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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
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1章 31話

エルザァと名乗るオーガとの決戦は終わり、そこでヴェイグの意識は途絶えた。

最後に見た光景は、空一面に飛ぶ言法。

ヴェイグはどうなったのか?


読んでいただければ幸いです。

 遠くで、歓声が聞こえる。

 これは歓声……だよな?

 音は次第に近づき、歓声というより、喝采に変わる。

 だが、目が開かない。

 開かないのかすら分からない。

 ただ何も見えない。

 いったい、何がどうなったんだ?

 俺はあのオーガと戦い、そして、倒れた。

 それでもフィルスの短剣を抜いたことは覚えている。

 エルフィンドルから無数の言法が降り注ぎ、そのあとは、どうなった?

 俺は死んだのか?


 鳴り止まぬ喝采。

 うるさい。

 思考が、まとまらない。


「皆様! 我等の望みの担い手が、狂わぬ螺旋を歪ませた!」


 この、聞き覚えのある、聞きたくもない声は。


「身を焼く炎が敵を退けた! これは復讐の炎ではなく、希望の炎なのです!」


 下手くそが。

 勝手に決めつけるんじゃねぇ。

 この炎は、俺だけのものだ。

 他人に価値を決められるもんじゃねぇ。


「さあ皆様! いつまでも鳴り止まぬ喝采を!」


 いい加減にしろ。

 そんなものが欲しいから、命を張った訳じゃない。


「殺すぞ。駄神」


 視界が、いや、視界だけじゃない。

 感覚。五感をを含めた全ての感覚が一気に蘇る。

 まるで世界が、一気に広がったみたいに。

 椅子に、座っているのか?

 自分の手。

 自分の脚。

 ちゃんと、動く。


「やっと戻ったみたいだね」


 俺が視線を上げると、舞台上に男が一人。


 見た目はただの優男。

 黒のスーツに革靴。

 髪は肩ほどまで長く、常にニコニコと笑っているような、道化の仮面を付けている。

 もちろん初対面ではない。

 むしろ、殺意の対象だ。


「また茶番か? だが、お前が出てくるって事は、俺は死んでないのか」

「ご明察。こんな事で死んでもらっては困ります。君には世界を救ってもらわねばなりませんからね」

「言ってろ。そんなつもりは無い」


 自称神はやれやれと言った仕草をとる。


「それで? あの後どうなった? お前なら知ってるんだろ?」

「侮ってもらっては困ります。私はこれでも神ですよ? もちろん知っていますとも」

「もったいぶるな! さっさと話せ」

「全く。せっかちな男はモテませんよ?」


 再びやれやれという仕草をすると、仮面の神は舞台上をゆっくりと歩き出した。

 カツッカツッと、革靴の音がホールに響く。


「結果から言えば、君が短剣を抜いたお陰でエルフィンドルの勢力は魔族軍を壊滅させました。遠距離からの言法支援と、残存していたエルフ軍の突撃によって。被害が出なかった訳じゃない。それでも、奇跡的と言っていいでしょう」

「……そうか。勝ったのか」

「ええ。君のお陰でね。全くもって、見事だった」

「お前に言われると馬鹿にされてるみたいで腹が立つな」

「いやいや、本当に、心からそう思うよ。どうだい? エルフを救った感想は?」


 仮面の神は歩を止めると、俺へと向き直る。


「救ったとか、そんなつもりはない。ただあれが、一番勝算が高かっただけだ」

「まぁ、今はそれで十分さ」


 ーーサザッ。


 視界にノイズが走る。


「もう時間の様だね。もう少し君と話したいんだが」

「お断りだ」


 ーーザザッ。


 ノイズが酷くなる。


「あーそうだ。戻ったらちゃんと皆にお礼を言うんだよ。それと、周りからの謝辞は素直に受け取った方がいい」

「大きなお世話だ」

「年長者からのアドバイスだよ」


 視界が霞む。

 暗く、歪む。


「さぁ、光に向かって進めばいい。それでは、また近いうちに」


 仮面の神はそう言うと、視界から完全に姿を消した。

 目の前には光が見える。

 進めばいいって言われても、具体的にどうすればいいんだ?

 全然歩ける気がしないんだが?


 その時。微かに、誰かが呼んでいる気がした。


 誰だ?俺を呼んでいるのか?

 でも聞いたことがある声だな。

 そうだ。これはーー。


 俺は、光の方へと手を伸ばした。

 暖かい。

 まるで、陽だまりだ。



 ここは、妙に明るいな。

 眩しすぎて前が見えない。

 頬に感じる、気持ちの良い風。

 バサバサと何かが翻っている。

 これは、カーテンか?

 次第に目が慣れてきて、薄らと木目が見えた。

 天井。

 俺は、寝ているのか?

 右の手が暖かい。

 俺はゆっくりと身体を起こそうとした。


「いつっ!」


 身体のあちこちが痛い。

 それに、ギシギシと軋む。

 まるで石化したみたいに固まっているようだ。

 それでも左手で必死にベッドを押して、何とか身体を起こす事に成功した。

 結構苦労したが。

 ここは、エルフィンドルの俺の部屋?

 翻るカーテン。

 窓の外には、見慣れた、いや、少し違う風景が広がっていた。


「……ヴェイグ?」


 びくんと身体が跳ねた気がした。

 聞き慣れた声。

 暖かな右手の方向。

 軋む身体をゆっくりと動かし、声の方へと視線を移す。


 束ねられた綺麗な金髪。

 光が反射し、宝石さながらにキラキラと輝く緑眼。

 まるで人形の様に美しい少女がそこに居た。


「……ナリー、シャ……?」


 ぎこちない言葉が、俺の口から零れた。


 少女の瞳はより一層輝きを増し、口元が僅かに動く。

 張りのある唇が、震えている様に見えた。

 頬は紅潮し、桜色。

 眉は中央へ寄り、眉間にシワを作った。


 そして次の瞬間、大粒の涙が、零れ落ちた。


 顔をくしゃくしゃにして。

 大声を上げて。

 美しい少女は泣いた。

 俺はそれを見て、小さく微笑んだ。

次話あたりで1章が終了になるかと思います。

エルフィンドル編を読んでいただいた皆様、ありがとうございます。

物語はまだまだ続きますので、これからも呉服屋をどうぞご贔屓に。


Twitterのフォロー、ブクマ、評価、感想、レビュー等々励みになるのでよろしくお願いします。

_gofukuya_

呉服屋。

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