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森に火を放つ

 私はボーと村の方角を見ています。たまに寄ってくる蚊を叩いたり、ドングリを木に投げつけたりして暇を潰しています。


 なかなか合図来ないなとか思っていると、不意に、ここから見て村の反対側から天に向かって光の矢が飛んだ。


 よし、開始ですね。



 私は魔法を唱える。


『私は願う。炎が欲しいの。この辺り一帯を凪ぎ払う派手なヤツが。しばらく燃え続けて』


 炎の柱が立ち上がり、それが段々と太くなりつつ、空を目指す。赤々としたそれは竜巻のように上側が広くなっていき、自転も始めだした。


 うん、村から悲鳴が聞こえたわ。

 ちゃんと目立っております。


 私は刺すような熱と、慌てて駆け寄ってくる村人の目を避けるため、場所を変える。



 アデリーナ様の目論み通り、ワラワラとやって来たね。

 森から取れる食料とか薪とか資材とかが無くなると困るものね。私も炎を手加減しつつも、ある程度延焼させないといけないから、大変です。

 幸い風向きが村からこちらに吹いているので、村への直接の被害は無さそうで、それは安心材料ですね。


 エルバ部長が言っていた、代官様の配下の方々は現れませんでした。

 アシュリンさん、行けますでしょうか。



 私は村人を観察する。騒いでいる人達は操られているように見えないです。普通の人達です。

 ただ、何人かは森が焼けることを許容した様子で、村へ戻ろうとしています。確かに、村へ燃え広がらないのであれば、自然に任すという考えも有りかもしれません。


 しかし、私たちにとっては好ましい事ではありません。アシュリンさんが見付かる可能性が高まるのです。


 選択肢はいっぱいありますが、どれを選べば良いのでしょうか。


 森を更に焼くのは、効果が薄そうです。村の人は鎮火を諦めるだけでしょう。魔物を見つけ出して村の方角に追いやるのも良さそうですが、そんな時間はなさそう。成功すれば、代官様の配下という方々も応戦してアシュリンさんが楽になりそうですが。


 村の一軒を焼く? 更に放火という罪まで被る訳で、死人まで出てしまうと里帰りにこの村を通過する度に胸が痛みそうです。


 村に戻った人にもう一度危機感を持って貰うには、小麦畑の一部を焼きましょう。できれば、村長の畑が良いですね。


 どれかは分かりませんが、一番キレイに整列している畑でしょう。

 私は緑の広がる小麦畑に向けて小さな炎を立てる。


 そう、自分達で消せると思わせる大きさでないといけなかったのですね。


 村人たちは別方向の炎に気付きました。


「おい! 畑だっ! 畑に火が移ったぞっ!!」


「くそ! 水だ! 水を持って来い!」


「うちの所はまだ大丈夫か!? 早く消せっ!」


 慌てて井戸の水を取りに行く様子が分かります。一気に喧騒が広がります。

 村に戻った人も水桶を抱えて走ってきました。


 大人の怒声にびっくりして、小さい子供が泣いたりしているのを見ると申し訳なく感じます。すみません、お詫びはアデリーナ様に支払って頂きましょう。



 遠くに矢が二本放たれたのが見えた。

 これは集合の合図。


 村人や燃える森を迂回して向かいましょう。



 森の中を急いでいるときに、不意に声がしました。




『巫女よ、聞こえるか?』


 聖竜様!?

 あのお方の声です。

 どこから聞こえた?


『いたか。その付近に魔族が潜んでいるのを感知した』


 そうなんですか!?

 でも、そんな事より聖竜様のお声が聞こえてくる事自体の方が大事なんですけど。メリナって認識されておられるかな。


『お主、メリナか?』


 はい。えっ、でも、よくお分かりでしたね。

 もしかして、私の心をお読みでしょうか?


『我を受け入れている者の心は読める。そういう術である』


 流石ですっ!

 私の全てを知ってくださいっ!!

 何からお伝えすれば良いのでしょうか。聖竜様への愛なら何日でも語って見せます!


『……えぇ……重いなぁ……』


 何か言いましたか?

 大興奮ですよ。


『……いや。全ては読まないから自然体で聞くのだ。付近に魔族がいる』


 はい! さっき聞きました!

 魔族は聖竜様の敵ですよね。色んな本に載っておりました。

 極悪非道で、人間を襲っては苦しめる。そんな存在価値が全くない生物達です。ぶっ殺します。


『そうだな。何があっても生かさぬように』


 分かりました!

 事情は知りませんが、聖竜様の仰る通りに致します。

 このメリナ、どんな手段であっても滅殺致します。



 気になることがあります、聖竜様!


『なんであろう?』


 付近って、どの辺りですか?


『すまぬ、メリナ。そこはシャールから遠く離れておる。仔細は分からぬ』


 だから、私がここにいる事も分からなかったのですか?


『そうであろうな。その森の魔力が我の力を阻害している可能性もあろう』


 了解です。

 まずは、森を燃やし尽くしましょう。なんなら、周囲一帯を焦土と致します。全ての命を聖竜様に捧げるのです。そして、私を見続けてくださいね。


『ダメダメ、ダメ。魔族を退治して』


 わぁ、聖竜様から砕けたお言葉を頂きました! 嬉しいです!

 いつもは威厳がビンビンなのに、そういった語り掛けもとても良いものですね。


『そ、そうであるか?』


 はい! 何て言うか、心が温かくなりました。


『お前の性癖のような考えは、まぁ、良い。メリナ、宜しく頼むぞ』


 えっ、性? 私が竜種であれば是非添い遂げたいと考えています! 私もお恥ずかしながら思春期ですし。


『……勘弁してよ……』


 何か仰いましたか?



 分かりました、このメリナ、魔族をぼこぼこに致します。しかし、魔族は突然現れたのですか?


『うむ。急に魔族特有の魔力を感じた。転移でもしたのであろうか』


 そうですか。では、エルバ部長に詳しく場所を聞いてみます。


『エルバ?』


 神殿の調査部長です。魔力感知で、人がどこにいるか知ることかできるそうです。


『あぁ、レギアンスか。なるほど、彼女ならば、ちょうど良いな』


 はいっ!


『可能であればまた会おう、メリナ』


 えぇ、必ずや、もう一度、いえ、毎日でも、そちらへ行きたいと考えていますっ!



 聖竜様のお声は聞こえなくなりました。

 とても悲しいです。



 しかし、気合いを入れ直した私は、一目散にアデリーナ様が矢を射ったと思われる地点に急ぎました。

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