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お茶をお持ち致しました

 村長の家の一階奥にある客間で、私たち三人は休憩する。

 アデリーナ様と私はベッドに腰掛け、アシュリンさんは窓の外を見ていた。庭と井戸しかないわよ。



「さて、どうしましょうかね。エルバさんを探すのはなかなか大変ね」


「森に入られたなら、道に沿って行けば良いのではないですか?」


 蟻猿とやり合ったシャール近くの森と違って、道はあって、私の村まで続いています。


「んー、そういう気分ではないのですよ」


 気分って……。すっごく曖昧な理由ですね。



 続けて、アデリーナ様が疑問を口にする。


「エルバさんは調査部の仕事で失踪した巫女さんを探しに来られたのです。もしかしたら、その方は自らの意思で神殿から逃げた可能性もあるのです。それなのに、巫女が来ているなんて思わせる必要がありますかね?」


「巫女と伝えた方が都合が良いと判断された可能性も有りますよ。あと、脱臭魔法を使って良いですか?」


「それにしても、村の人間が巫女さん一人で森に向かわせるなんて、おかしいんですよね」


 まぁ、それはそうね。余りお勧めはしないわ。馬車を使って数人で行った方が安全ですものね。でも、エルバさんが物凄く強そうなら一人で行かせますよ。

 オロ部長が一人で森に行くなんて言ったら、どうぞどうぞと言いますもの。

 その前に、オロ部長のお姿なら村が大混乱でしょうけど。


「脱臭魔法は好きになさい。ただ、村の人に魔法を使っていると勘づかれないようにしなさいよ。……メリナさんの様子も心配ですわね。いつも以上に変な気がしますのよ」


 そういうアデリーナ様の目は冷たい。でも、気にしないわ。



 革ブーツを脱臭してから、確認のために私が嬉々として臭っているタイミングで、扉がノックされる。


「はい、どうぞお入りになって」


 アデリーナ様が素っ気なく答える。

 私も誤解を生まないように靴を鼻から遠避ける。



「お茶をお持ちしました」


 まぁ、小さいのに感心するわ。まだ10歳にも満たない女の子がポットとカップを持って部屋に入る。緊張しているのか、腕輪をしている手が少し震えている。

 丁寧に丸テーブルに並べてくれた時も、カチャカチャ音がしました。

 白いエプロンをしているので、ここの使用人でしょうね。



「ご苦労様です。はい、チップです」


 見えましたよ、アデリーナ様。それ、金貨でしょ! こんな子供に上げたら逆に身を破滅させますよ。

 女の子はその価値が分かっているのかどうか、握り締めました。



 アデリーナ様は女の子に話し掛けられます。


「あなた、ここのお勤めは長いのですか?」


「はい……。一年くらいです」

 

 少し緊張気味ですね、女の子。


「小さいのに頑張っておられますね。ところで、私と同じ様な服の巫女さんも、この家に泊まられた事があります?」


「……分からないです。でも、私は見てないです」


「そうですか。聖竜様と共に感謝申し上げます」


「もしかして、竜の巫女様ですか? ……私、毎朝、聖竜様にお祈りしています」


 まぁ、素晴らしいわ。言葉遣いも小さな女の子と思えないです。


「その敬虔な行いは誉められるものです。メリナも見習いなさいよ」


 ぐっ。確かに。神殿に来てからはほぼお祈りをしてないわね。



「最近、他にお客さんは来られましたか?」


「えっ、いいえ。でも、村の外に馬車を置く人はいっぱい見ました」


 村長さんは巫女が一泊したと言っていたから、村外れで過ごされたのかな。でも、巫女服を着ていたなら中に入れてもらえると思う。ということは、そういう格好ではなかったということか。


「ありがとうございました。それから、すみません。私の馬車からお酒を一瓶持ってきて貰えますか?」


 な、何? 私もお酒を頂けるのかしら。私は背筋をピンと伸ばす。


「はい。少しお待ちください」


「えぇ、待ちましょう」


 アデリーナ様の代わりに私が答え、女の子は一礼してから部屋を出て行った。


 入れて頂いたお茶は、今から来るお酒のためか、誰も口にしなかった。お酒が来る前までに、靴を履いて万全を期そうと必死だったし。




「……嘘を付いているのよね。よろしいですけどね。その前に、このバカ者を懲らしめないと」


 アデリーナ様が壁を見ながら呟く。バカ者? さっきの女の子の事でしょうか。


「メリナさん、あなたにもお酒を振る舞いましょうね」


 はい、喜んで!

 ウキウキします。


「アデリーナ、それはよろしくないぞっ!」


 外を見ていたアシュリンさんが振り向いて注意する。その言葉が部屋に響きますが、アデリーナ様は無視されました。



 女の子は黒い瓶を金属製の盆に載せて部屋に戻ってきた。

 そして、同じく持って来てくれた人数分のグラスにトクトクと赤い液体を注いでいく。慣れていないのか、瓶を落としそうです。ハラハラします。


 私はそのグラスを手に取る。それから、念のためにアデリーナ様を見る。

 アデリーナ様は無言で頷いてくれました。

 それから、じっと見ているアシュリンさんの傍に行かれました。グラスはお持ちでないということは、この3つとも私の物で御座いましょうか?


 いただきますっ!


 私は口の中にそれを充満させる。


 そして、一気に噴射した!!



 何これ!? とてつもなく辛いんですけど!!



「私を謀ろうとしてましたよね、メリナさん。あなたの言動の意図は分かっていました。それは、その報いです」


 いえ、すみません。そんなことよりお水を、お水をお与えください。喉が焼けそうです……。



 健気に床を拭いてくれる女の子を手伝った後、私はアデリーナ様の前でひれ伏す。女の子は雑巾を取り替えに部屋を出ています。


「私はずっと新人を見てきたのよ。手癖の悪い人もいらっしゃるし、浅知恵を弄する人もいらっしゃるの。メリナさんみたいに訳の分からない人の扱いも慣れていますの」


「……はひぃ。しゅみませんでしゅた……。お、お水ゅを、ひ、いた、頂きゅないでひょうきゃ……」


「アシュリン、あとで水場に案内して差し上げなさい。あのボトルの内、お酒が入っているのは一本だけよ。メリナさんみたいに狙っている人が多いですもの。当たりでなくて良かったわ」


 くぅ、私が甘かったです。悔しいけど、それどころでないくらい、口の中を濯ぎたい。


「辛いでしょ? 痛いでしょ? それでも魔法で何とかしようとしない根性は認めてあげるわ」


 村の中での魔法は厳禁って知ってますもの。だから、女の子の前では唱えられませんでした。


「はひ。ありゅ、ありぎゃとうごじゃいましゅ」


 舌が回らないよ。

 

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