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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
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1章 16話

黒い獣と戦うグーデンさんとマフィリア先生。

決め手に欠ける戦闘の行方は?

ここから1章の佳境に向け話が動いていきます!

楽しんでいただけると幸いです!

 空気が、重く沈んでいく。

 気を抜くと押し潰されそうな程の殺気が、結界内を支配する。

 高密度のアストラル。

 高密度の殺気。

 胸がザワつく。

 今すぐ飛び出して行きたい気持ちを抑えるように、服の胸の辺りを強く掴んだ。

 口元の綻びが、戻らない。


 攻防は、まさに一進一退。

 どちらも攻め手を欠き、決定打を出せないでいた。

 俺の時とほぼ同じ。

 ただ、このまま長引けば消耗戦になる。

 そうなると一気にこちらが不利になるだろう。

 その証拠に、前衛の兵士が少しずつ削られている。


 よくやってはいる。

 それなりの装備も、準備もしてきているだろう。

 だが、獣の動きに付いて行けていないのが実情だ。

 簡単に倒せる相手ならば、エルフ最強など、この場には必要ないのだから。


「落ち着け! 盾を下ろすな!」

 グーデンさんの激が飛ぶ。

 しかし、兵士達の腕は盾から伝わる衝撃で上がらなくなって来ているようだ。

 それを見逃す敵ではない。

 一気に距離を詰めた獣は、爪の一撃で前衛を蹴散らした。


「させないっ!」

 再びマフィリア先生の剛弓が放たれた。

 矢の通った軌道が燃え上がる。

 だが見えない筈の矢を、獣はその爪で打ち払った。

 ……もう順応してきている。

 直線的な攻撃であるから、読まれやすくはある。

 だが、普通の魔物ではこうはいかない。

 やはり以前の記憶、意識が残っているからこその学習能力。

 これが、メウ=セス=トゥ。

 その生命尽きるまで、周囲に災いを振りまく兵器。

 厄介で、忌々しい禁法。


 獣は飛び上がり、グーデンさんへと襲いかかる。

 それをひらりと躱し、一撃を加えんと斧を振りかぶった。

「舐めるなぁ!」

 ガキィィン!

 またも鈍い金属音。

 獣は一つの腕で斧の一撃を止めた。

 咆哮をあげると、グーデンさんの斧を弾き、残りの腕で攻撃に転じる。

 獣は背中から生えた影と、自身の腕を合わせて計6本の腕がある。

 近接戦闘での回転率は圧倒的だ。

 だが、そこはエルフ最強。

 高重量の斧を軽々と振り回し攻撃を防ぐ。

 金属音と衝撃による火花が無数に舞う。

 しかし、これだけの至近戦。

 マフィリア先生の援護は期待出来なくなるし、他の兵士も守りに入ることは無謀になる。

 ギリギリでの攻防。

 獣とグーデンさんの咆哮。

 余りの衝撃に地面は抉れ、攻撃の余波が風圧となって振り撒かれる。


 やはり、グーデンさんは強い。

 俺は捌ききれなかったが、グーデンさんは完璧に捌いている。

 経験と、技量と、鍛錬の差か。

 俺も以前であれば、あの程度造作もない。

 単純に、この世界ではその域までは達していないということだ。

 弱いということが、歯痒いと思う日が来るとはな。


「おおぉぉおあぁぁあッ!!」

 グーデンさんが吠える。

 隙を逃さず、上段からの重い振り下ろしが獣の頭上に降りかかる。


 轟音。

 獣は辛うじて全ての腕でそれを防いだ。

 獣の腕を断ち切ることは出来なかったが、体勢は大きく崩れ、地面が大きく割れた。


「今だぁぁッ!」

「フラマ・アメト!!」


 一瞬の静止。逃す筈が無い。

 先生の言法が指先から炎へ変化し、敵を捉えた。

 影の腕が、宙を舞う。

 惜しい。

 あと拳一つ程で頭を捉えられた。

 堪らず獣が後方へ飛び退く。

 しかし、それは叶わない。


 好機と踏んだのか、グーデンさんはぴったりと獣に張り付き追撃。

 巌が高速で動くのだ。

 さながら、天変地異。

 大地は叫び、砕け、裂ける。

 大地の、怒り。

 他の兵士は既に結界ギリギリまで引いている。

 当然、邪魔にならない為だ。

 さぁ、ここで決め切れるか。


 俺の背筋を駆け上がる、快楽に似た何か。

 うっとりする程の強者。

 アレと戦ったら、楽しいだろうなぁ……。

 アレを殺ったら、どんなに……。

 俺は、もはや自分を無くしそうな程に見蕩れていた。


 グーデンさんの重い攻撃は徐々に、だが確実に獣の影を剥いでいく。

「らぁあぁぁあッ!」

 更に背中に生やした腕が宙へ飛ぶ。

 再生が、間に合っていない。

 その密度は明らかに落ちてきている。

 絶え間ない攻撃が、再生を上回る。


 圧巻。

 この言葉に尽きる。

 この世界に来て、強い存在は多く見てきた。

 親父も、兄貴も強いだろう。

 恐らくこのグーデンさんよりも。ずっと。

 だが、実際にこの目で見る強者の戦闘は、圧巻。

 世界は、強者で溢れているのか?

 このクラスの人物が、どの程度存在する?

 あくまでも敵対し、排除しなければならなくなったら、勝てるか?

 それが、人でも、エルフでも、亜人でも、魔物や魔族であっても。

 ……勝てるか?

 何を弱気な。

 今度は、負ける訳にはいかない。

 死ぬ訳には、いかない。

 繰り返す訳にはいかない。

 あの仮面が言うように、この転生に意味があるのならば、それを成し遂げるまで。

 この身を焼く、復讐の炎が消えるまでは。

 どんなに狂おうと、どんなに変わろうと、必ず。



 獣が吼える。

 だが、嵐の如き攻撃が止むことはない。

「大地を統べるアストラルよ! 我が呼びかけに答え、顕現せよ!」

 この斬撃の中で、詠唱!?

 やはりエルフ最強は、高い。

「刺し、貫き、眼前の敵を討ち滅ぼし給え! テラ・ハスタム!」

 詠唱終了と同時に、斧の柄を地面に強く突き刺す。

 それに呼応するように大地が隆起し、無数の槍となって獣を刺し貫く。

 詠唱の、イメージの通りに。

 薄くなった影では、流石に防ぎきれなかった様だ。

 黒い血液が、獣から吹き出た。



「我が身は弓。我が血は矢」


 異常に高いアストラルの波動。

 出処は、マフィリア先生。

 その手には、弓を持たず。

 その手には、矢を持たず。

 ただ、強く引き絞る、その仕草のみ。


「一度放てば天を穿ち、一度放てば地を穿つ」


 詠唱が続くにつれ、更に密度が高まる。

 綺麗な金髪は血のように赤く濡れ、瞳も紅く燃え上がる。


「一つ、二つ、三つ。数えてくびきを解き放つ」


 よく見ると、先生の右手からは血が滴っている。

 どうやら、脚に付けている短刀はこの為にあるらしい。

 この、異常としか思えない言法を使用する為に。

 やがて血は巨大な弓に、矢に変化し、禍々しさを称え、キリキリと音を立てる。

 今まさに、放たれんが為に。

 あれは、どう見てもヤバイ代物だ。

 高すぎるアストラルが肌をビリビリと刺激する。

 確信する。

 あれならば、必ず獣を仕留められる。


「マ、フィ……マ……マフィ、リア」


 微か。

 だが俺の耳にも確かに。

 そう、確かに聞こえた。

 一帯に充満していたアストラルが、消えた。

 先生の言法は、淡い光と共に消滅。

 髪も、瞳も、元に戻る。


 まるで磔にされた姿の黒い獣。

 その身体から影が剥がれ、その下の素顔が露になった。


「……あ……あぁ……」

 グーデンさんから情けない声が漏れた。

「マ、マフィ……リア」

 はっきりと。

 千切れた手を伸ばし、はっきりと先生の名を呼ぶ。

 固まった様に、弓を引く動作から動かない。

 その先生の瞳から、涙が流れた。


「……ギル、セム……」


 考えられる中で、最悪なシナリオ。

 台無しだ。

 今までの戦闘も。

 ここに来るまでの準備も、鍛錬も。

 グーデンさんの、マフィリア先生の気持ちも、全部。


 俺の胸の高鳴りは消え失せ、深い、深い怒りだけが、支配した。

読んでいただきありがとうございます!

前書きにもあるようにこの辺りから1章の佳境へと向かいます。

戦闘の行方にご注目下さい!

Twitterのフォロー、ブクマ、レビュー、評価等々、よろしくお願いします!

_gofukuya_

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