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これでも食らって死んでくれ。  作者: 呉服屋。
1章 エルフィンドル編
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1章 5話

皆さん、あけましておめでとうございます。

遅くなりましたが、今年も投稿していきます。

今年も一人でも多くの人に読んでいただけるように、頑張っていきます!

 街に着いてからは意外と呆気なかった。

 軍が出動したこともあってか、まばらにだが、街にも人の姿はあった。

 同行していた兵士、それとマフィリア先生に先導されながら、何事もなく城の前へと到着した。

「ここまで来れば一人で大丈夫でしょ?」

「はい。わざわざ送ってもらって、すみません」

「いいわよ。これも仕事だから。とりあえず怪我の治療をしなさい」

 先生が珍しく優しげな視線を向けてくれている。

「大した怪我じゃないので平気です。治療もちゃんと受けますし」

 そう言いながら、俺は怪我をした腕や脚を動かしてみせる。

「そうしなさい。細かい話は明日になるでしょうから、しっかり寝るように」

 なんか今のは、俺が知っている「先生」っぽかったな。

 学校の。

「分かりました。ありがとうございました」

 俺がそう言って頭を軽く下げると、先生は兵士を引き連れて颯爽と去っていった。


 その姿はちょっと格好良くもあった。

 街の人達から人気を集めているのも、こういう所なのかな、なんて思わされるほど堂々とした振る舞いだ。

 できる女、って感じか。



 城に入ると、あれよあれよという間に医務室へと通された。

 兵士の報告により準備が整っていたようで、言法による治療と、医学的な治療の両方を受ける。

 てっきり怒られたり、執拗に事情を聞かれるものかと覚悟していたが、そんな事は全くなく、治療の後は普通に自室へと戻ることが出来た。

 ダーシェさんやサマリアさんの姿もなかったし、もちろんナリーシャにも会わなかった。

 不自然さは、感じなかった訳ではない。

 身体には微かに、興奮による熱が残っている。

 治療は受けたが、傷もやや痛む。

 だが、言法を多用したこともあってか、疲労感が凄まじい。

 ボロボロの服のまま、ベッドへと飛び込んだ。

 着替えるような気力はない。

 文字通り、泥のように眠りについた。




 ??

 ああ、また夢か。

 今回は妙に明るい空間だな。

 寝ていた身体を起こし、座り直す。

 すると、目の前にはやはり俺がいた。

 流石に驚きは、しない。

「よう。久しぶり」

「うん。久しぶりだね」

 向かい合う様に座っている。

「今日はどうしたんだ?」

「いや……。大変な、戦いだったよねって」

 暗い表情をしている。

「悪い。怖かったか?」

「ううん。……悲しかったなって」

 思っていた返答と違うな。

「何がだ?」

 不思議で聞き返す。

「戦ってる間ずっと、あの影の人からそういう感情が流れ込んで来てたんだ」

「そうなのか?」

「うん。悲しみと罪悪感と、申し訳なさ」

 正直俺には分からなかったな。

 だが。

「助けてって、言ってたな」

「細かい事は、僕にも分からないけど」

 俯く、目の前の俺。

「大丈夫だ。もし本当に助けを求めてるなら、何とかしてやりたいんだろ?」

「うん。ちょっと、気になって……」

「明日には何か分かるかもしれない。ダーシェさんにも会えるだろうしな」

「悪い人じゃ、ない気がするんだ」

「分かった。無闇に危害を加えたりしないさ」

 俺がそう言うと、少し表情が明るくなる。

「君ならそう言ってくれると思ったよ」

「当然だろ? 俺の意見なんだからな」

「そうだね。ありがと」

 おもむろに目の前の俺が立ち上がる。

「どうした?」

「そろそろ行かないとね」

「早いお帰りだな」

「これって結構疲れるんだよ?」

 おどけた表情を見せる。

 俺は座ったまま、見送る。

「また来いよ」

「そうさせてもらうよ」

 光の中に、俺は消えていった。



 眩しい。

 瞼越しにでも感じる。

 暖かい熱と光。

 深い緑の香り。

 開け放たれた窓から入ってくる風の心地良さと共に、俺は目を覚ました。

 昨日の戦闘での疲れは、驚くほど残っていない。

 あるのは軽い筋肉痛と、傷を受けた箇所のひりつくような痛み。

 アストラル濃度が高い場所では、自然治癒力が高まるという。

 身をもって体感できる。

 明らかに、身体が軽い。

 ほとんど嘘の様だ。


 俺は夢と同じ様に上体を起こした。

「今日も、いい天気だな」

 ひとつ大きく伸びをした。

 鳥のさえずる声。

 街からの生活音。

 コンッコンッ。

 不意に、扉をノックする音が室内に響いた。

「私よ。起きている?」

 どうやら扉の向こうにいるのはマフィリア先生の様だ。

 俺は身体をずらし、ベッドの縁に座り直す。

「起きてますよ。入って大丈夫です」

 木製の扉がゆっくりと開いた。


 いつも通りの先生、と思いきや、なんだか伏し目がちだ。

「どうかしましたか? 顔色が悪いですよ?」

「えっ? 大丈夫、大丈夫よ」

 とてもそうは見えない。

「夜、遅かったんですか?」

「そんなこと無いわよ。あなたを送った後に部隊と合流して、すぐに切り上げたもの」

「……迷惑をかけて、すみません」

 先生はなんだかきょとんとした顔をしている。

「あなたのせいじゃないわよ。……魔族のくせに真面目ね」

「まぁ、魔族にも色々いるんですよ」

「そうなのかもね」

 そう言うと先生は髪をかきあげた。

 朝日が反射してキラキラと輝く金髪。

 きめ細やかな絹の様な質感が、見てるだけで十分に伝わってくる。


 正直、綺麗だと、思う。

 目が離せない。

 絵になる、とはこういう事なのかもな。

「……何よ?」

 俺は冷たい視線で我に帰った。

「あぇ?い、いや。な、何か用なんじゃないんですか?」

 俺は咄嗟に明後日の方を向く。

 誤魔化せてないだろうなぁ。

 その証拠に、鋭い視線が突き刺さる様だ。

「……まぁいいわ。朝から悪いのだけど、この後ダーシェ様を含めた王族の方々、軍を預かる上層部。その両者の前で昨日の事を細かく説明してもらいます」


 ですよねー。

 やっぱりそうなるかぁー。

 それにしても、王族と、軍の上層部か。

 何やら大層な顔ぶれだな。

「俺、そんなにまずい事、しました?」

「少なくとも、いい事はしてないでしょうね」

 ですよねー。

 言い訳とか、通用しないだろうなぁ……。

「外に出た事に関しては、大したお咎めは無いと思うわよ?」

「えっ?! そうなんですか?」

「むしろ私達が聞きたいのはその後。あなたが戦っていた相手に関してよ」


 まぁ、流石に分かってはいたが。

 街からほど近い森に、あれだけ強い魔物。

 警戒するのも当然か。


 あの戦闘の、一撃、一撃が、甦る。

 再び、心が熱を持ったように、ざわつく。


「あなたが思っている以上に、事態は深刻だと言うことよ」

 先生は腕組みをして、少し低めの声音でそう言った。

「顔ぶれを聞けば、そのようですね」

 心のざわつきを、拳とともにグッと握りつぶす。

「王を前にした、言わば御前会議ですからね」

 先生の言葉からは、緊張感も伝わってくる。

 俺は少し背筋を伸ばした。

「分かりました。自分が見たことを、出来るだけ正確に説明させてもらいます」

「そうしてもらえると、助かるわ」

 マフィリア先生は扉へと手をかけた。

「外で待っているから、着替えが終わったら出てきてちょうだい。流石に、その格好じゃあ……ねぇ」

 ……あ。着替えないで寝たんだったぁ。

「ですね。直ぐに支度します」

 思ったよりも服に穴が空いている。

 少し恥ずかしくなり、薄手の掛布で身体を隠した。

 一歩間違えれば、ただの変態だ。

「早めによろしくね」

 薄緑色のワンピースをなびかせながら、先生は部屋をあとにした。


 ベッドから重い腰を上げる。

 それにしても、御前会議、か。

 嘘をつく必要もない。

 嫌な予感は、またも的中か。

 ボロボロの服を脱ぎ捨てると、クローゼットから真新しいシャツを取り出す。

 一応正装のつもりで、皮のジャケットにも袖を通した。

 着慣れないからか、少しごわつく。

 気が引き締まる様な、そんな感じ。

「よしっ! 行くか!」


 俺は覚悟を決め、部屋の扉を開けるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

今年は1話でも多く投稿していきたいと思います!

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_gofukuya_

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