部署からのお迎え
開いた扉の向こうには、眼鏡の人と同じように黒い服と白い帽子の女性がいた。だから、ここの巫女さんよね。
ただ、体が引き締まってはいるけど大きすぎてパツパツね。ゆったり感が圧倒的に足りないわ。
「殲滅部、ただ今参りましたっ!!」
違うの。そんな感じだと、本当にどこかの軍隊じゃない。いえ、軍隊でも有り得ない気がするわ。
私は竜の神殿に就職したのよ。
嫌な予感しかしない。
水で身を清めるとか、静かに聖竜様にお祈りするとか、そんな生活を予想してたし、期待してたの。
返り血を浴びたい訳じゃないのよ。
「……アシュリンさん、静かに厳かにって、いつも言っているでしょ」
眼鏡の人が眉間にシワを寄せて、いきなり入ってきた女性に注意する。
ただ、言っても聴かない性格っていうのが初対面の私でも分かった。
「副神殿長、いつもご忠告ありがとうございます!! このアシュリン、肝に銘じて、静かに厳かにを心掛けます!!」
ほら、一切、無視しているじゃない。
本気なの、この人。わざとじゃないの。
って、眼鏡の人、副神殿長って、ここで二番目に偉い人でした!?
いやはや、今更ながらに恐縮です。
眼鏡話、楽しかったです。
「アシュリンさん、心掛けていないことがお分かりでないの? 聖竜様が驚くくらいのお声ですよ」
「ハッ!気を付けますっ!」
冗談でしょ。
さっきの先輩巫女さん二人とタイプが違いすぎるじゃない。
私の方が上品なんじゃないかな。
学ぶべきところがあるのかしら。
私、この人と仕事をしないといけないの。下手したら上司よ。
こんなノリに慣らされたら、村に帰った時に皆が困惑するじゃない。都会って怖いよねって話になるでしょ。
「急なお呼びに喜んでおりますっ!」
「そうね。それは良かったわね。連絡が無事行ったのね」
副神殿長は軽く溜め息を吐いてから、続ける。
「……アシュリンさん、こちらが補填人員のメリナさんね。詳しくはこちらの書類に載っているから」
「ハッ!!」
素早く敬礼した後に、アシュリンさんが大きな肩を縮めて両手で、その書類を受け取った。
「メリナ嬢を立派な戦士に鍛え上げてみせます!」
そうじゃない。違うでしょ。
あなたも巫女でしょ。そうだと言って。
そんな思いを察したのか、副神殿長が私に向かって助け船を出してくれた。
「メリナさん、二年。二年我慢すれば別の部署に異動できるからね。ごめんね。でも約束だから。私たち眼鏡友達だものね」
実は助けてくれていなかった。
「……はい」
私も弱い。副神殿長の申し訳ない顔に負けて返事しちゃったよ。
それにしても、私は眼鏡してないけど眼鏡友達になれてるのかな。