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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
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1章 19話

目を覚ましたかヴェイグが見たのは、攻撃を受けるエルフィンドルだった。

ダーシェさんに会うために、グーデンさんに支えられながら進む。

果たして、戦いはどのように進んでいくのか。

ヴェイグは、どのような選択をするのか。

楽しんで頂けたら幸いです。

 グーデンさんに支えられながら螺旋状の階段を上へと登っていく。

 その間にも魔族からと思われる攻撃が、街を守る結界に幾度となく命中し、空を紅蓮に染め上げた。

 時間の感覚などなかったが、今になって夜だという事に気づく。

 正直、そうだと分かるまでにかなりの時間を要した。

 それだけ攻撃は苛烈を極め、何より凄まじい量の煙が空を覆っていた。

 俺は胸を抑え、肩で息をしながらなんとか歩いている様な状況だ。

 戦場を思い出し、感情が昂ろうと、それどころではない。

 先頭で階段を登るのはマフィリア先生。

 結局一言も口を聞いてくれない。

 無理も、ないか。

 1番後ろにはナリーシャが付いてきている。

 身体を震わせるほどの轟音と恐怖に耐えながら、ほぼ意地で付いてきているのだろう。

 約束を、守れなかったからな。

 怪我をした俺の心配してくれているのだろう。……たぶん。



 かなりの高さまで登ってきた。

 おおよそ20メートルと言ったところか。

 エルフィンドルを一望出来るこの場所は、街の中心にそびえる大樹をぐるりと回るように造られた、いわば空中回廊。

 普段は街の住人も登ることが出来るが、一度戦闘になれば立ち入りは制限される。

 ここは、それだけ重要な防衛の要と言うことだ。

 やっとのおもいで登りきると、そこは幹を囲むように円形に造られた広場になっていた。

 息を荒らげながら周囲を見渡すと、広場に等間隔で言法使いが配置されている事に気付く。

 そして口々に言法を詠唱していた。

 恐らくは、街を覆う結界。

 その詠唱をしている事は容易に推察出来た。


 大樹の根によって形成される街を囲う自然の壁。

 その正門方向を向いて立っている人物。

 ダーシェさんを発見した。

 俺達がそちらに向かうと、ダーシェさんも気付いたようで詠唱を中断。

 こちらに歩み寄ってきた。


「ヴェイグ君。大丈夫かい?」

「はい。なんとか生きてるみたいですね」

 俺がややふざけたように言うと、ダーシェさんは苦笑した。

「とりあえず、よかった。そして黒い獣の討伐、見事だった」

 報告は受けていたようだな。

「必ず、ということでしたから。でもまぁ、このざまですけどね」

「君を死なせたら、グウェイン殿に顔向け出来ないよ」

 今度はダーシェさんがふざけたように言い放った。

「こんな所で死んでられませんから。心配をお掛けしました」

「なに。1番心配していたのはナリーシャだからね。そうだろう?」

 いきなり話を振られたナリーシャは、口をパクパクさせながら頬を赤らめた。

「な、ななっ! 何を言ってるんですかお父様!!」

「そうだぞ、小僧! ずーっと付き添っておられたのだからな。感謝しろ!」

 会話に割って入ってきたグーデンさんはそう言うと、大きな声で笑った。

 あたふたしているナリーシャ。

 こうして見ていると、やはり可愛いな。


「さて。戯れはここまでだ」

 ダーシェさんの一言で、空気が変わった。

 そりゃあそうだ。

 誰がどう見たって、雑談をしているような状況ではない。

 こういう会話が出来るということは、余程の自信があるのか。

 ……はたまた、腹を括ったのか。

 後者が、正解だろうな。

 魔族は、言ってしまえばこの世界の最強種。

 いくら言法に長けたエルフと言えど、油断できる相手では絶対ない。


「ヴェイグ君。あれが見えるか?」

 ダーシェさんは持っている杖で正門の、遥か向こうを指し示した。

 俺は支えられながら2、3歩前に出ると、示された方に目を凝らした。

 煙の合間に。炎の向こうに。

 霞んで見えるが、確かに光が見えた。

「あれは……フローライト?」

「そうだ。あそこに魔族の軍がいる。私の瞳には見えているよ。圧倒的なアストラルの流れが」

 ダーシェさんの瞳が輝きを増した。

 可視化の、緑眼。

 夜の闇で正確な距離は測れない。

 だが、単純に遠いという事は分かる。

 この距離で、この威力の言法を打ってくるのか。

 かなりの手練、もしくは特化した言法使いがいるな。

「恐らくは、中央方面軍の手の者だろう。いくつか、かなり強大な流れを感じる者がいる。指揮官か」

 ダーシェさんは冷静に、見えた事をありのままに語る。

「……何故、中央方面軍だと?」

 俺は疑問を臆することなくぶつけた。

「君を襲った魔族だが、グーデンに聞いたところ、オーガだったそうだよ」

 !!!!

 ……オーガ。だが、朧気な記憶では、メルカナで襲ってきたあのオーガではない。

 あのレベルがいるとなると、戦闘は一気にきつくなる。

 俺が戦っても、まず間違いなく殺されるだろう。

「オーガは、魔族の中でも中央方面軍に組みしている。だからだよ」

 それは、新しい情報だ。

 ……だが。

「中央方面軍は、人員、実力共に厚い軍だと父上から聞いています。でも何故今魔族が?」

 素朴な、だが本当に分からない疑問。

 と言うよりも、どれが理由なのか分からないというのが正確か。

「真意は分からないよ。南方方面軍と停戦条約を結んだ事が気に入らないのか。はたまたもともと邪魔な存在だったエルフを葬りたいのか。それともアストラルの恩恵を受けるこの土地が目当てか」

 そうだ、理由などいくらでもある。

 何かしらの大義を掲げ、大した意味もなく生命を奪う。

 どの世界でも、戦争なんてそんなものか。

 利益を得るのは一部の者。

 末端の兵士は、まるで息をするかのように人を殺す。

 それが当たり前かの様に。

 何の思考もせず、機械の様に。

 食事をしたり、買い物したり、睡眠をとったりするのと同じように、だ。

 そうでなければ、心が現実を受け止めきれずに、崩壊する。

 それが全てだとは言わないが、大抵の人間はそうだった。



「ヴェイグ君。君は逃げなさい」

 ……は?

「ここは戦場になる。この結界は優秀だが、長期戦になればいつまでもつか分からない。ただ、言法に対する結界に加え、物理的な結界も含んでいる為に発動している間は人の出入りが出来ない。だが、君の準備が出来次第こちらからも打って出る。その時に結界を解くから……」

「ちょっ! ちょっと待ってください! 俺だけ尻尾巻いて逃げろって言うんですか?」

 俺がそう言い放つと、ダーシェさんは真剣な眼差しで俺を見つめた。

「そうだ。どのみち、その怪我では足で纏いにしかならない」

「そうかも知れませんが……」

 俺は強く唇を噛み締める。

「その時に出来るだけ多くの住民を後方の森へ逃がすつもりだ。それと共に逃げなさい。もちろんナリーシャも一緒にだ」

「お父様っ!!」

 その言葉を聞き、ナリーシャからも声が上がる。

「私は残ります!」

「駄目だ! お前はこのエルフィンドルの希望だ。何としても生き残らなければならない」

「私も王族です! 王族が城を離れるなど、あってはならない事! 共に残ります!」

 真っ直ぐで、力強い眼差し。

 だが、その身体は小刻みに震えていた。

 怖くない訳が無い。

 誰も、死にたくはないのだから。

 それでも振り絞った、その言葉。

 強い意思。決意。

 これが、王族か。

 こういう人達が、国を治めていたのなら、どんなに良かったか。

 でも、だからこそ、死なせる訳にはいかない。

「分かりました。ナリーシャと共に逃げます」

「何を言ってるの! 下僕が口を挟むな!」

「ナリーシャッ! 逃げるんだ。君は死んじゃいけない」

 俺が声を荒らげると、ナリーシャの身体が一瞬跳ねた。

「ヴェイグ君の言う通りだ。ナリーシャさえ生きていれば、万が一でも国を再興出来る。それに、私が簡単にやられるとでも?」

 ダーシェさんはナリーシャの前でしゃがむと、優しく微笑んだ。

「……お父様は、エルフで1番の言法使いですもの! 負ける訳ありません!」

「そうだろう? ならば安心して逃げなさい。すぐに追い払ってみせますから」

 ダーシェさんは優しい微笑みのまま、ナリーシャの頭を撫でた。

「私達もいます。エルフィンドルは渡しません」

 グーデンさんも、低く、力強い声音でそう言った。

「故郷を手放すなど、あり得ませんから。王の言う通り安心してお逃げください」

 やっと、マフィリア先生も喋ったか。


 こんな状況だと、どう動くのが正解なのか分からない。

 それでも、今の俺は足で纏い。それは事実。

 一旦引くのが得策。

 ……ちくしょう。

 何の為に力を付けたのか。

 だが、ヴェイグとの約束は、果たす。果たし続ける。


「あと数時間で夜明けだ。視界が悪くては攻撃もままならない。明るくなったら打って出る。その時に逃げる。いいね?」

 ダーシェさんは諭すようにナリーシャに言った。

「……分かりました。無理しないでください、お父様」

「分かっているよ。いい子だ」

 ダーシェさんは立ち上がると、こちらに向き直った。

「最初の攻撃はマフィリア、君に任せる。やってくれるね?」

 それを聞き、マフィリア先生は跪く。

「はっ! お任せ下さい」

 先陣を切るのが先生?……なるほどな。

「それと同時に正門からグーデン率いる軍が突撃。魔族を撃破する」

「はっ! 必ずや敵を蹴散らしてご覧に入れます」

 グーデンさんは俺を支えたまま頭を下げた。

「期待している。それでは、ヴェイグ君とナリーシャは下がって逃げる準備を。グーデン、マフィリア、下まで送ってやってくれ」

 ダーシェさんがそう言うと、2人は再び頭を下げた。

「ヴェイグ君。ナリーシャを、頼む」

「分かりました。死なせはしません」

 俺はダーシェさんと最後の言葉を交わすと、支えられながら来た道を引き返した。


 見下ろすエルフィンドルの街。

 まさか、こんな事になるとは思ってもみなかった。

 それも、相手は同族。

 知識を、力を付けるためにここに来た。

 俺自身のために。

 本当に、それだけの理由だった。

 この街の人達は、いい人ばかりだ。

 死んでほしくない。

 心から、そう思う。

 ここにいるグーデンさんやマフィリア先生。

 もちろんナリーシャもだ。

 だからこそ、俺に出来る最善を尽くす。

 俺は悔しさを心の奥に必死に押し込め、ナリーシャを守ることを、自分の心と、ヴェイグに誓った。

読んでいただきありがとうございます。

ヴェイグはナリーシャと逃げるという選択を取りました。

これからエルフィンドルはどうなるのか。

戦闘の行方は。

激動のエルフィンドル編クライマックス。

楽しく読んでください。

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_gofukuya_

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