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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
2章 北方戦域防衛編
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2章 10話

父と兄に質問された部分のみ真実を告げたヴェイグ。

全てを話した訳では無いが、ヴェイグとして受け入れてくれた。

あとは魔王からの頼みを聞くだけなのだが。


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

呉服屋。

 気づいたらもう朝だった。

 どうやらよく眠れたらしく、疲れや怠さのようなものは無い。

 ただ少し眠り過ぎたせいで、まだ少し眠い感じがする。

 あの酒が効いたようだ。

 それにしても魔族の身体は頑丈だ。

 いくら成人程度の成長をしているとはいえ、あれだけ強い酒を飲んで二日酔いもない。

 何かそういうものを分解する機能が高かったりするのか?

 魔族すげぇな。

 でも、あの酒は美味かった。

 酒かぁ。

 今度からはちょくちょく飲もうかな。

 そういった娯楽的な物は、前世では御法度だったから。

 とても新鮮だった。

 ハマりそうだ。


「ヴェイグ、起きたか」


 突然の呼び掛け。

 という訳でもない。

 アストラルパスが繋がっているからか、近くにいることは伝わっていた。

 優れた機能だとは思うが、プライバシーも何もあったもんじゃないな。


「ネヌファか。何か用か?」


 優しい風が室内に吹く。

 ふわりと、ベッドの淵に座る彼女の姿。

 透き通る白い肌に黒髪がよく映える。


「なに、用事という程でもない。ただ、あの姫から言伝を預かっていてな」

「姫? あぁ、エルフィンドルに行っていたのか。それにしても便利だよなぁ」


 俺はまだベッドに横になったまま、多少の眠気に身を任せていた。


「アストラルゲートか? お前達物質界の者には使えないからな。万が一使ったら、高密度のアストラルに身体が耐えられずに自壊するだろうな」

「そんなこと聞いたら使う気も起きないよ」


 アストラルゲート。

 アストラル界に住まう者だけに使用を許された、言わば転移?を可能とする門。

 一応原理は聞いたが、転移先に自分と同じ密度のアストラルを収束させ、そこに存在自体を転写する事で、一瞬で移動を可能とするものらしい。

 アストラルが極度に薄い場所や、もちろん絶魔地帯では使用が出来ない。

 転写にアストラルを媒体とする為、肉体を持つ者には不可能なんだそうだ。

 まぁ簡単に言えば、とんでも能力だな。


「それで? ナリーシャは何だって?」

「私の下僕、蛆虫なんだから、秒で帰ってきなさいっ! だって」

「まったく。あのお転婆姫は相変わらずか」

「安心したか?」

「……まぁな」


 俺はベッドから身体を起こすと、クローゼットへ向かう。

 今日も魔王に謁見がある。

 面倒な内容なのは当然だろが、見当がつかないのが正直なところだ。

 俺は徐ろにシャツを脱ぎ捨て、着替えを始めた。


「それにしても、凄い身体だな」

「何がだ? 何処か変か?」

「いや、どうやったらそんな身体になるのかと思ってな」

「……あぁ。俺の特化覚醒が前世に戻る、前世の身体付きに近づくものであるなら、こんな程度ではないんだがな」

「もっと凄いのか?」

「凄いかどうかは分からんが、もっと身長もあったし、筋繊維の密度も高かった」

「苦労してた訳だな」

「今は鍛えておいて良かったと思うよ」


 クローゼットの中には新しいシャツとジャケット、ズボンが入っていた。

 どうやらマナが用意しておいてくれたようだ。

 昨日は1日で駄目にしてしまったからな。

 今日は気を付けよう。

 でないと今度こそマナに呆れられそうだ。


 シャツを着て、ジャケットに袖を通す。

 ネヌファからの視線。

 またかよ。こんなの昨日もあったな。


「昨日も言ったが、似合ってないならはっきり言ったらどうだ?」


 俺はそう言うと、ネヌファの方に向き直る。


「えっ? に、似合って……いる、ぞ……」

「何だって? よく聞こえないんだが?」


 俺は歩み寄り、ネヌファの前に立つと、顔をずいっと近づけた。


「もう1回言ってくれないか?」


 ネヌファは伏し目がちに何やらもぞもぞしている。

 ほのかに顔が紅い。


「な、何でも……何でもにゃいっ!」


 ネヌファはそう言うと、風と共に消えた。


「変な奴だな」


 そうこうしていると、扉をノックする音。

 迎えが来たかな?

 扉が開くと、そこには親父の姿。


「ヴェイグっ! 準備出来たか?」


 今日も元気な人だな。

 そもそも、元気の無い所を見たことが無いか。


「はい。もう大丈夫ですよ」

「今日なんだがな、お前一人で行ってくれ」

「えっ? 一人でですか?」

「そうだ。兄上から昨日そう言われていてな」

「それなら、一人で行きますけど……」

「何も問題ない。殺されたりしないから安心しろ」

「逆に不安になるから、そういう事言わないでくださいよ」


 俺は呆れ顔でそう言った。


「もう待っているだろうから、急いで行ってこい」

「分かりました」


 部屋から出ようとする俺を、親父の大きな手が阻む。


「ヴェイグよ、我が息子よ。お前は進めばいい。その正義、成して見せよ」


 真剣な眼差し。真剣な声音。


「ありがとう。親父」


 俺はそう言うと、屋敷を後にし、魔王が待つ城へと急いだ。



 城の様子は昨日と変わらない。

 だが、今日は人の姿が多いな。

 城で働く者。

 城に来城する者。

 ここは街を運営する上での中枢でもある。

 普段はこうなのだろう。

 おそらく、昨日は兄上との戦闘を考慮して、出入りを制限していたってところか。


 ボロボロになってしまった中庭を修理する者の姿もあった。

 何かすんません。


 そんな事を考えていると、あっという間に俺は謁見の間の通路へと来ていた。

 真っ直ぐに続く紅い絨毯。

 等間隔に差し込む光。その先。

 扉の前に人が立っている。

 近づかなくても分かる、珍しい青い髪。

 あれは、確か。

 俺はその人物に歩み寄ると、恐る恐る話しかけた。


「えっと、確かマシィナだっけ?」


 近くで見ると、歳は俺とそんなに変わらないように見える。

 と言っても、俺の見た目の歳だけどな。

 今日は軽鎧を身にまとい、腰に帯剣もしている。

 でもこいつは言法使いだよな?

 しっかりとまとめられた青い髪は、後ろで一つに束ねられている。

 青い瞳は陽の当たる水面のようにキラキラと輝いていた。

 とても綺麗な人だ。


「いきなり呼び捨てとか、ほんと、死ねばいいのに」

「……ん?」

「聞こえませんでしたか? だから死ねば……」

「いやいや、大丈夫! 聞こえてるから!」


 分かってた。分かっていたさっ!

 俺の周りは綺麗で可愛い子が多いと思う。

 でも、まともな子はいないもんなっ!

 知ってたさっ!


 マシィナは表情一つ変えない。

 何なら瞬きも、いや、それは今したか。

 とにかく、ポーカーフェイスと言うか、超無表情。

 でも言っている内容的に感情が無い訳じゃないな。

 抑揚はないけど。

 また、変わった子かぁ……。

 ちょっと泣きそう。


「それで、マシィナは何でここに?」

「また呼び捨てですか? ほんとに死ねばいいのに。貴方が来たら一緒に中に入るように言われています。死ねばいいのに」


 眉一つ動かない。

 そりゃあもう、ピクリとも。

 ここまで来ると、ほんとすげぇな。

 何か罵られる、と言うか変な人間にはナリーシャで慣れたつもりだったが、これはこれで強烈だなぁ。

 もちろん、死ぬ気は無いですよ。


「……そっか。なら入ろうか」

「馴れ馴れしいですね。まだ死なないんですか? では、入りましょう」


 会話が難しい。

 同じ言語体系なのに、こんな事思ったこと無いわ。

 でも一応意思疎通は出来ているよな?

 綺麗な子だけど、なるべく関わらないでおこう……。


「ちょっ、勝手に扉開けて入っていいの?」


 気づけば謁見の間の扉を開けて入ろうとしている。


「入らないんですか? 死ぬんですか?」

「いや、入るけどもっ! 何その選択肢っ!」


 自由な奴だなぁ。

 マシィナの開けた扉を通り、謁見の間に入る。

 こんなに緊張感なく魔王に謁見する事になるとは。


 俺は不安だけを胸に、マシィナの後に続いた。

読んでいただきありがとうございました。

兄との戦闘の時に1度だけ会ったマシィナ。

どうやらとんでもない変わり者のようだ。

兎にも角にも、魔王から頼みを聞かねばならない。


これからも、どうぞ呉服屋をご贔屓に。

感想、評価、レビュー等々、励みになりますので、よろしくお願いします。

@_gofukuya_

呉服屋。

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