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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
18/93

1章 11話

1章の11話になります!

いよいよネヌファとの鍛錬が始まろうという回ですね!

黒い獣討伐作戦までに新たな力を手に入れることが出来るか。

楽しんで読んでもらえると幸いです。

 寝起きは最悪とまではいかなくとも、良くはなかった。

 昨夜の出来事、ナリーシャとの一件が心の隅に引っかかる。

 言い合った事ではなく。

 あの涙が、俺を憂鬱な気持ちにさせていた。

 前世の記憶と被る。

 俺はどうも、女性の涙に弱いらしい。


 でも、今日からネヌファとの鍛錬が始まる。

 気を取られている訳にはいかないよな。

 窓から日差しが差し込む。

 眩しさに少し目を細めた。

 太陽はもう随分と高い位置まで昇っているようだ。

 朝飯は、寝過ごしたか……。

 俺は気怠い身体をベッドから起こすと、昨日のままだったシャツを着替えた。

「意外と時間が無さそうだな。このまま向かった方がいいか」

 俺は扉に手をかけ、部屋から出ようとした。その時。


 ガツンッ。

「痛っ!」

 押戸の扉を開けると、ちょうどその前に立っていた人物に当たったようだ。

「えっ? あ、あの、大丈夫ですか?」

 俺は恐る恐る扉を開けた。

 誰かが部屋の前で頭を抱えてうずくまっている。

「痛いじゃない! 急に開けるなっ!」

「すいません! ……って、先生?!」

 そこに居たのは、なんとマフィリア先生だった。

 部屋の前に人が居た事と、それが意外な人物だった事に、2重でびっくりだ。

「僕の部屋の前なんかで、何やっていたんですか?」

 俺が尋ねると、先生は立ち上がり、不機嫌そうに答えた。

「いちゃ悪いの? 一応私はあなたの先生なんですけど」

 眉間にシワを寄せて、大層ご立腹の様子。

 鬼の形相とはよく言ったものだ。

「い、いや。全然悪くないです」

 相変わらず当たり強いなぁ。

 少しくらい打ち解けたかと思ったんだが。

 気迫が、いや、殺気が痛い。

「はぁ、まぁいいわ。最近鍛錬見れてないから、ちゃんとやっているか気になってね」

 気にはしてたのか。

 やっぱり、教える事自体は好きなんだろうな。

 それに、責任感も強いだろうし。

 なんと言うか、律儀な性格なのだろう。

「鍛錬はしていますよ。先生に教わった基礎もこなしています。作戦まで日にちも無いですし……」

「そうね。出来ればもう少し指導しておきたいのだけれど、私も準備で忙しくて」

「大丈夫ですよ。忙しいのは理解していますから。わざわざ有難うございます」

 俺は軽く頭を下げた。

「次の作戦で死なれても困るしね。少しでも細かなアストラル操作を覚えなさい。魔族は本当に大雑把だから」

 嫌味でも何でもなく、先生は真顔でそう言った。

 なるほど。普通に忠告と言うことか。

「分かりました。最大限努力します」

「時間は有限よ。例え長命の種であったとしても、それに変わりはないわ。ましてや、今回は2ヶ月という期限付き。少しも無駄にしないように」

 凛とした佇まい。

 慕われる、というか憧れる人も多いだろうな。

「はい。あと2ヶ月で、足でまといにならない程度にはしておきます」

「魔族なんかに期待はしてないわよ。ただ、出来ることはしておきなさい」

 先生はそう言うと、城の奥へと歩き出した。

 今のは、嫌味だな。

「これから会議だから。それじゃあ、私が居なくてもちゃんとやるように」

 ……心配しているのか、馬鹿にしているのか。

 先生の後ろ姿を見送りながら、俺はひとつ溜息をついた。

「まぁ、そんなにすぐ打ち解けるわけないか」


 魔族への恨みは、簡単に消えるものではないだろう。

 すぐに割り切れるわけない。

 それは、俺が良く理解している。

 具体的にどんな事をされたのか、されてきたのかは想像の域を出ない。

 今回の件を考えても、まともな事はされていないのは明白。

 本心では、魔族を根絶やしにしたい筈だ。

 ダーシェさんが、あの場にいた3人に対して、黒い獣と魔族の関係性を話したかどうかは知らない。

 だが、今のマフィリア先生の反応を見れば、少なくとも先生には話していないだろう。

 でなければ、俺はとっくに襲われている。

 本気で殺しに来る。

 まぁ、そんな事ダーシェさんがよく分かっているだろうから、わざと話してないんだろうな。

 今考えても、気が重くなる話だ。


 さてと。そろそろほんとに行かないと約束に間に合わなくなる。

 俺は自室を後にし、約束の場所へと急いだ。




 昨日も何となく歩いて着いた場所ではあったが、それほど入り組んでいないし、道もある。

 覚えるのはさほど難しくない。

 俺はパンを頬張りながら先を急いでいた。


 流石にあのままでは、空腹が酷すぎて鍛錬どころではない。

 急ぎながらも、城を出る前に食堂に寄ってきた。

 勝手に食料を物色しようと思っていたが、使用人に見つかってしまった。

 正直に話したら、用意してくれたのだ。

 パンには数種類の野菜が挟んであり、なかなかに美味い。

 肉が挟んでないのがやはり寂しいが、野菜にかかっているソースがいい味を出している。

 酸味の中にやや甘みがあり、すり潰されたスパイスらしきものがいいアクセントになっていて、味気ないパンでも飽きずに食べられる。

 使用人、恐るべし。

 でもやっぱり料理できる人っていいよなぁ。

 ポイント高いわ。

 木の根を飛び越えながら、そんな事を考えていると、あっという間に目的地に到着した。


 周囲を見渡すと、まだネヌファは来ていないようだ。

 昨日なぎ倒した木々はそのまま。

 河原の形状もやや変わっていた。

「暴挙と言われても反論できないわな」

 冷静に自分がした事を思い返して、反省。

「何だ? 今更反省か?」

 いきなり声がしたかと思うと、突然の強風。

 思わず顔を手で覆い、目を瞑った。

「もう良いぞ」

 俺が振り向くと、そこには天使がいた。

 もちろん、そんなのは俺の妄想だが。


 黒い髪が風に揺れる。

 ドレスがふわりと舞い、白い翼が空に羽ばたく。

 やっぱり、現実離れしてるな。

 存在自体が、嘘みたいだ。


「どうした? 呆けた顔をして」

「いや、突然だったもので」

 見とれていた、なんて言える訳ない。

「おかしな魔族だな。……いや、ヴェイグだったか」

「はい。あの、今日からよろしくお願いします。ネヌファさん」

 俺がそう言うと、ネヌファはゆっくりと地面に降り立った。

「よい。その代わり、退屈させるなよ」

 また不敵な笑みを浮かべる。

「それは……努力します……」

 どうやったら退屈させないのかが分からん。

 でもこのチャンスはものにしなければ。

 やっと風属性を習得する手掛かりを得たんだ。

 何でもやってやるさ。


「時間が勿体無い。早速始めるか」

「はい! お願いします!」

「ヴェイグは、風属性の言法に対してどの程度理解している?」

 ぐっ……。

 痛いとこ突いてくるなぁ。

「正直、何も分かりません。全くと言っていいほど資料が無いので……」

 自分で言っていて情けなくはなるが、本当に無いからしょうがない。

 調べようも、教わりようもなかったから。

「まぁ、そうだろうな。かなり珍しい。なんて言葉で片付けてはいけないくらい、珍しいからな、風の属性は」

「やはり、そうなんですか」

「私が知っている限りでは、一人しか知らないからな」

「ひ、一人ですか!?」

 少なっ!ってかそんなの居ないに等しいだろっ!

 そんな偏り方ってあるか?

「現時点ではヴェイグ、世界にお前だけだろうな」

 俺だけ?ほんとにそんな希少なのか……。

 正直、茫然自失だ。

「だから、何も知らないのもしょうがない事だ。とりあえず、風属性の特徴の説明からしよう」

「お、お願いします……」

 ネヌファは、河原にあったちょうどいい高さの岩に腰掛けた。

「風属性は、一言で言うとバランスが難しい属性だ。下手に使えば他の属性に大きく劣るし、威力も出しづらい。だが、使い方次第では様々な用途に変化出来る、柔軟性も持っている」

「バランス……。単純に扱いづらいと言うことですか?」

「それもある。だが、他の属性に比べて想像しづらいという事が一番の原因だろう」

 想像しづらい。そうか、だから威力もバラつくのか。

 やはり、具体的な想像力が言法の鍵となりそうだ。

「火や水、土といったものよりも、現象が抽象的で、目にも見えない。だから想像しづらい。と言う事ですか?」

 ネヌファが頷く。

「そうだ。だから、適性が無くても使える初歩の言法であっても、その威力はまちまち。風属性は扱いづらい言法となっていると言って、過言はない」


 なるほど。

 エルフィンドルに来てからも、初歩の言法は色々見た。

 街の人々も使うし、何より生活に結び付いているものも多い。

 でも火や水は見ても、風の言法は見なかった。

 思いたくはない。

 でも、風属性はハズレ、なのか?


「風属性そのものの特徴も教えておく」

 考えている俺を他所に、ネヌファは淡々と説明を続けた。

「まず気をつけるべきは、その射程。風属性の射程距離は、他の属性に比べて極端に短い。形状自体を認識する事が難しいからか、身体から離れすぎると威力が減少し、霧散してしまう」

 納得出来るな。

 昨日のウインドも、身体から離れすぎたから霧散した。

 言法を使用する本人が視覚情報として認識出来ないから、アストラルを乗せづらいのか?

 興味深い話では、ある。

「そして、それに伴うアストラル消費量だ。認識しづらいから、扱いづらいから、威力が出しづらいから、その分アストラルを食う。悪循環だと言ってもいいな」

「威力が出ないから、出すためにより多くのアストラルを消費する。扱いづらいから、変換効率が悪く、アストラルを多く消費する。そのくせ射程も出ない。確かに、悪循環ですね」

「どうだ? がっかりしたか?」

 ネヌファは表情を変えずに、俺に問いかけた。

「……いえ。むしろ、俺には向いているかもしれません。少なくとも、俺に射程距離は関係ありませんから」

「何故だ? 言法にとって、戦闘にとって、射程は大きな意味を持つものだろ?有利だと言ってもいい」

 少し不思議そうな顔をしながら、ネヌファは首を傾げた。

「遠距離からの攻撃はどうも性に合わなくて。それに、俺は接近戦闘が基本の戦士ですから。遠くから敵を倒すことなど、全く考えていません」

 ……。

 無反応、か?

 何か変な事でも言ったかな。

 俺がネヌファの方を見ると、何やらきょとんとした表情をしている。

 すると次の瞬間、突然ネヌファが笑い出した。

「ははははっ! お前は馬鹿だな! そんな事を言う奴を初めて見たよ」

「えっ? そんなに可笑しい事ですかね」

「ああ。死にたがりの大馬鹿だな。でも、そんな馬鹿は嫌いじゃない」

 大層嬉しそうな表情をして、ネヌファは俺の方を見つめる。

「ならば、しっかり使えるようにしてやる。ヴェイグの戦闘スタイルと、どんな言法を習得したいか教えろ。それを集中的に鍛錬する」

 何だか、気に入られた、のかな?

「は、はいっ!!」

 俺は柄にもなく、元気よく返事を返した。


 こうして、俺はネヌファとの鍛錬を開始した。

 問題は山積みだが……。

 何より時間がない。

 短期間でどこまで出来るか。

 最悪の状況、つまり俺が戦闘する事を視野に入れて鍛錬しなければ。

 やり甲斐はありそうだ。

 鍛錬する理由など、挙げればキリはないが、そんなものは所詮こじつけだ。

 本来の目的のために。

 自分自身が強くなる。

 強く。さらに強く。ただ前へ。

 今度こそこの手が届くように。

 俺は、静かに、だが熱く、血が昂るのを感じた。

読んでいただきありがとうございます!

次回はヴェイグが鍛錬の日々を駆け抜けます。

風属性言法を使いこなせるか、そこがポイントですね!

それでは次もよろしくお願いします!

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_gofukuya_

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