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大猿

まさか午前の会議が昼休みを遥かに越えて延長するとは思わなかった( ;∀;)

お腹空いたよぉ

 火球は異常を感知した合図ってオロ部長が書いていた。もしかしたら、何らかの魔法を掛けられたのかもしれない。


 私はオロ部長があの蛇の姿で、今まで立派に生きて来られた事を尊敬している。

 この先も寿命を全うして欲しいの。


 たまに体のどこかが動物の部位になっている赤ちゃんが生まれる。その子達は獣人と呼ばれていて、私の村では獣人として生まれた赤ちゃんは育てて貰えない。


 でも、オロ部長の事を知れば、きっと村の考えも変わるはずよ。あんな蛇の姿でも巫女だし、獣人って言い張れるのよ。犬の尻尾が生えているくらいじゃ、もうほぼ人間じゃない。



 火球が発射された場所に近付くにつれ、枯れ木が折れたり、木に何かが当たったりする音が響き出す。戦いが始まっているんだと思う。


 そして、木々の間に茶色い何かが動くのが見える。

 大きな猿だ。腕も背丈も、さっきの猿たちとは比べ物にならない。アシュリンさんが一人の時に見たのはこいつか。



「……アデリーナ、女王猿はいるか?」


 アシュリンさんが珍しく声を潜めて訊く。私に訊いて欲しかったとか、やっぱり思ってしまった。

 なんだろ、一番弟子みたいなポジションを盗られたって感覚? 悔しいのかしら、私。

 良く考えて、自分。別にアシュリンさんは嫌いじゃないけど、アシュリンさんに好かれたい訳じゃないでしょ。私の方がアデリーナ様よりも上手く出来るっていう自意識過剰な部分が出ているのかしら。


「フフフ、ちょっとお待ち下さい」


 アデリーナ様も頼られて嬉しそう。


 目を瞑られて、何やら考え事をするかのような仕草の後に口を開かれる。


「一番魔力を持っている魔物が、その奥の方に。カトリーヌさんは、それよりもだいぶ手前におられます。しかも四匹に囲まれていますね」


 おぉ、凄い。


「何ですか、今のは?」


 私は思わず尋ねてしまう。


「感知魔法ですよ。カトリーヌさんほどでは無いですが、私も扱えます。淑女の嗜みで御座います」


 何でしょう? 淑女でも『そのドブの奥にスライム共が五匹潜んでおりますわ。このままでは水のトラブルが発生しますわ』とか旦那様に伝えるのが習わしなのでしょうか。初耳です。


「仮面パーティでも意中の相手を探すのに便利でしてよ。メリナさんにはまだお早いかしら」


 うん、発想が違いすぎたわ。

 って、それは今は関係ない。



「オロ部長の援護にしますか? 敵のボスを奇襲しますか?」


 アシュリンさんが道に迷った時に魔法を掛けられたっぽいって話だった。で、それは転送魔法か混乱系の精神魔法らしい。

 オロ部長は火球を上げた。何かの異常があったみたいだけど、転送はされていない。ということは、魔法でヤられたなら精神魔法かしら。

 更に、火球を上げるという私たちとの約束事は覚えていたから、精神破壊とか意識操作ほどの強い魔法じゃないみたいね。


 良かった。去年、村の一人が精神破壊された時はビックリしたわ。普通に会話していたのに、突然に倒れ込んで意味の分からない事を呟き出したのよね。お母さんが殴るまで、あの人、回復しなかったなあ。



「もちろん、オロ部長を救うぞっ」


「なら、私が先制しましょう」


 アデリーナ様がまた黄金の弓を出す。無詠唱で発動が早い。加えて、その魔法、かっこいい。

 私も、それがいい。とても女の子らしいもの。素手で殴るって、よくよく考えたらおかしいんじゃないのかな、レディーとして。


 アデリーナ様の矢は大きな猿に当たる。

 が、貫通しなかった!

 途中で光の矢が消えた。

 強い魔物がよく身に付けている見えない鎧というか、魔力の殻があるわね。



「行くぞっ! メリナ!」 


 アシュリンさんが一気に走る。

 藪を越えて遅れて私も飛び出る。


 そこは端っこの木が新しく折れているのもあるけど、草や木がまばらで、広場みたいになっていた。お猿さん達の集会場かしら。

 で、その少し開けた場所に上半身が無くなった猿が何体か転がっている。これはオロ部長のご活躍の跡だよね。


 そのオロ部長はいらっしゃったが、敵の方を見ていない。方向を失っている? それに、敵を意識していない感じね。そういう魔法を掛けられているの?


「右側、行きますっ!」


 とりあえず、オロ部長が痛め付けられていない事を確認して、私はアシュリンさんに叫ぶ。


『私は願う。氷、氷、氷の長い槍。

 目の前の猿に突き刺さって』


 瞬間、地面から氷が伸びていき、それが猿の前腹を襲う。

 が、先っぽが腹に入ったところで止まった。それから、ポキッと氷は根本から折れて転がる。


 ちっ、固いね。人間とはやっぱり違うわ。


 目の前の猿、猿って呼んでいいのかしら。アシュリンさんくらいの背丈に牛みたいに立派な肩幅。短い毛が生えた頭の位置は高過ぎて、私のパンチだと胸までしか届きそうにない。

 なのに、相手の腕は私の足よりも太くて丸太みたいで、接近戦は不利な予感。

 さっきの『働き猿』とは違う生物じゃないのと思うくらい、形が違うわね。顔も黒いし。


 んー、さっきの猿の死骸を一つくらい持ってきて投げつければ良かったわ。


 考えている間に間合いを詰められて、上から下に拳を下ろされた。

 うん、避けるのは簡単ね。


 ブォンって風が鳴った後に地面に大穴が出来た。見切って最小動作で避けたために、至近距離にいた私の体にも風圧が届く。


 うん、バカね。撃ち貫きたかった顔面が下がっていますよ。

 私はそのまま拳で猿の鼻っ柱を殴りつける。


 うっ、重い。アシュリンさんの肘ほど固くないけど、猿が動かない。


 私が誘われたのか!


 慌てて、後ろに跳ねる。地面に刺さっていない方の腕が、私の服を掠める。

 危ない! 捕らえられるところだった。


 猿が更に私との距離を寄せるタイミングで、光の矢が二本飛んできて、動きを止めてくれた。一射は外れて、もう一つは肩口に刺さる。けれど、やっぱり貫通はしない。

 しばらくしたら、矢が消える。さっきの小猿との戦いでもそうだったから、魔法の矢は時間で消えるものなのね。


 アデリーナ様、援護ありがとうございます。私は一息置いてから、心の中で感謝する。

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