体能力」

「それ以外は?」

「それ以外は……」

「俺はな、別に違いなどないと思っている。人間だろうが、亜人だろうが、魔族だろうが、それ以外の動植物も、一つの生命である事は変わらない。皆、平等なはずだ」


 ……真剣、か。

 魔王の言葉から嘘の匂いはしない。


「殺さなければ、根絶やしにしなければ。そんな必要がどこにある? 分かり合うことは絶対に無いのか? 力による、暴力による支配しか共生の可能性は無いのか? 答えは否だと思っている」

「……私も、そうは思います」

「ただ、俺が悪だと判断するならば、容赦なく皆殺しにする。力ある者には責任が付きまとうものだ。弱い者を守るという責任が。それと同時に、その弱い者を裁く権利も持つ。弱肉強食。魔族の真理。弱者の生殺与奪は強者の特権だ」

「……はい……」

「難しい事を言うつもりはない。殺す必要がないなら生かせばいい。殺す必要があるなら殺せばいい。それを決められるのは、強者だけだ」


 単純だ。

 だがそれ故に強い信念。思想。

 力を根本に据えた絶対主義。

 間違っているなど、言えるはずもない。

 そして、間違っていると思わない。

 見事なまでの力の権化。

 気持ちがいいくらいだ。


「話しが脱線したな。俺が今回ヴェイグに頼みたいのは、人族側の支援。そして、人族側の勝利、又は拮抗状態の保持だ。やってくれるな?」


 つまり、魔王はナイガスの人族は死ぬ必要はないと判断したって事か。

 それも、戦争全体の均衡を保つため。

 恐らくは、それだけではないだろうが。


「私に出来ることなら、やります」


 そもそも、断れるはずも無い。

 頼み?命令の間違いだろ。


「良い返事だ。それと、エルフィンドルの件での褒美も考えてある」

「……褒美、ですか?」

「生殺与奪の権利」


 そう言った魔王の顔は、正に魔王のそれだった。

 歪んだ口元。

 生命を弄ぶ、絶対的強者。


「お前がどうしようが、俺は口を挟まない。殺したければ殺せ。好きなだけな。俺が求めるのは結果だけだ。あとは好きにしろ。これが褒美だ」


 ゾクゾクする。

 背中を駆け上がる、愉悦。

 釣り上がる口角。


「有り難き幸せ」


 流石は魔王。

 扱い慣れしてやがる。

 そして、俺が無駄な殺生をしない事も理解しているのだろう。


「そうと決まれば、早速出発して欲しい。割と時間が無いのでな。近くまでは送ってやろう」

「えっ? 今からですか?」

「そうだが? グウェインには言っておいたぞ?」


 あのクソ親父がっ!

 報連相くらいしっかりしろっ!


「必要な金はマシィナに渡してある、買うものがあれば使え」

「マシィナ? こいつと一緒に行くんですか?」

「今回は人族への潜入になるからな。だからヴェイグとマシィナに頼む。優秀だから安心しろ。マシィナはそのままお前にやる」


 やる?

 いやいや、全然いらないですけど?

 見た目はいいが、それ以外はヤバい奴ですよ?


「ちょっ! ちょっと待ってくださいっ! 俺は一人でも……」

「マシィナはナイガスの出身でな。今回の為に攫ってきたんだ。上手く使え」


 攫ってきたんかいっ!

 さらっと凄いこと言ったなっ!

 ってかお前攫われて来たくせに馴染みすぎだろ!

 何その無表情!


「死ぬんですか?」

「お前話し聞いてたか?! 何で第一声がそれなんだよっ!」


 俺達のやり取りを見て笑う魔王。


「面白い奴だろ? そいつも褒美だと思ってくれ」


 いやいや、褒美どころかお荷物だろ。

 それに男に女を与えるって、どんな神経してるんだよ。

 まぁ、魔王に常識は通じないか。

 それよりも、近くまで送るって言ったか?

 アストラルゲート以外に、転移的な言法が存在するのか?


「えっと、送ると言うのは?」

「あぁ。アストラルゲートだ」


 死亡確定やんっ!

 到着する前にバラバラになってまうっ!


「アストラルゲートは物質界の者には使えないんじゃ……」

「そんな事は無いぞ? 気合で何とかなる」


 気合い?

 ここに来て根性論持ち出されても……。


「今開けるからすぐに通れ」


 もう何言っても無理だな。

 魔王がやれると言うなら信じるしかない。

 というかやれなきゃ困る。


「……分かりました。お願いします」

「死ぬんですか?」

「今回はそれ合ってるかもな」


 魔王は玉座から立ち上がると、俺とマシィナの方へと歩み寄る。


「あまり長くは保てない。開いたら飛び込め」

「了解しました」

「……アストラルゲート」


 目の前に淡い光の空間が出現した。

 大きさは、人が一人通れる程度。

 アストラルの光で向こう側は見えないが、凄まじい高密度。

 文字通り、空間が歪んでいる。

 こりゃあ通ったら死ぬわ。

 ってか、こんなに簡単に出来ちゃうもんなの?

 何度も言うけど、通ったら死ぬんでしょ?!


「準備はいいか? 開けるぞ」


 開ける?もう開いてるんじゃ……。


 魔王はそう言うと、太い両手を歪んだ空間の中へと捩じ込んだ。

 反発があるのか、金属を研磨するような音と共にアストラルの破片が飛び散る。


「ふんっ!」


 掛け声と同時に、光の空間を真っ二つに引き裂いた。

 ……もう、何でもありかよ。

 魔王すげぇー。としか言い様がない。


「こじ開ければアストラルの干渉は受けない。さっさと行け」


 こういう原理の分からないのはあまり好きじゃない。

 と言うか、不安だからちゃんと理解したいのっ!

 だが、そういう世界の理の外にいる存在こそが『魔王』なのかもしれない。


 俺がそんな事を考えている内に、マシィナの姿が消えている。

 あいつ、もう通ったんかいっ!

 もう、上手くやれるか不安でしょうが無い。

 とにかく、俺も腹を括ってゲートを通ろうとした。


「ヴェイグ。何やら北方軍に怪しい動きがあるらしい。気をつけろ」

「……分かりました。それじゃあ行ってまいりますっ!」


 俺は目を瞑ってゲートに飛び込んだ。



 ボフゥッ。

 何やら柔らかい物に脚を取られた。

 それに、じんわり冷たい。

 恐る恐る目を開ける。

 そこは一面の白。

 凄まじい風と共に頬に感じる鋭い痛み。



 何これ、猛吹雪やん。

読んでいただきありがとうございました。

アストラルゲートを通った先は一面の銀世界。

息を合わせるどころか会話も噛み合わないようなマシィナとの任務。

これからどうなるのか。


これからも、どうぞ呉服屋をご贔屓に。

感想、評価、レビュー等々、励みになりますので、よろしくお願いします。

呉服屋。

@_gofukuya_

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