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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
19/93

1章 12話

1章の12話です。

今日も今日とてネヌファとの鍛錬です!

そろそろ黒い獣討伐作戦も迫り、鍛錬も大詰めを迎えていきます。

ヴェイグは属性言法を自分のものに出来るのか?

楽しんで頂ければ幸いです!

 ネヌファとの鍛錬はそれから毎日、俺の体力、気力の尽きるまで行われた。

 内容は想像力強化の為の瞑想がメインで、鍛錬の7割がこれに費やされる。

 やはり、ここが重要なポイントのようだ。

 それが終わると、手当り次第に風の言法を放ち続けた。

 具体的な想像には高い集中力が必要とされ、アストラルを通してそれを現象として再現する事は、更なる精密な操作が要求された。

 頭で描いたものが、正確に発動されないもどかしさ。

 アストラルを操作する事の難しさ。

 言葉以上の疲労が俺を襲った。


 アストラルは、大気中に舞う精霊から生じるエネルギーだと言われている。

 精霊に、ある一定の意志があったとしても、それから生まれるアストラルには意志が無いものだと、少なくとも俺は考えていた。

 だが、実際に意識して操作してみると、良く分かる。

 それを生み出した、精霊の意志の残滓とでも言うべきか。

 アストラルにも意志はある。

 俺の想像とは違う動きをする。

 言法というものを甘く見ていた事は、否めない。

 おそらくは、これを高い精度で行う事が出来るの者は精霊に愛されており、その愛というものは、適性として表現されているのだろう。

 元々細かい作業は向かない性格だったせいか、正直苦戦していた。

 自分としては納得いかない出来の言法を、闇雲に打ち続けた。

 何度も、何度も。

 だがネヌファ曰く、これが一番の近道だと言う。

 想像の鍛錬。

 そして、限界まで魔力炉を酷使する事での上限の押し上げ。

 要は、魔力炉の容量増加。

 それを毎日こなしながら、あっという間に1ヶ月が過ぎようとしていた。



「ヴェイグよ。何やら不満がありそうだな。よい、言ってみろ」

 ネヌファが唐突に俺に問いかけた。

 別に不満がある訳じゃない。

 俺だけでは何をしていいか分からなかったし、少なくとも充実した鍛錬を行っている。

 だが……。

「正直言って、アストラル操作に限界を感じています。思ったように言法が発動した事は、1度もないですから……」

 ついつい弱音を吐いてしまった。

 でも、この程度なら、誰でも出来るだろう。

 やはり適性があっても、才能がないのだろうか。

 ネヌファの方を見ると、なるほどなといった表情をしていた。

「私は嘘は好かない。だから正直に言おう。ヴェイグよ、お前の言法の才能は決して高くない」

 ……やっぱりか。

 薄々分かっていたが、流石に少し凹むなぁ。

「だが、アストラル操作自体は悪くない。むしろ、才能あるだろうな」

「いや、今才能ないって言ったじゃないですか。どっちなんですか」

 俺が肩を落としながら言うと、ネヌファは一歩俺の方へと歩み寄った。

「お前から何か言って来ると思ったんだが、どうやら言う気が無いらしいからはっきり問おう。ヴェイグ。何か隠している事があるんじゃないか?」

 隠している事?

 別にこれと言って無いが。

「お前は一見才能がある様に見える。だが、アストラル効率が致命的に悪い。現象としての再現度は、お前が納得していなくても十分なものだ。それよりも、無駄が多すぎるんだよ。魔力炉で十分なアストラルを練ったとしても、発動の際に4割近くを無駄にしている。これははっきり言っておかしい。あまりにも馬鹿げている。何なら、わざとやっている様にすら見える」

 ジリジリと俺との距離を詰めるネヌファ。

「本来ならばもっと威力が出たり、あと数回、十数回は言法を放つことも可能な筈だ。操作自体も、もっと精度が上がる筈なんだ。お前は何を隠している?」

 気づくと、ネヌファの顔が俺の目の前まで来ていた。

 綺麗だ。

 肌のキメが細かいし、唇も柔らかそう……じゃない!

 隠している?

 変換効率が悪い?

 そんなこと言われても心当たりが……あ。

 別に忘れていた訳じゃない。

 ちょっと必死だったから、失念していたと言うか、なんと言うか。

 もともとそっちにアレンジするつもりだったし、忘れるはずも無い。

 そうだよ、嫌だなぁ。わざとじゃないさ。

「す、すみません。別に隠していた訳じゃないんですが……」

「何だ。言ってみろ」

 だから顔近いって!

 それに、胸がけしからん!

 こ、ここ、零れそうですけどっ!

 刃物を向けられるよりも動揺する。

 凄い凶器もあったものだな。

 それにしても、マナさん程とは、全くけしからんっ!


 俺はネヌファから少し距離を取ると、大きく深呼吸をして本題へと入った。

「えー。実は、俺の詠唱は特殊らしくー、通常のものでは十分に威力が出ないらしくてですねー。俺固有の起動式に変換する必要があるみたいでしてー……」

 俺が気まずそうに説明をすると、ネヌファは、複雑な表情をしていた。

 怒っているような。呆れているような。

 一番近いのは、残念な子を見る目に似ていますね。

 お願いだからやめて!

「はぁ……。固有の起動式、言法があるのは常識だ。この世界の全ての種に該当する。でも、それ以外の起動式だと使えないとか、何らかの障害、干渉が起きて威力が明らかに落ちるとか、そう言うのは聞いたことがない。お前はほんとに何なんだ?」

「何と言われましても。人間? 魔族? ですよ?」

 ネヌファは呆れた吐息を漏らした。

「もういい。お前の言っている事が本当なら、見てみないことには分からない。今すぐ、目の前でやってみせろ。お前の風の言法を」

 ……えっ?

「い、いや! ちょっと待って……」

「今やって見せないなら、もう指導はしない」

 えー。そんな無茶な。

「1度も試したことがないし、それなりに時間をかけてやるものなんですよ?」

「そんな事分かってる」

「……分かってるのかよ」

「何か言ったか?」


 指導の打ち切りはまずい。

 今はネヌファだけが頼りだからな。

 どのみち作戦までは1ヶ月。

 そろそろアレンジに入らないと間に合わないのも事実、か。

「分かりました。とりあえずやってみるので、失敗しても文句言わないでくださいよ?」

「失敗など許さん」

 この人、絶対Sだわ。

「……分かりました」


 ネヌファは林の方に歩いていくと、河原の近くにあった一本の木を指さした。

「あの木に向ってやってみろ。へし折っても咎めたりしない」

 ネヌファが指定した木は、直径2メートルはあろうかという大木だ。

 俺が身体強化して技を放ったとしても、折ることは無理だろう。

 少なくとも、一撃では絶対に無理だ。

「どうした? 怖気付いたか?」

 畜生。あいつはSじゃない。

 ドが付くSだ!

 やってやろうじゃないか。

 どのみち、この位出来なければ黒い獣には打撃を通せないだろう。

 今ここで限界を超えなければ。

 今の自分よりも、強くならなければ。

「やります! へし折ってみせますよ!」

「そのいきだ! 見せてみろ。お前の本気を!」

 楽しそうな表情するなよ。まったく。


 俺は大木へと歩み寄った。

 距離はおよそ1メートル半。

 やるしかない。どのみちやるんだ。

 早いか遅いかだけだ。

 だが、どうするか。

 風の言法。

 切断するか?いや、今の実力ではそこまでの威力は出ない。

 圧縮した風の圧力で押しつぶすか?いや、それも無理だろう。

 どのみち俺には向かない戦闘法だ。

 俺には、殴る蹴るが性に合ってる。

 打撃に風を乗せる。

 殴った瞬間に切り刻むか?

 それでは別々に放つ事と変わらないし、打撃の意味が無い。

 何か、何かないか。

 打撃と相性のいい使い方が。

 殴る、蹴る、叩く。

 拳の回転。旋回力。

 風を旋回させて削り取る?

 悪くは無いが、何かが違う。

 殴る。震える。対象が振動する。

「どうしたー? やっぱり止めるか?」

 ドSめ。煽らないでくれ。

「今やりますから。集中させてください!」

 とりあえずやるだけやってみるか。


 あとは、詠唱。

 おそらく、いつも通りでは意味が無い。

 俺固有の詠唱に、属性を上乗せする為の詠唱も組み込む。

 一言だけでもいい。具体的な一言さえあれば十分。

 想像で、言葉でもって、アストラルへ明確な指示を出す。

 それには、詠唱での風の属性の付与は必要不可欠な筈だ。

 考えが正しければ、これでいける。


 俺は、ひとつ大きく息をした。

 身体には、河原を吹き抜ける風を感じる。

 目を閉じ、出来るだけ具体的なイメージを思い浮かべた。

 どのような技であるのか。

 どのような威力なのかを。


 集中しろ。

 ただ、目の前の敵を殺す為に。

 ただ、それだけの為に。

 立ち塞がる全てを己の拳で打ち倒す為に。

 具体的な力、強さのイメージ。


 背中を掻きむしり、駆け上がる殺意。

 瞼の裏には、あの時の光景が焼き付いている。

 いつでも、いかなる時でも、俺をあの時へと引きずり込んで離そうとしない。

 俺が、心の底から望んだ。

 いつまでも色褪せない、鮮やかな殺意。

 胸が、頭が熱く燃え上がり、目の前を赤く染め上げる。


 さあ、瞼を開けろ。

 その目に映る、全てが敵だ。


 俺はゆっくりと、目を開く。

 そこには、あいつがいた。

 あのおぞましい、化け物が。

 今度こそ殺す。

 殺す。殺す。殺す。殺す!殺す!殺す!殺すっ!

 あいつを殺せるだけの、技のイメージを。


「形切流、殺人術」

 俺は右脚を後ろへ引き、構えを取った。

「震え、爆ぜろ」

 拳へと力を込める。

 その周囲にアストラルが集中し、風が渦巻いていくのを感じた。

「零之型、一番、振空」


 振り抜いた拳は化け物を捉えた。

 打撃による振動を、拳に纏った風が何十倍、何百倍、空間そのものを歪める程まで増幅し、次の瞬間、喰い千切った。

 そこには、初めから何も存在しなかった様に。

 跡形もなく。

 俺は、口の端を吊り上げた。


「ヴェイグ! もう十分だっ!」


 ネヌファの言葉で、俺は我に帰った。

 気づけば、俺の目の前にあった筈の大木は、地面に倒れていた。

 その一部分を、跡形もなく喰い千切られる様なかたちで。

「もういい。大丈夫か? まるで意識が無いようだったぞ」

 集中、しすぎたようだ。

 大木を殴った記憶がまるで無い。

 いくら想像とはいえ、怒りに飲まれて、悪い癖が出てしまっていたようだな。

「だ、大丈夫ですよ。それより……どうですか? これからも指導してもらえますか?」

 ネヌファは、完全に呆れた顔をしていた。

「まったく、危なっかしくて見ていられない。お前に何があったのかは聞かないが、こんな言法を使う奴は初めて見た」

「じゃあ、合格、ですか?」

「まぁ、余計興味が湧いたしな。これからも指導してやる。それにしても、今の技。ちゃんと使いこなせないと、いずれ自分もああなるぞ」

 ネヌファは大木へと目をやった。


 確かに、強い力は、時に自分をも破滅に導く。

「無我夢中で。……すみません」

「とりあえず、よくやった。これからは、その妙な詠唱を用いての鍛錬を行う。時間がないのだろう?」

 妙なって言うなよ。

 自分でも重々分かってる。

「はい! よろしくお願いします!」

「じゃあ、より厳しくいくから覚悟しろ!」

 やっぱり、この人ドSだ……。


 こうして、一先ず指導を打ち切られるような事はなくなった。

 無意識に打ったあの一撃は、感触としてしっかりと覚えている。

 あの技なら、あの技があったのなら。

 本当に救えていたのだろうか。

 そんな事が俺の頭を過ぎったが、今更なのは理解している。

 俺はこれからの事、とりあえず1ヶ月後の討伐作戦を見据えて鍛錬を続けなければ。

 ネヌファの指導も厳しくなると思うが、乗り越えなくてはならない。

 エルフからの犠牲を出さない為にも。

 俺は強い決意を胸に、これからの鍛錬に臨むのだった。

読んで頂きありがとうございます!

次話では鍛錬も終わり、いよいよエルフと協力しての討伐作戦に突入していくと思います!

少しでも面白いと思って頂けたら、Twitterのフォロー、評価、ブックマークなどよろしくお願いします!

_gofukuya_

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