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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
15/93

1章 8話

これでも食らって死んでくれ。1章の8話の更新になります。

一人でも多くの読者に読んでもらえると有難いです!

よろしくお願いします!

 朝食、と言うよりも、もうほとんど昼食に近い時間に食事を済ませた俺は、その足で城の中にある資料室に来ていた。

 いつも薄暗いその室内には、所狭しと棚が並べられており、無数の資料が保管されている。

 ここには数度来ている。

 微かにするカビ臭さが、控えめに言っても苦手だし、不快感を覚える。


 この場所は、一般には非公開になっている。

 閲覧する為には王の許可が必要。

 情報は宝であり、武器でもある。

 これが他国に漏れる事は避けねばならない。

 特にこの資料室には、先の大規模侵攻の資料だけでなく、それ以前のものまで幅広くまとめられており、世界的に貴重な事は間違いようがない。

 言法に関する資料も膨大な量が集められていて、その起こりや成り立ちまでも事細かに記されていた。

 これらの情報が全て正しいとは思ってはいないが、これだけの物を集めた事に関しては、感嘆に値すると、素直にそう思う。

 エルフが博識であるという、紛れもない証拠がこの資料室なのだ。


 さて、俺がここに来た理由は言うまでもなく、あの黒い獣に対抗する為の手段を探る事だ。

 俺が戦う事になったとして、次も同じ手段や、力によるゴリ押しが通用するとは思えない。

 相手もそんなに馬鹿ではないだろう。

 何か、他の方法も必要になる事は明白。

「何か、何か相手が嫌がる事は……」

 戦闘とは、ある意味単純なものだと、俺は思っている。

 相手の裏を読むとか、次に何をしてくるかをいち早く察知して動くだとか。

 要約してしまうと、その時相手が一番嫌がる事をやった方が勝つ。

 もちろんそれだけではないが、詰まるところ、それが最も効果的な一撃となる。

 これは経験則だ。

 生き抜く為の、という訳ではなく、敵を殺すための。


 あの黒い獣の攻撃パターンを思い出してみると、俺が不利になるのは中距離で戦闘を行うこと。

 あの鞭の範囲内で戦闘をすれば、万に一つも勝機はない。

 あの距離からの決定打は、俺の戦術には存在しないからだ。

 間合いを詰める。

 打撃を与える。

 俺は器用な方じゃない。

 複雑な事をしたらボロが出るだろう。

 出来ることは、少ない。

 ならば、絞って、極めるのみ。

 前回よりも早く間合いを潰す方法。

 あの身体を覆う影を無力化して、打撃を通す方法。

 この2点に焦点を絞る。

 これが2ヶ月という短い期間内に、俺が準備出来る最低限の、いや、最大限の勝算。

 いくら身体的鍛錬をしたとしても、2ヶ月では劇的な変化は望めない。

 やはり、言法。

 それも、俺固有の。

 その手掛かりを掴むためにこの資料室に来たのだ。

 俺は言法の棚から、風の属性に関する資料を探した。

「えーっと、かーぜー、風のー。……あった!」

 膨大な資料の中から、風の属性に関するものを発見する事が出来た。

 誰が整理したのかは分からないが、しっかりとまとめられているので、さほど苦労はしなかった。

 その数、なんと。

「……2冊。すくなっ!」

 風の属性は本当に希少らしく、資料の数も圧倒的に少ない。というかほとんど無い。

「まぁ、しょうがないか」

 薄暗い室内に光を入れるために、カーテンの掛かった窓を開け放った。

 眩しい光と、穏やかな風が室内へと入り込む。

 漂う微細な埃に光が当たり、きらきらと幻想的な雰囲気を醸した。

「結構埃っぽいな」

 カビ臭さも幾らかマシになる。

 俺は不満ながらも、机に資料を置き、椅子に腰掛けた。

 古い椅子がギシギシと軋む。

 座り心地は、決していいとは言えない。

 俺は1冊目の資料へと手を伸ばした。


 記されていた内容は、風の属性でなくても使用出来る、初歩的な言法に対することが大半。

 単に風を吹かせるものから、物を浮かせる、殺傷能力の低い風の刃を生じさせるものなど。

 正直そんなものではあの獣に対応する事は出来ない。まず無理。

 だが、いくらページをめくっても、俺が求めるような内容は発見出来ない。

「風の言法って、しょっぼいなぁー」

 俺はがくっと肩を落とす。

 すると、窓から強い風が吹き込み、ページをパラパラとめくった。

「……窓、閉めるかぁ」

 俺は立ち上がろうとすると、資料のある一文に目が止まった。

 それは、詠唱に関するもの。

「詠唱の必要性と、言法の密接な関係について……」

 そう言えば、当たり前だと思っていたから詠唱をしているが、しなくても発動出来ないのか?

 俺は再び腰掛けると、おもむろにその部分を読み進めた。


「なるほどな。詠唱は力の伝達に不可欠。漂う精霊への呼びかけ。アストラルの操作、変換には用いざるを得ない。自己暗示の様な思い込みもあるのかもな」

 詠唱を省略しても発動は可能だが、威力は格段に低下する。

 アストラルを生み出している精霊に正確に指示を出し、力を借りる。


 以前の世界にあった考え方、言霊。

 言の葉には力が宿る。

 言葉にして発することにより、自身にも、相手にも影響を及ぼす。

 心の作用。

「気持ちの問題だろうけどな」

 文章はさらにこう続く。

「想像の力。言法を使用する上で最も必要な力。想像がアストラルへ投写され、その結果として事象が起こる。正確な想像が正確な言法を生む、か」

 小難しく説明されてはいるが、イメージが重要という事か。

 馬鹿馬鹿しくはあるが、この世界ではこれが理として働いているのだろう。

 ただ、いくら想像が力になるとはいえ、自分の力を超えた言法は発動出来ない。

 その力の源が魔力炉。


 俺を含めて、この世界の人々には、血液の循環に必要な血管のように、アストラルが循環する為の気脈の様なものが身体に存在する。

 その気脈の要所に、生まれながら備えているものこそが、魔力炉だ。

 物質的なものではなく、一種の魔法陣になっているらしく、そこをアストラルが通過すると発動し、それを使用可能なものへと変換処理する。

 その際に抵抗力、つまり負荷がかかり、その負荷を超えた力を行使しようとすると身体に影響が出る。

 言法を使用する時に感じる熱の様なものは、この負荷に起因している。

 あまりにも大きい負荷を加え続けると、魔力炉が暴走、最悪の場合は死に至る、らしい。

 事の真偽は分からない。

 見た事ないものは信じない主義だからな。

 魔力炉の大小とは、この負荷に対する許容量の事だ。

 許容量が大きい者ほど、強力な言法を使用出来る。

 これは、メルカナにいた時に親父から聞いた内容だ。

 言法を使うのなら、必ず覚えておけと。


「イメージ力か……」

 正直そういうものは、自分は乏しいと思っている。

 苦手意識すらある程には。だが。

「薄々感じてはいた。気持ちが昂る時ほど力を発揮出来る、不思議なものだな」

 過去2度の戦闘。

 思い当たる節は、ある。

 集中し、鮮明に次の手を想像し、強く決意した時ほど身体に力が漲る。

 それこそが、イメージの力なのだろう。

 元の世界でも、そういったものはよく言われていた。

 病は気から。

 根性論。

 先にも言ったが、思い込み、気持ちの問題と言うやつだ。

 この世界では、それが顕著に現れる、と思っていればいいのかもな。


 2冊目の資料を漁ってみても、有益な情報は得られなかった。

 まぁ、何も分からなかったと言ってもいい。

 収穫はほぼゼロだ。

「とりあえずは、身体を動かしてみるしかないか。初歩的な風の言法も試してみるか」

 やらない事には分からない。

 頭で考えるより、まず行動だ。

 俺は資料を元あった棚へと戻すと、開けた窓を閉めた。

 まだ日は高い。

「森に行って鍛錬だな」

 カーテンを閉めると、室内をまた薄暗さが支配する。

 俺は足早に歩くと、資料室の扉を開けた。

「あっ! こんな所にいたの?」

 部屋を出た途端、何者かに声を掛けられた。

 何者か、というか、聞き覚えしかない声だが。

「ちょっと! 無視しないでよっ!」

 俺は一つ息を吐くと、鼻息の荒いその人物に答えた。

「何か御用ですか? お姫様?」

 通路側へ向き直ると、そこにはやはりナリーシャが立っていた。

 というか、仁王立ちだ。

「何よ! 用があっちゃ悪い?」

「悪くはないですけど、また面倒事ですか?」

 俺が少し嫌そうに答えると、ナリーシャは素早く俯いた。

 何か不自然な反応だ。

「どうかしましたか?」

 ナリーシャはスカートの膝の当たりをぎゅっと掴むと、俺の方を真っ直ぐに見つめてきた。

「はっ、話が、あるだけよ。庭に行かない?」

「別に構いませんよ? 直ぐに済みますか?」

 ナリーシャの表情が明るくなる。

「ええ。直ぐに済ませるわ」

「じゃあ、行きましょうか」

 俺はそう言うと、ナリーシャに前を歩くように促した。

 ナリーシャはちょっと慌てた様子で歩き出すと、俺はそのすぐ後ろにつき、城の庭へと向かうのだった。

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