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検分

「メリナ、火球魔法は使えるか?」


「えぇ、使えますよ、グレッグ様。……焼き尽くしますか?」


 私の言葉にグレッグは顔をこわばらせる。その表情は何よ。えっ、私、間違えた?

 この状況で訊かれたら、それくらいしか火の使い方は無いじゃないの。



「……空に向かって射ってくれ。それを信号弾とするんだ。見廻り兵が様子を見に来てくれるはずだ。それにしても、……本当にお前は怖いな。顔と行動が全く合っていないぞ」


 怖いって何よ!? あなたが柔弱なのよ。

 ただ、渋々だけど指示には従う。この状況をほったらかしにしたら、明日の朝は大騒ぎになってしまうわ。



 しばらく経って、馬の音が聞こえ始める。空にはもう幾つか星が見える程度に暗くなっている。


「グレッグ様、私はか弱い巫女で御座いましたよね?」


 機先を制しておきたい。これは騎士見習いグレッグ・スプ何とかさんが活躍した跡なのよ。


「……その方がお前に都合が良いのか、竜の巫女よ?」


 おぉ、『竜の巫女よ』と来ましたか。とても良いセリフを頂きました。

 私はゆっくりと首肯く。ブンブン縦に振りたいところだけど、そこは我慢。私は竜の巫女。威厳があるところを見せてみたい。


「分かった。その線で説明する。無詠唱魔法に、且つ、あの体術……。隠し事のある身分なんだろうな、お前は」


 違うけど、そういうことで。

 私はただの元村人の巫女見習い。

 冒険者を5人始末しましたなんて、シェラとかマリールに知られたら、再び引かれてしまうわ。ただでさえ、昨日からの靴の臭い騒動で若干の壁が出来始めてもおかしくないのに。

 更に言えば、たぶんアデリーナ様が絡んでくる。絶対ニヤニヤしながら寄ってくるわよ。あの人、怖すぎて苦手なのよ。


 あと、縛られている男が喋らないように縄を何重にもして咥えさせた。涎が口の端から溢れてきて、うん、ごめんだけど汚い。



「俺はグレッグ・スプーク・バンディールです。騎士見習いをやっています」


 グレッグはやってきた騎兵隊の長に説明している。その人だけ帽子型の鉄兜に赤い羽根が生えているので、他の騎兵さんより位が高いのだと分かりやすい。

 グレッグは続いて胸元から盾の意匠のペンダントトップを見せる。更に首からネックレスを外して、その裏面が読めるように騎兵長さんに渡した。私もチラッと見たら、所属とグレッグの名前が彫られていた。


「確かに。お疲れ様でした」


 こちらの騎兵さんより、騎士見習いさんの方が偉いのかしら。丁寧な対応をグレッグが受けている。


「我々は先ほどの火球の原因を調べにやって参りました。それは貴殿方によるもので御座いましょうか?」


 他の騎兵さん達は既に散開して、それぞれ倒れている男たちの下に行っている。脈や息を確認しているようね。


「そうです。こちらの少女が襲われていた所を助けました。火球については、俺が彼女に唱えるように依頼しました。なお、この男どもは過去に殺人を犯している旨を既に白状しています」


 グレッグ、ありがとう。さっきの話通りに私を庇ってくれた。


「了解です。お嬢さん、何もなさそうで良かったですね。ただ、日が暮れそうになる前には家へお戻りください。今回の幸運が続くとは限りませんよ」



 騎兵長さんは次に縛られた男を見る。


「グレッグ様、この男をどうなさいますか?」


「あぁ、街に持ち帰って欲しいです。その後は好きにして下さい」


 好きにしてくれって、そんな雑な指示で良いのかしら。


「了解です。それでは余罪について調査した後に奴隷として売り払います」


 グレッグは少し躊躇う素振りを見せたが、答える。


「……それで良いです。ただ、競売で得たお金は不要です。そちらで処分して下さい」


 お金は要らないってこと?

 グレッグ、あなた、騎士になるための試験でお金が必要なんじゃないの。



「グレッグ様、一応、この男の弁明を聞いても宜しいでしょうか?」


「もちろん構わないです」



 騎兵長さんは、男の口の縄を剣で切る。グレッグがしっかり結んでいたから、解けなかったのね。でも、上手。鮮やかな剣技だわ。男の顔を微かにも傷付けなかった。


「さて、何か申し開きはあるか? なお、こちらは貴族のお方だ。下手な言い訳は止めておけよ」


 グレッグが貴族と聞いて男は更に気落ちする。たぶん、自分の弁解が通る可能性が極めて少なくなったから。


「……俺たちは襲われたんだ、そこの女に。見ろよ、皆、死んでしまった」


 目で私を指しながら、男はそう言う。

 予定では、騎兵さんにグレッグが襲ってきたと伝えるつもりだったのかな。ところが、グレッグは貴族様で、彼の所業として訴える事は逆に別の大罪と成り得るから、無茶に思っても私をターゲットにしたのね。


「どうでしょうか? グレッグ様」


「こちらのお嬢さんが四人も倒し、一人を縄で捕らえるなんて考えられますか?」


「ですね。念のために、後でお嬢さんのお名前などをお聞かせ下さい。私は彼らの身元に繋がるものがないかを探してきます」


 騎兵長さんはそう言ってから、部下たちに検分状況を尋ねに向かった。



「ありがとうございました。グレッグ様」


「あぁ。あの氷の槍をどうしたのか訊かれたら不味かったな」


 あぁ、まだ突き刺さったままだった。あれ、消せないのよね。明日のお昼までに溶けるのかしら。


「グレッグ様の仕業ということで」


「無茶言うな。人を突き刺したまま浮かせられるレベルの魔法なんか使えるかよ」


 そうなの? グレッグには難しいのかしら。でも、そこは貴族様だからと言うことで誤魔化してよ。



 しばらくして騎兵長が戻ってくる。


「全員、冒険者でした。ギルドカードを所持していたので身元はすぐに分かりそうです。明日から周辺を調べて余罪について追及致します」


 騎兵長は私に近付く。



「では、あなたの身元について教えてください」


「竜の巫女、の見習いをしています、メリナです」


 私の返答に騎兵長さんは驚く。


「なっ! 巫女様であられましたか!? これは失礼致しました!」


 えっ、その反応は嬉しいんだけど、ちょっと正直、戸惑ってしまう。まだ見習いだし。


 あと、この場所、私が作ってしまった死体が複数有るの。あなたが思う巫女さんのイメージと合わないって知っているから、居心地悪いのよ。

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