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道を作る

 オロ部長は大変素晴らしい。

 何せ、その巨体でもって草地を這って先導するものだから、道が勝手に出来上がる。

 森の移動で何が手間って、繁った草を刈りつつ進まないと行けないこと。光が届かないくらい、大きな木で囲まれた所なら草も生えなくなるみたいだけど、この森は違う。笹みたいな草がいっぱいで、オロ部長がいないと移動だけで時間を浪費していたと思う。


 それにオロ部長は人間がいるかどうかも遠くから分かっているようだ。

 私が他の冒険者たちの気配に気付く前から、遭遇しないように進行方向を変えている。だからこそ薮を突っ切っているのかもしれない。

 だって、あっちに獣道みたいなものが見えるのに通らないんだもん。


 私は最後尾なので、後ろにも気を配る。でも、何もいないわね。


「くそっ、またクモの巣だ……」


 オロ部長の後ろを歩いているグレッグの声が聞こえる。


 そう、こういった所はクモが多いのよ。魔物でないから危険ではないけど不愉快よね。だから、もう帰っていいのよ。



「少し休憩します」


 アデリーナ様から指示が出る。

 グレッグを含めて、誰も疲れていないから、どこまで進んだかの確認ね。


「カトリーヌさん、アシュリンの気配はまだですか」


 アデリーナ様の質問にオロ部長は頭を横に振る。ノーって事ね。


「私からも良いでしょうか?」


 立派なとぐろを巻いて休憩するオロ部長を見上げながら私は尋ねる。


「オロ部長は血吸い大コウモリの棲息場所をご存じなのですか?」


 頭を縦に振ったから知っているってことね。なら、このまま進みましょう。

 あと、もう一つ訊きたい。

 

「オロ部長は人の気配をかなり前から判っているみたいです。どうですか? この周辺や先に人の気配はありますか?」


 首を横に振る。

 でも、それ、どっちよ。分からないってことか、人はいないってことなのか、伝わらないわよ。


「より速く進むために、森を燃やして良いでしょうか?」


 オロ部長、少し考えた上で首を縦にしてくれた。舌もチロチロ出しながらで、少し可愛いのか不気味なのか分からないわね。


「ちょっと、メリナさん、森を燃やすってどう言うことですか?」


「そのままです。歩きやすくするために燃やします」


「火事になるんじゃなくて?」


 んー、そうなの? 生木って意外に燃えにくいんだけど。


「ジメジメしているから大丈夫です」


 根拠なし。でも、落ち葉とかも少ないから杞憂よ、きっと。


「分かりました。カトリーヌさんが了解したのですから、問題ないでしょう」


「ありがとうございます。オロ部長、方向としてはあちらで宜しいですか?」


 私が指し示すと、オロ部長は頷いた。



 私はそちらへ向かって一人だけ歩き出す。

 そして、両手を前に出し、足もしっかり地を踏み締める。


 久々ね。炎の魔法は。去年、お母さんに怒られて以来かしら。



 私は願う。


『聖竜様、私、メリナです。お力をお貸しください。この森に真っ直ぐ道を作りたいんです。ですので、炎をたっぷりお出し下さい』


 願い終えると両手から赭色の炎が勢いよく暴れ出る。そして、広がることなく、願い通りに地面から私の背丈くらいの高さのまま、一直線に森を貫いて行く。道ってお願いしたからか、商人さんの幌馬車が2台通っても十分な幅だね。


 炎に当たった木々は幹を焼失して倒れる。尚も私の手から炎は出続けるから、倒れた木も私が作った道の上に落ちたなら燃え尽くしてしまう。灰も残らない。


 ドンドン道が延びていくのが分かる。気持ちいいわ。今の私に燃やせないものは無い。それくらいの気持ちよ。


 炎が十分に奥まで達したと思ったところで、私は構えを解いた。

 ふぅ、だいぶ疲れたわ。体が重い。

 アデリーナ様に、もう少しの休憩をお願いしよう。



 振り返ったら、アデリーナ様が呆れた、いえ、驚いた感じの表情で私を見てきた。何て言うか、恐ろしい物と遭遇した感じ。


「……メリナさん、今のこれ、何ですか?」


「火炎魔法です。聖竜スードワット様から教わりました。いえ、教わったと言うより、使いたければ、協力しようと言われています」


「えっ、本当にですか? えぇ、今の聖竜様の御所為なのですか!?」


 信じてください、アデリーナ様。

 続けてグレッグが声を掛けてくる。


「……メリナ、俺は夢の中にいるのだろうか。聖竜の奇跡を見たような気がするのだが……」


 大袈裟です。でも、そう言われると気分が良くなりました。グレッグさんと心の中の呼び方を戻してあげましょう。しかし、聖竜『様』です!



「……これが、あなたが言っていた本気ですか?」


「はい。あと一発ならまだ放てると思います」


「止めて下さい。カトリーヌさんもこれだけの威力で超長距離攻撃魔法を放つなんて想定していなかったと思いますよ。この先に死体が発見、いえ、……燃え尽きてますね……行方不明者が出た可能性だってあるのですよ」



 アデリーナ様が私の手を握り、続けて言う。


「あなたの力は分かりました。ただ、私が許可しない限りは、もう使用しては行けませんよ」


 お母さんと同じような事を言うなぁ。


「……はい」


「分かっているのですか!? 木が燃えずに一瞬で気化しているのですよ! しかも、周囲にその熱を伝えていない! 出ているのは炎かもしれませんが、今のは火炎魔法なんかじゃない、全く別のものです」


 真剣に言い終えてから、私の耳の側でアデリーナ様が小声で言う。


「戦力としては抜群よ、メリナさん。今すぐにでも王都を落とせますね」


 何、言ってるんですか。怖い冗談を聞かせないで下さい。あなた、王位継承権をお持ちでしょうに。

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