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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
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1章 27話

ネヌファの手助けで覚醒を果たしたヴェイグ。

目の前には、魔族軍。

圧倒的な不利の中で、それでもやることは唯一つ。

敵を排除し、フィルスの短剣を抜く。


楽しんで頂けたら幸いです。

 ゆらゆらと、炎が揺らめく。

 俺の身体を、生命を、燃やすように。

 もちろんこれは、アストラルの光。

 それが炎のように見えるだけ。

 それでも、俺には確かに熱を感じる。

 焼かれていく想い。

 焼かれていく心。

 いつかはこれが全身へとまわり、俺の身体は焼き尽くされるのだろう。

 それで構わない。

 それを、望んですらいる。

 復讐を遂げることが出来るのならば。


 拳の傷が、昔を思い出させる。

 血で固められたページを、無理矢理にこじ開けてくるようだ。

 そうして、俺は昔に戻る。

 それが覚醒とは笑えるがな。

 でも、これ以上の結果はなかったのかもしれない。

 俺は人間。

 魔族であっても、ただの人間だ。

 愚かで、浅はかで、思慮にかける、欠点だらけの生物。

 そんな俺に出来ることは、人生の大半を使って身につけた、殺しの術だけ。


 何が、劇の主役だ。

 見てるかよ?仮面の神。

 俺が演じれるのは、いいとこ敵A。

 悪逆非道の限りを尽くし、いつか正義の味方に倒される。

 ならばそれまで、やれるだけのことをやるだけだ。


 この覚醒は、本当の意味では成功なんかしていない。

 俺には分かる。

 恐らく、何らかの反動がくるだろう。

 その前にケリをつける。


 さぁ、開幕のベルを鳴らせよ。

 限界だ。

 衝動を、抑えきれない。

 戦いたい。殺したい。

 戦いたくない。殺したくない。

 もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 あいつらは、敵。

 俺の復讐の障害。

 殺らなきゃ、殺られる。

 それでも、無意味な殺生は駄目だ。

 無意味?笑わせるな。

 じゃあただ指をくわえて見てるのか?

 今まで散々殺したくせに。

 お前の後ろには、今まで殺した奴らがひしめいてる。

 お前を地獄に引きずり込もうとな。

 でも、首だけになったナリーシャも可愛いかもな。

 ふざけるな!そんなことはさせない。

 じゃあ排除だ。

 それしか道はないだろう?

 積み重ねてきた死が、お前の拳を重くする。

 でも殺すことは……。

 手心を加えれば、見逃してくれるとでも?

 それはありえない。

 正直になれよ。分かってるんだろ?

 取れる手段も、導かれる結果も、多くはないんだから。

 いつもそうだった、違うか?

 そうかもしれないが……。

 この状況で他の手段があるのか?

 お前は前世でも他の手段を取らなかったろ?

 迷っている暇はない。

 その間にも血は流れ、生命は奪われる。

 そうかもしれない……。でも、でも……。



「でもきっと、あいつらを殺ったら、気持ちいいんだろうなぁ……」



 抑えようのない感情が、溢れた。

 背骨を駆け上がる愉悦が身体を震わせる。

 歪に、口角が釣り上がる。

 俺は成長によって破れた上着を、勢いよく引きちぎった。


「形切流殺人術、乱風、留まれ。零之型、二番、操風・瞬迅」


 まさに、一瞬。

 目の前にはミノタウロス。

「思ったよりでかいな。それに毛深い。でも……関係ない」


 咆哮。

 正に獣。

 疑いようのない脅威。

 良い、開幕のベルだ。


「形切流殺人術、二之型、四番、凪刀凪刀(なぎがたな)


 手刀による、横薙ぎ一閃。

 咆哮は止まり、ミノタウロスの上半身は地面に叩きつけられた。

 立ち尽くした下半身から、噴水の様に血が吹き出す。

 手に残る感触。

 筋肉を切り裂き、骨を断ち、内臓を抉る。

 降り注ぐ生暖かい血液。

 なんという、快楽。


 今ので注意が俺に向いた。

 ここからは、スピード勝負だ。

 使えるものは全部使って、活路を開く。

 ショータイムだ。



 今、どれくらい敵を倒した?

 むせ返る血と臓物の臭い。

 視界は、赤一色。

 自分がどんな表情をしているのか、よく分かっている。

「形切流殺人術、風刃疾く駆け、薙ぎ払え。零之型、三番、隼」

 俺の手刀が空を切る。と同時に列を成していた魔物の身体が千切れ飛んだ。

 前世の形切流を改良し、言法にアレンジ。

 覚醒し、馴染んだ身体の構造だからこそ出来る無茶だ。

 今までの俺ならば、こんなこと容易く出来るはずもない。

 魔族軍は、散っていた魔物と魔族を俺の方に集結させつつある。

 層を厚くし、俺の進撃を阻むつもりだろう。

 だが、この程度の壁など、食い破る。

「形切流殺人術、震え、爆ぜろ。零之型、一番、振空」

 力強く踏み込んだ一歩。

 高密度の風を纏った一撃が、目の前の魔物の壁に穴を開けた。

 視界が開けた!

 隙を逃さず、流れるような歩法で敵の間を掻い潜る。

 刹那。

 横からの殺気。

 俺は身を捻り、その攻撃を躱す。

 だが、頬を大きく抉られた。

 鋭い槍さばき。

 見切ったつもりだったが、水の言法で槍の刃を自在に変化させている。

 これが、リザードマンか。

 左右から一体ずつ。

 槍による攻撃をギリギリのところで見切りながら、強化した掌と手の甲で捌く。

 流石に速い。隙もないか。

 一手一手が、重い。

 俺の脚が止まったのをみて、正面からケンタウロスが突進してくる。

 それに続いて魔物も迫る。

 物量で押し切る気か。

 右からの槍を背中でかわし、腕を絡める。

 古典的な武器破壊。

 左からの槍は掌で弾き落とし、踏みつけでへし折る。

 武器自体は奪った。

 この近距離だ。

 下手な言法は使ってこないだろう。

 だが問題は、正面からのケンタウロス。

 身体全身を重装備の鎧で包んでいる。

 いや、あれはグーデンさんと同じような土の鎧か。

 あの突進力は当ればただでは済まされない。

 強化していても、間違いなく致命傷。

 リザードマンは左右から挟撃。

 鋭い爪で襲いかかってくる。

 淡い光。強化しているか。

 それでも、単調な攻撃に変わりはない。

 俺は大きく息を吸い、腹に力を込めた。

「形切流殺人術、一之型、六番、旋雷」

 発勁を応用した肘打ち。

 インパクトの瞬間に更に回転を加え、突き刺さった肘が肉を捩じ切る。

「流技、二之型、二番、逆巻」

 流技とは、連携技。

 逆巻は居合の抜刀術を応用した手刀。

 逆袈裟から入った手刀が、リザードマンの鱗を容易く切り裂いた。

 残るは、ケンタウロス。

 時間はかけられない。

 一合。

 あの鎧と突進をものともしない一撃。

「流技、切り裂き、抉れ。零之型、四番、絶爪」

 高密度、高回転の風のアストラルを爪状に形成。

 突進をしてくるケンタウロスの横腹を、肉、骨、内臓まで抉り取った。

 走り抜けたケンタウロスは、崩れるように地面に伏した。

 止まれない。

 ただ、前へ。

 魔物の波状攻撃。

「そんなに死にてぇか? 雑魚に用はねぇ……。だが、死ねッ!」

 飛び散る血飛沫。

 骨を砕く鈍い打撃音が耳に残る。

 脳を、蕩けさせる。

 極度の緊張感。

 手強い敵。

 これ以上ない死地が、質の高い快楽を提供してくれる。

 溺れていく。


「やっぱり、お前は危険だなー」


 脇腹が、熱い。

 俺は咄嗟に振り返ると、そこには奴がいた。

 あの、オーガが。

 全く気づかなかった。気づけなかった。

 こいつは、手練だ。

 今までの奴らとは、纏っているアストラルが異質過ぎる。


「早速で悪いんだけど、死んでくれー」

戦闘に入ったヴェイグ。

手強い魔族軍を相手に、なんとか善戦する。

だが目の前に現れたのは、胸を指し貫いたオーガ。

間違いようのない手練。

ヴェイグはこの死地を切り抜ける事が出来るのか。


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_gofukuya_

呉服屋。

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