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卑怯なやり方は好かない

 アシュリンさんがどう戦っているのかは後ろだから見えない。というか、余裕がない。

 私を狙って木から跳ね落ちてくる猿を避けつつ、拳で殴っていくのに忙しいの。


 こいつら、私の腰よりも低い背丈で小さいくせに、堅い。ゴブリンだったら、骨折させるくらい余裕なのに。

 魔法を唱えさせてくれる時間はくれない。三匹ずつ降りてきて、同時に私を攻撃してくる。小さい上に素早くて、一発で仕留めようと大きく腕を振ると隙が出来てしまいそう。


 私に殴られた猿は地面を転がったかと思ったら、後ろ足で土を蹴って、私に尖った爪を立てて飛び込んでくる。

 それを避けたと思ったら、また上から降ってくる。既に地上にいる猿もいるから、私が相手をしないといけない奴等が増え続けていく。もちろん、私も蹴ったりしながら始末していくので総数は減っていると思う。たまにアデリーナ様の援護射撃もあるし。


 一斉に下りてこないのは固まったところを魔法で一網打尽にされるのを警戒しているのでしょうね。

 警戒しているという事は、それが相手にとって嫌な事。だから、私は魔法を放ちたい。根刮ぎで殲滅したいのよ。



 でも、今の私は五匹に囲まれている。鋭い牙なんかも見せられて、気持ちは宜しくないわね。


 でも、こんなの苦戦ではないわ。


 私の背から飛び込んできた猿を避けつつ、その足を握る。気配がバレバレなのよ。そして、そのまま地面に思っきり頭から叩き付ける。

 猿はグデンと体を伸ばした。

 死んだのか、気絶なのかは分からない。でも、この猿を武器にしましょう。


 次に私へ跳び向かってきた猿に、先ほど入手した猿を横に振り回して、ぶつける。

 私は知っている。猿は賢い。だから、自分の仲間を大事にする。

 これで、私に近付けば、この手に持った猿が傷付いてしまうことに、猿たちも理解したようね。

 人間が魔物に人質を取られた時に、皆が攻撃を躊躇うのと同じよ。なるべく助けてあげたいものね。


 では、私のターン。

 動きが鈍った猿たちを順に仕留めていく。私の様子を伺うばかりになっている猿たちだから、動きに慣れれば確実に仕留めていける。

 上からの攻撃も止んでいる。様子見に入ったのね。この手にある猿、とてもいいお守りよ。ぶん回せば武器にもなるし。


 猿の立場で考えると、私は人質を盾にして仲間を虐殺する残酷な魔物に映っているかもしれないわね。

 でも、それでいいの。戦いは効率よ。

 出来るだけ味方の損傷を少なくしなさい。お母さんの教えに忠実に従うだけだわ。


 囲んでいた五匹を倒したところで、樹の上を見る。

 うふふ、まだいるわね。お利口さんです。


『私は願う。炎が欲しいの。あの樹の上をうろちょろしている猿たちを焼き尽くすだけの炎をお願い』


 聖竜様にはお願いしない。あの方の力をお借りする程ではないわ。普通の火炎魔法。


 雲みたいな炎が木の枝より上に掛かる。熱がこちらまで伝わってくる。


 炎越しに、木がどんどん黒くなっていくのが分かる。火の残った葉っぱが地面に落ちる。たまに、燃えた猿も勢い良く落ちる。


 終わったわね。こっちは。

 手にしていた、動かない猿もお仲間の所へ投げ捨てる。

 お役目ご苦労様です。ありがとうございました。


 他に動く猿がいない事を確認して、後ろを振り返る。

 あっ、炎には消えてもらいました。念のために水魔法も出して、全体を濡らしています。だから、火事はきっと大丈夫。というより、ジメジメ湿っぽい森だから、大火事にはそもそもならないかな。



 グレッグさんが凄く冷たい目をして、私に言い放つ。


「いくら魔物であっても正々堂々と戦うべきだ! 今の卑怯なやり方は好かんっ!」


 えぇ、グレッグさん的にはそうでしょうよ。私の中でも少しだけは悪いと思う気持ちもあるのよ。


 でも、仕方ないの。手段を選んで、誰かが傷付いたり、死んだりした方が後悔が大きくなるのよ。

 私は村にいた時に、そういった悲劇を見てきたもの。優先すべきは倫理よりも仲間の安全よ。


「お務め、ありがとうございました」


 私はグレッグさんの批難には返さず、笑顔で言ってやりました。命は簡単に捕られるのです。その辺りを自分の領地だった所で経験していないのかしら。


 私の返答にグレッグさんは拳を握る。悔しいわね。でも、もっと悔しくなりたくないでしょ。



 私はアシュリンさんの戦いを見る。

 

 凄い!


 アデリーナ様が弓を射ち続けている。

 たぶん魔法の矢だから尽きることがなくて、見た目には雨の様に乱射よ。でも、それを掻い潜ってアシュリンさんは文字通りに縦横無尽。幹を斜めに蹴って、木の上にまで跳んだりしている。それから、枝と枝を飛び跳ねて猿の行く手を塞いだり、殴ったり。


 アシュリンさんの動きは素早い上に不規則で読めそうにないのに、アデリーナ様の矢は当たらない。アシュリンさんは軌道を確認していない感じだから、アデリーナ様がアシュリンさんの移動位置を予測しているようにも見える。

 息が合うとは、こういう戦い方を言うのね。


 猿はアデリーナ様の矢を避けるために奥の木に隠れようとするけど、アシュリンさんが許さない。アシュリンさんを襲おうとするとアデリーナ様の矢が背中に当たる。


 地面には猿たちの死骸が転がっている。


 そっか。こっちを見たら、グレッグさんは私の戦いがより野蛮過ぎるって思うわね。

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