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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
20/93

1章 13話

毎度遅くなりすみません。

1章の13話になります!

ネヌファとの鍛錬もこの話で終了になります。

次の話からいよいよ黒い獣討伐作戦が開始されます。

これから加速していく戦闘をお見逃し無く!

 固有詠唱を用いての鍛錬は、思ったよりは順調に進んでいた。

 もともとこちらでないと上手くいかないのだから、当然と言えば当然だが。

 今まで通り想像力を養うために瞑想を行っているが、その時間は短縮され、実践的な言法鍛錬に当てる時間が多くなっていた。

 あの時、ほとんど無意識に打ったあの技を自分のものにする。

 その鍛錬も続いていた。

 あのままでは周囲に甚大な被害をもたらしかねないし、ネヌファが言っていたように、自分自身をも脅かしかねない。

 適切な想像の力と、アストラル操作能力が要求されていた。

 それに、あの技はアストラルを大量に消費する。体内に取り込み、変換したアストラルを1度に全て放出してしまう。

 正直に言って、燃費の悪い技なのは否めない。

 その点も含めて改良の余地はあるが、あの技だけではなく、他の技も習得しなくてはならない。

 攻撃面では、あの技、振空があればあの影の守りを崩すことは出来るだろう。

 一先ず、未熟ながら振空は完成という事にするしかない。

 あとは、なるべく素早く距離を詰めるための技が必要だ。完全に必須条件だ。

 だがそれも、苦戦続きではあったが完成に近づいていた。

 作戦決行は、明日。


「違う違う! もう少し厚みを持たせないとすぐに技が解けてしまうぞ」

 宙に浮いているネヌファから激が飛ぶ。

「はい! もう1度やってみます!」

 俺は集中して想像を固めると、固有詠唱を開始した。


「形切流殺人術、乱風、留まれ」

 魔力炉の稼働を確認。

 もう随分慣れた熱の感覚が、身体中を支配していく。

「零之型、2番、操風・瞬迅」

 俺がそう詠唱すると、両の脚に風がまとわりつく。

 それも、一方向だけではなく、何方向にも旋回し地面の砂を巻き上げた。

「よし! 今度の厚みは十分だ。そのまま直進して10メートル先で停止しろ」

 ネヌファの指示通りに河原を直進しようと試みる。


 ただ直進して停止。

 単純な動作だが、それに伴うアストラル操作はそれほど単純な話ではない。

 前方への推進力を生むために、地面を蹴ると同時に後方へ風を展開。

 停止する際は、その逆の風を発生させつつ、身体が投げ出されないように多方向の細かな風の操作をしなくてはならない。

 普段歩行を行う生物がほぼ無意識に行っている、足の裏での微妙な体重移動を、意識的に行わなければならないのが難点だ。

 言葉で言うほど、頭で理解するほど生優しくははい。


「行きます!」

 俺は覚悟を決め、右脚で大地を蹴った。

 後方へ風を展開。

 もう少し強く。

 よし、靴底の摩擦で停止を始める。

 それと同時に前方に風を展開。

 右に体重が流れそうになる。

 やや右寄りに風を展開。

 後方への操風を少しづつ弱めながら、前方への風を強める。

 左右にもバランスよく風を。


 気づいた時には、俺は10メートル先に停止していた。

 物凄い破裂音と共に。

 後ろからの強烈な突風。

 河原の砂利が勢いよく舞い上がり、一瞬の静寂の後、地面へと次々に叩きつけられた。

 元いた場所に視線を向けると、俺が通った場所だけが深く抉れていた。

 成功、したのか?


「成功だな。それにしても、凄まじい。私の目でも追いきれなかった」

 ネヌファのその言葉を聞いて、初めて成功したのだと実感した。

「どうした? 間抜けな顔をして」

「いや、成功したんですか? 全然実感がなくて……」

「直進以外の操作はまだ無理だろうが、それでも十分だろう。この速さについて来れる奴はそうはいないさ」

 言い様のない達成感が身体を駆け上がり、全身を震わせた。

 何時ぶりだろう、こんな気持ちになるのは。

「よくやった。作戦前にやれるだけの準備は出来たな。まだ不安は残るが、それはこれから練度を上げていけばいい」

「ありがとうございます。ネヌファさんがいなければ、ここまで来れなかったと思います」

 俺は深々と頭を下げた。

 ネヌファも満足気な表情をしていた、と思う。

「お前が頑張ったんだ。私も正直驚いているよ」

 ネヌファはそう言うと、大地へと降り立った。

 もう日が沈みかけていて、綺麗な夕日がネヌファを照らしていた。

「2ヶ月間、よく頑張ったな。明日からの討伐作戦、私も期待している」

「はい。必ず、この森から脅威を取り除いてみせます。例え相手が誰であろうと」

 俺は真っ直ぐにネヌファを見つめた。

「誰であっても、か。いいだろう。無事に討伐を果たせたら、褒美を取らせる。その時はまたこの河原に来るといい」

「褒美ですか? 厳しい鍛錬とかじゃないですよね?」

 俺がそう言うと、ネヌファは優しく微笑んだ。

「それはその時のお楽しみだ」

 俺もネヌファに向って微笑む。

 夕日に照らされたネヌファの黒髪が、キラキラと輝いていた。

「それでは、行きますね」

「あぁ。行って、倒してこい!」

「はいっ!」

 俺は再び頭を下げると、2ヶ月間の思い出の詰まった河原を後にした。



 城に戻ってくると、いつも通りに日が暮れる。

 俺はそのまま食堂に向かった。

 城の中は思ったよりも静かで、人の姿もまばらだった。

 嵐の前の静けさ、というやつか。

 中央階段を上り食堂にやって来ると、そこには誰の姿もなかった。

 俺が席につくと、使用人が料理を運んできてくれた。

 俺は誰もいない食堂で、ただ、淡々と料理を口に運んだ。

 詰め込めるだけ、詰め込む。

 俺の意識は、すでに明日に向いている。

 戦うかは分からない。

 でも、正直な所、戦いたくてしょうがない。

 あの時の続きを。

 あの獣は、俺の前に立ち塞がった。

 俺が倒さなくてはならない、俺の敵だ。

 身体の奥から、ふつふつと闘志が湧き上がってくるのを感じる。

 早く、再びと。


 食事を終えた俺が食堂から出ると、そこにはダーシェさんがいた。

「ヴェイグ君。ここにいたのか」

 どうやら探していたようだな。

「ダーシェさん、こんばんわ。何か御用ですか?」

「いや、明日のことで、少しね」

 明日の作戦、1番心配しているのは、おそらくダーシェさんだろうからな。

 廊下の窓からは、優しい月明かりが零れてきていた。

「会議でも言ったが、明日の作戦が成功するかはヴェイグ君にかかっていると思っている。君が戦闘する、しないに関わらずに」

 その表情は、真剣さを帯びていた。

「何らかの不測の事態が起きた時は、ヴェイグ君の判断に任せる。どうか、皆を頼む」

 俺はその言葉に笑顔で答える。

「大丈夫です。マフィリア先生も、グーデンさんも万全の準備をしていると思います。俺はできる範囲でサポートしますから」

「私もそう思っているよ。それでも、君にだけは私の意向を伝えておく」

 意向?俺だけに?

「何があっても、黒い獣の討伐は優先。必ず作戦を完遂すること。客人である君にこんなことをお願いするのはお門違いだが、許して欲しい」

「つまり、必ず殺せ、と」

 ダーシェさんはやや俯いたが、俺の方を真っ直ぐと見つめ直した。

「そうだ。必ず殺せ」

 俺は口の端を吊り上げた。

 ダーシェさんの表情が、一瞬凍りつくのが分かった。

「あぁ、すみません。悪い癖で。その意向、必ず遂げてみせます」

 俺がそう言うと、ダーシェさんは一つ頷き、廊下の奥へと消えていった。


 いけない。いけない。

 悪い癖も程々にしないとな。

 昂る鼓動を堪えながら、俺も自室に戻った。



 部屋の窓からも、月明かりが入り込んで来ている。

 その光に照らされながら、俺はベッドに横たわっていた。

 なかなか眠りにつくことが出来ない。

 理由は、分かりきっているが。

 静寂が支配する自室で、俺は自分の鼓動が高鳴っているのを感じていた。

 すると、扉の外から足音が聞こえてくる。

 俺の部屋の前で、止まったようだ。

 俺は寝転がったまま、扉に視線を移した。


 コンッコンッ。

 扉をノックする音が聞こえる。

「あの……ヴェイグ、起きてる?」

 それは、ナリーシャの声だった。

 あの食堂での一件から、ナリーシャの姿は見ていなかった。

 俺はベッドから身体を起こすと、扉の方へと歩み寄った。

「起きてますよ。今扉を開けますから」

「いいっ! このままでいいから、聞いて」

 ナリーシャはそう言うと、詰まりながら、言葉を続けた。


「あ、明日から……討伐作戦なんでしょ? やっぱり、行くんだよね?」

「ええ。行きます」

「危険、なんでしょ? また、怪我するかも……」

「それでも、行かなければ」

「なんで……なんでヴェイグがそこまでしなくちゃいけないの? お前は、私の下僕でしょ?」

「そうですね。俺は貴方の下僕ですよ」

「じゃあ、命令するから、だから、行かないでよ……」

「それは駄目です。これは王命ですから」

「主人の命令に、逆らうの?」

「はい。逆らいます」

「な、なんでよ。なんでいうこと聞かないの……」

「貴方の為です」

「……え?」

「あの獣を討伐しなければ、この街も危険に晒されます。そうなれば、貴方にも危険が及ぶ」

「でも、ヴェイグがやる必要は……」

「守りたいんですよ」

「守り、たい?」

「そう、今度こそ、守ってみたいんです」

「……」

「俺を信じて、守らせてくれませんか?」

「怪我、しない?」

「はい」

「絶対?」

「はい」

「絶対に、絶対?」

「はい。だから、大人しく待っていて下さいよ、お姫様」

「……分かったわ、信じる」


 ナリーシャは、時折涙声になりながら、話をした。

 震えているのが、言葉からでも分かった。

 嘘は付いていない。

 守ってみたい。

 こんな俺でも。壊れている俺でも。

 何かを守れるのだと。

 その事実が、切実に欲しい。


「おやすみ。ヴェイグ」

「はい。おやすみなさい」


 ナリーシャの足音が遠のいていく。

 危険な目には合わせない。

 エルフの皆も、ナリーシャも。

 今度こそ。今度こそ。

 俺の鼓動は、静かに、脈を打っていた。


読んで頂きありがとうございます!

前書き通り次からは討伐作戦に入っていきます。

色々な思いが交錯していく話になってくると思うので、どうかご期待ください!

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_gofukuya_

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