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序章 3話

3話目です。

序章の核心までもう少しですので、読んでいただけると幸いです。

 午後の日差しが照り返す、城の前の石畳。

 そこに人形のように美しい少女は立っていた。

「何をぼさっとしているのかしら。私の足を舐めたいのでしょう?」

 ……うん?

「ちょっと待ってくれ! 何故そうなった!」

 流石に焦りを隠しきれず、大声が出てしまった。

「人族のくせに、エルフ族の姫である私の足を舐める栄誉がわからないのかしら。この脚好きの変態が!」


 分からない。

 何故こんなに罵られているのか理解ができない。

 初対面だよな?

 そもそも僕は脚好きな覚えもないし、変態でもない!

「こらこら、ナリーシャ。そちらの少年は脚好きではないようだぞ」

 続いて馬車から降りてきたエルフの男性が、会話にすらなっていない会話を遮った。

「でもこの前の人間は喜んでおられましたわ。お父様」

 何やら少女は不思議そうな表情をしている。

「あー、あの人間は脚好きの変態だったんだろうねぇ……」


 何の話をしているのか、全く見当もつかない。

 というか、心底理解したくない。

 その人間は脚を舐めたのか?

 ……考えるのはやめよう。


 すると、お父様と呼ばれたエルフの男性が僕の方に向き直った。

「娘がいきなり迷惑をかけたな、人族の少年よ。」

 金髪、緑眼、長い耳。

 細身で背が高く、その手には緑色の宝石がはめ込まれた杖を握っている。

 お父様と言う事は、年齢はそれなりなのだろうが、その口調以外は全くそんな風には見えない。

「お父様! 私は迷惑など!」

 その人はナリーシャと呼ばれた少女の頭をポンッと杖で叩いてなだめた。

「この子はちょっと変わっていてな。悪気はないのだ」

 ちょっとなんて可愛いもんじゃないだろ!

 のびのびと育てすぎだなっ!

 なんて言えない。

「い、いえ。ちょっと驚いただけです……」

 そうこうしていると、城の入口の方から聞き慣れた大声が聞こえてきた。

「ダーシェ殿ぉー!!」

 まためんどくさい人が増えてしまった。

 ニヤニヤ親父の登場だ。

「おー、グウェイン殿。この度は会談をお受け頂き有難うございます」

 父上と握手を交わす。

「いやいや、これは双方に重要な事ゆえ、いい機会だと思いましたのでな」

 おやっ?と父上が僕の方を見てニヤニヤと顔を歪ませた。

 何かを企んでいそうな、いつもの顔だ。

「我が息子、ヴェイグが何か粗相をしましたかな?」

 わざとらしく息子を強調したな!

「息子? あぁ、この少年があの……」

 ダーシェと呼ばれたエルフが僕の方に歩み寄ってくる。

「君の事は以前にグウェイン殿から聞き及んでいる。人間の身でありながら、色々と辛い思いをしてきただろう……」


 意外だった。

 エルフは深い森の中に住み、独自の繁栄を築いてきた。

 長命であることもあって、俗世への関心も薄く、まして、他種族、他人種の事に構うような性格だとは父上からは聞いていなかったからだ。

「いえ、皆のおかげで幸せに暮らしていますので。ダーシェさんが考えている様な辛い思いなど、僕はしていません」

 単に僕が他種族に対して勉強不足なだけか?

「それにしても、魔族以外の他種族から魔族が産まれるなど、聞いたこともないのだがな」

「とても稀な事のようですね」

 すると、その会話を聞いていた少女が口を挟んできた。

「魔族? あなたは人族ではないの?」

「そうだよ。僕は間違いなく魔族だ」

 僕がそう言うと、流石の少女もかなり驚いた様子だった。

「それじゃあ、魔力生成器官を?」

「あぁ、持っている」



 そもそも、魔族とそれ以外の種族を隔てる決定的な差は、魔力生成器官と呼ばれるものをその身に有しているかどうかで決まる。

 この差により魔族の中では、魔族以外の種族を『 持たざる者』と呼んでいるのだ。

 本来であれば、言法を起動する際には必要な起動式を詠唱し、それによって誰もが体内に内包する魔力炉を起動する。

 その魔力炉が、大気中に存在する精霊が放つ魔力、通称『 アストラル』に干渉、吸収し、言法が発動する仕組みになっている。

 個人が持つ魔力炉の大小もそうだが、大気中のアストラルの濃度によって、言法の発動範囲、威力が制限されてくる。

 それに比べて魔族とは、魔力炉とは別に魔力生成器官というものを持っている。

 これはその名前の通り、自身の体内でアストラルを生成することが出来る。

 それにより、たとえ大気中にアストラルが存在しない場所であっても、ほぼ制限なく言法を発動することが出来るし、常にアストラルを生成し続けることにより、自身の周りに魔力斥力場、『 アストラルフィールド』を形成する。

 そのアストラルフィールドが、ある程度の物理的攻撃、言法による攻撃を軽減する仕組みになっている。

 これが魔族が強大な存在である理由であり、他種族から畏怖される理由だ。

 まぁ、魔力生成器官も、そんなに万能な訳ではないのだが……。



「本当に実在するとはな……」

 ダーシェさんは、何やら注意深く僕を観察している。

 その緑の瞳が、さらに鮮やかに輝いている気がした。

「まぁ何はともあれ、今は俺の息子だ。それ以上でも以下でもない」

 正直、その言葉はとても嬉しい。

「あぁ、健やかに育っていてくれて何よりだ」

 そう言うと、ダーシェさんは僕の肩をポンッと叩いた。


「気に入ったわ! そこの蛆虫、私の下僕になりなさい!!」

 今いい雰囲気だったのに。

 皆揃ってナリーシャの方をじーっと見た。

 流石の少女も一瞬たじろいだ。が。

「こ、光栄に思いなさい! 蛆虫がエルフの姫である私の下僕なんて、そうそうなれるものではないわ!」

 心が強いなぁ。

 もう本当に黙っていて欲しい。

 黙って居れば可愛い少女なのに。

 さて、この空気をどう処理しようか。

「そ、そうだ! 会談の準備が整っているのだった! ささっ、城の中へ」

 父にしては空気を読んだいい判断だ!

 今回ばかりは助かった!

「それではヴェイグ君。また会えるといいな」

 ダーシェさんはそう言うと、うだうだ言っているナリーシャの首根っこを引っ張って、父上と共に城の中へと消えて行った。

 何処かで見た光景だな……。


「まるで嵐だな……」

 なんだかどっと疲れた気がする。

 だが、ここで道草を食っている訳にはいかない。

 僕は気を取り直して言法の鍛錬に向かうのだった。


読んでいただきありがとうございました。

今週末までには序章をアップし終わる予定です。

辛抱強く読んでいただけると嬉しいです。

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