表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
22/93

1章 15話

前回から黒い獣討伐作戦に入り、今回は戦闘へと突入していきます。

リベンジに燃えるヴェイグ。

しかし、一先ず戦闘へは参加しない。

グーデンさん率いる精鋭部隊とマフィリア先生が黒い獣と対峙する。

これからどのような展開になるのか。

グーデンさんとマフィリア先生の活躍にもご期待下さい。

 エルフィンドルを出発した討伐部隊は、大精霊の森に脚を踏み入れていた。

 出陣式が盛り上がり、予定の正午よりもやや遅れた出陣になったが、そんな事は些細な問題だ。

 行軍の先頭にはグーデンさんの姿が見える。

 大きい人だから、意識しなくても視界に入ってくるのが実際の所だ。

 その後ろから二列縦隊で精鋭部隊が続く。

 ガシャンガシャンと甲冑を揺らしながら一定の速度で行軍をしている事からも、十分に鍛えられていることが分かった。

 かなりの重量の筈だ。

 まだ街を出て1時間程だが、疲れている様子は見て取れない。

 流石はグーデンさんの直属部隊だ。

 そして最後尾。

 副官であるマフィリア先生と俺、という編成で森を進んでいる。


 昼間ではあるが、高く生い茂る木々によって光が遮られ、薄暗く感じられる。

 気温もやや肌寒い程度。

 当然、道という道はなく、背の高い植物を掻き分けながらの行軍だ。

 だが、先頭のグーデンさんが巨大な斧で切ってくれているお陰で、だいぶ楽なものだが。

 これから戦闘だと言うのに、呆れるほど元気な人だ。


 前回俺が戦闘した場所よりも深い場所まで入ってきているが、いったい何処まで進むのだろう。

 俺は知らされていないが、戦闘を行うポイントも絞って来ているらしい。

 万が一の事を考えて、街から少しでも離れるつもりだろうが。

 それにしても、異常な程に静かだ。

 風に揺れる木々のざわめきは聞き取れるが、普段いる森の動物達の姿が見えない。

 小鳥の1羽も見掛けていない。

 余所者の俺が感じるのだ、森と共に生きてきたエルフが感じない道理はない。

 その証拠にグーデンさんも、先生も、一言も発していない。

 明らかに、警戒している。

 この行軍、道中で奇襲を受けることは想定していないだろうからな。

 あくまでも、主導権はこちらでなければならない。

 予定のポイントまでは何としても強行するつもりだろう。

 今は余計なことは考えず、同行するのが賢明なようだ。


 更に1時間程が経過。

 辺りは先程よりも薄暗く、蔓が枝という枝に絡まり、鬱蒼としている。

 不気味、という言葉がしっくりくる様相だ。

 もちろん動物の姿はなく、部隊の足音以外は何も聞こえない。

「止まれ!!」

 唐突にグーデンさんが部隊の進行を止めた。

「各所に展開、急げ!」

 その指示により、兵士達は散開する。

 先生と俺が先頭付近まで進むと、目の前はそびえ立つ岩の壁になっていた。

 その高さは、控え目にも20メートルはあるだろうか。

 周囲も程よく拓けており、追い込むのであればいい場所だろう。

 空を仰ぐように壁の上を眺めていると、グーデンさんが俺の方へと歩み寄って来た。

「ここで迎え撃つ。日没まではおよそ1時間半。その前にできる準備をしておく」

 迎え撃つ、か。


 疑問ではあった。

 黒い獣を誘き寄せるにしても、探し当てるにしても、どうするつもりなのかと。

「何故、この場所なのですか? 確かに悪い場所ではないと思いますが」

 俺は素直に疑問をぶつけることにした。

「この森で身を隠せる場所は幾つかある。この近くにも洞穴があり、調査の結果、そこが最も有力な潜伏場所だと断定した」

 なるほど、地の利はこちらにある訳だ。

 この2ヶ月、無駄に過ごす訳が無い。

「迎え撃つとは、どのように?」

 根気強く待つ訳ではないだろう。何か方法がある筈。

「王に助言を賜った。あの獣は高密度のアストラルに反応すると。この周辺で言法を使用すれば、必ず現れる」

 こちらに有利な場所に誘い込めるということか。

 あの時も、俺は言法の鍛錬をしていた。

 あながち嘘という訳でもない。

「小僧もできる準備をしておけ。完了次第始める」

「……分かりました」

 グーデンさんの表情、言葉から闘志を感じ取れる。

 強者の、上質な闘志。

 止めてくれよ。昂るじゃないか。

「私も準備に入ります。ヴェイグも怠らないように」

 先生はそう言うと、グーデンさんと共に俺の元を離れていった。


 準備と言われても、俺には特別必要ない。

 武器を使う訳でもないし、事前に準備はしたしな。

 強いていうなら、少し腹が減ったくらいか。

 それでも、柔軟くらいはしておくか。

 俺は申し訳ない程度に柔軟をしながら、周囲の様子を観察した。


 グーデンさんは先生と最後の打ち合わせ中。

 部隊の人達は周辺の木に何かを括りつけている。

 紐?の様なものかな。

 何に使うつもりなのかは分からない。

 正直、さほどの興味もない。

 観察した結果、不自然な点に気づいた。

 直属の部隊は甲冑を身に纏っているのに、グーデンさんは驚く程に軽装だ。

 簡易な皮鎧。

 目立つのは巨大な斧くらいなものだ。

 あの巨体で回避重視の戦法を取る筈が無い。

 何か策があるのか。見ものだな。

 身体が徐々に温まっていく。

 それと同時に、心地の良い緊張感、高揚感が込み上げる。

 まだ。まだまだ。

 俺が出る必要はないかもしれない。

 それでも。

 俺は、身体の内から漏れ出しそうになる殺気を必死に抑えた。


「総員整列!」

 ……いよいよか。

 グーデンさんを中心に部隊が整列した。

「これより、討伐作戦を開始する! ここで食い止めなければエルフィンドルにも被害が及ぶかもしれない。それだけは避けねばならない。総員、気を引き締めて対応しろ。誰一人、死ぬな!!」

「はいっ!」

「持ち場につけ!」

 部隊は左右に布陣し、背に装着していた盾を装備。

 腰の剣を抜刀した。

 先生と俺も別々に左右に展開し、戦闘態勢を整える。

 その中央。

 一人残ったグーデンさんは、壁を背にして斧を手に取った。


「大地を統べるアストラルよ。我が呼びかけに答え、顕現せよ。我が身を土に。我が身を岩に。不動の力を与えたまえ! テラ・アルミス!!」


 グーデンさんの詠唱と共にその全身が淡い光に包まれた。

 小刻みに、大地が揺れている。

 その揺れは次第に大きくなり、周囲の木々も激しく軋んだ。

 続いて身体の内を揺さぶるような低い轟音と共に、グーデンさんの足元が深く抉れる。

 次の瞬間、視界を奪う土煙。

 俺は咄嗟に目の前を腕で覆った。


 岩。

 大地そのもの。

 暗がりの中にそびえる、淡く輝く堅固な巌。

 何という練度。

 何という密度。

 脈動する、大地の鎧。

 これが、エルフ最強。

 俺の引きつった頬を、冷や汗が流れた。


「フローライト、放てぇっ!」

 グーデンさんの号令と共に、布陣した部隊から光の玉が放たれる。

 周囲は昼間同然の明るさ。

 黒い獣がアストラルに反応するならば、十分過ぎるお膳立て。

 さぁ、来い。


 それは、ほんの数分の事だろう。

 だが、長い。永い。

 この場にいる全員が、固唾を呑んだ。


 一瞬の揺らめき。

 一瞬の違和感。

 それは、確かに現れた。

 森の奥。光に照らされて生じた影とは別の。

 異質な影。

 鞭の様にしなるそれは瞬く間に伸縮し、巌目掛けて放たれた。

 だが、影の鞭はグーデンさんに捕えられ、強烈な力で引き寄せられる。

「おぉーらぁっ!!」

 引き寄せられた獣は大きくグーデンさんを飛び越え、そびえ立つ壁に激突した。

「今だぁっ!」

 合図を出すと、部隊の兵士は詠唱を開始。

 先程木に括りつけていた紐から高密度のアストラルが放出された。

 なるほど、あれは結界か。

 あの紐は、俺がナリーシャに貰ったものと似たものだ。

 元々、アストラルを込めて編まれたものなのだろう。

 こんな使い方が……。


 黒い獣は既に体勢を立て直し、低い唸り声をあげていた。

「そう簡単にここからは出さん。覚悟してもらおう」

 30名の兵士達はグーデンさんの前方に布陣。

 盾を構え、前方から側方までの攻撃に備える。

 布陣のかなり後方。結界ギリギリにマフィリア先生。

 弓に矢を番え、今まさに強く引き絞ろうとしている。

 中、長距離からの援護射撃。

 そして、そのちょうど中間。

 威風堂々。

 渾身の一撃を与えるべく、隙を窺う最大火力。

 悪くない。お手並み拝見。

 俺も後方へと下がり、戦いの行方を見守ることにした。


「行くぞーっ!!」

 グーデンさんの咆哮と同時に前衛の兵士が突撃する。

 獣も咆哮をあげ、4本の影の鞭をバネのように縮めると同時に、前方に向けて一気に解き放つ。

 相も変わらず、早い。

 先端の速度は、通常生物の知覚の外。

 兵士達は盾を構えると、鞭の一撃を受け止めた。いや、受け流した。

 上手い。

 盾に角度を付けて上方に逸らしたのか。

 まともに受ければ、盾ごと串刺しになっていただろう。

 これにより、獣の正面に一瞬の隙が生まれた。


「疾く駆けよ、我が火焰。烈火を纏いて敵を穿て」

 マフィリア先生の詠唱。

 黒い獣の隙を見逃さず、射線の通る的確な位置に移動していた。


「フラマ・アメト!」


 矢が指先から放たれた瞬間、それは炎に変化した様に見えた。

 轟音。

 軌道上が燃え上がる。なっ?命中、した?

 いったいどうなった。

 途中で明らかに加速した?

 速、すぎる……。

 放った直後は問題なく認識出来ていた。だが、途中からは全く見えなかった。

 その燃える軌道が残ったからこそ、何とか理解できる。そこを矢が通ったのだと。

 何という、剛弓。


 先生の放った矢は、恐らく獣の左肩に命中。

 その勢いのまま、後方の壁に突き刺さっていた。

 推測は当たっているだろう。

 何故なら、拳大の穴が獣の左肩に空いているからだ。

 獣は、何が起こったか分からないと言った様子。

 それも当然。

 傍から見ていた俺にだって理解できない。

 そして、その隙を見逃さない人物が、1人。

 既に獣の真正面。

 あの巨体、あの質量で、あの速さか!

「もらったぁーーッッ!!」

 アストラルによって強化された斧が、黒い獣の胴体を捉えた。


 ガキィィイィィンッッ!

 まるで、金属と金属をぶつけたような衝撃音。

 獣は後ろへと飛び退き、地面に着地。

 攻撃は、通らない。

「この程度では、傷も付かないか」

 グーデンさんが言葉を漏らした。

 そう、あの影は見た目以上に頑丈だ。


「斬撃の瞬間、胴体に影を集中して密度を上げたのか。……いいねぇ」

 俺の口元が、緩む。


 獣は、威嚇するように喉を鳴らすと、4本の鞭を手の形へと変化させた。

 見ただけで分かる。かなりのアストラルを練り込んでいる。

 どうやら、ここからが本番のようだな。


 部隊も体勢を整え、先生も2本目の矢を弓へと番えた。

 もっと。もっと見せてみろ。

 お前の力を。その限界を。

 湧き上がる興奮を抑えることも忘れ、食い入る様に戦闘を見つめていた。


 早く、早く。俺と殺ろう。


 前衛部隊がじわり、じわりと距離を詰める。

 2度目の交錯が、始まる。

 グーデンさんが斧を肩に担いだ。


「その首、貰い受ける」

読んでいただきありがとうございました。

戦闘回、開始です。

とりあえずは戦闘に参加しないヴェイグですが、グーデンさんとマフィリア先生で討伐する事が出来るのでしょうか。

次の話も読んでいただけると幸いです。

Twitterのフォロー、ブクマ、評価等々、よろしくお願いします!

_gofukuya_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ