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地上へ

 動きを封じたブラナンを蹴り続けていると、皮膚なのか殻なのか、そんな物がパラパラ剥離していきます。魔族の外殻ってヤツなんでしょう。

 中身は真っ黒でして、明らかに普通の生物とは異なっていました。


 どうかなぁ。ルッカさん、まだ意識を保っているかな。さっさっと魔力を操作して、ブラナンを追い出して、フロンをふーみゃんに戻して欲しいんだけど。



「ちょっと! これ、いつまで続けるのよ! アディちゃんを助けるにはどうしたら良いのよ!」


 知るか。とりあえず、痛め付けてれば良いのです。

 ほら、ブラナンがごめんなさいすれば、何とかなるんじゃないですかね。


「謝罪ですよ、謝罪。そうだ。淫らな魔族よ、私に謝りなさい。話はそれからです」


「あん? ムカつくわね。ぽっと出の田舎者にアディちゃんを取られそうになった私の気持ちが分かる?」


「取る気はないので、ご自由に。最早、ふーみゃんに戻ってもお前をどうにかしようとも思えないですね。目障りだから駆除したいくらいです。とりあえず、去勢は決定」


「はぁん? 生きる喜びを失うくらいなら戦うわよ。お前のくっさい足をまた切断してやるから」


 フロンの心ない言葉に、私はブラナンを蹴る足の力が強まりました。

 私は臭くないです。微かに臭いかもしれないけど、乙女としては許容範囲です。絶対に大丈夫です。安心しましょう。



「お前、ブラナンと口付けしなさい。ラナイ村でアシュリンさんの体を奪ったみたいに、お前が乗り移ったら、一挙両得です。お前も含めて蹴り殺してやります」


「はぁ? うっすらとしか覚えてないつーてんのよ。あれもアディちゃんが持ってきたお酒を飲んだから出来たの! お前が飲んでれば良かったのよ!」


 あぁ、確か、ほぼ毒入りのお酒でしたものね。アデリーナ様の罠に嵌められずで良かったです、私。

 いや、ナタリアが持ってきたヤツは、確か、フロンに毒を盛られていたんです! 怒りが沸き続けますね。

 しかし、今はブラナンを仕留めることが先決です。ガランガドーさんが言っていた、次の段階を待つのです。



「これ、しぶといわね。……化け物、さっさっとさっきの魔力の塊を出して、こいつの全身を消し去りなさいな」


 フロンの長い爪で何回も色んな箇所を刺しても、ブラナンは息絶えない。



「ふは、私は死なぬ……。ロヴルッカヤーナの体は……ここまでに素晴らしいとはな……」


 全身穴だらけなのに、ブラナンが突然に喋りだします。


「……ヤナンカは何をしておる……。最後の仕上げを見たくはないのか」


 言葉とは違って、もう虚ろな目をしておりまして、最期の時寸前って感じなんだけどなぁ。死の直前の迷い言だと良いのだけど。


「ヤナンカって誰か教えなさい、雌猫!」


「はあ? それが人に教わる態度とでも思ってんの?」


「メリナさん、情報局の局長さんですよ」


 あっ、それ、もうこの世にいないはず。ガランガドーさんが魔法で蒸発させたって言っていました。



 ん? ここで私は思い付きます。

 じゃあ、ブラナンも同じ様にガランガドーさんが倒せば良いんじゃないですかね。


『……主よ、まだ早い』


 早い?


『そうである。我はあの鳥を人の目の前で落としたいのだ。死を運ぶ者たる、我の伝承が永きに渡り民草の間で語り継がれたいのである』


 わっ。スゲーどうでも良い理由です。

 承認欲求の極端なものを見せつけられました。


 ガランガドーさんはそういう所有りますよね。無駄にカッコを付けるっていうか、微妙なネーミングセンスもどうかと思うんですよ。地獄の呻きとか、何も知らずに端から聞いたら、ガランガドーさんがダメージ受けているのかと思いますよ。そう思いません?



 ……あれ?


 ちょ、ガランガドーさん、黙らないで下さいよ! 私が言い過ぎました! ごめんなさい!



「ヤナンカ……気配がないぞ……。そうか……お前も心半ばで倒れたか……。しかし! 私は戦う! 従える! 絶対たる存在として君臨する! 漸く、満ちたのだ!」


 突如、ブラナンは叫び、そして、消えました。



「ちょ! 化け物、どうするのよ!」


「黙りなさい、年中発情期の淫獣よ」


 ガランガドーさん、ヤツの場所は分かりますか!?


『無論! 我に乗るが良い!』


 ガランガドーさんはいつもより大きいサイズで出しています。横穴からここまで降りるのに、ガランガドーさんの背に乗ったからです。



「メリナさん、フロンさん、行きますよ」


 私がガランガドーさんの言葉に従い、視線を戻した時には、既に巫女長がガランガドーさんに乗っておりました。

 巫女長、とても楽しそうなお顔です。


「上よ、上。あのブラナンって言う悪い人は上にいるわよ。私には分かるの。さあ、竜さん、皆を連れていきましょうね。ワクワクするわ。私、竜騎士さんみたいになるのね」


 ノリノリです。ガランガドーさんの首を、巫女長は恋人にやるみたいに腕を回して抱きついています。



 一番良い場所を巫女長は取った訳でして、結果、私とフロンはその後ろになるのです。


「ちょっ! 化け物! 私の腰を触らないでくれる!?」


 いや、私も触れたくないんですよ。手が腐りそうです。


 仕方ないじゃないですか。

 前から巫女長、お前、私の順で並んでいるんです。

 そもそも、お前が仲間面して私より先にガランガドーさんに乗った事に何らの疑問を感じないのですか?



「嫌なら、お前は空に浮かんで自力で来たらいいじゃないですか? 乗せてやっている私の慈悲に深く感謝しなさい」


「私はか弱いのよ! 楽できるなら、頼るに決まっているでしょ」


 一々こいつは私に敵対的です。立場と言うものを分からせないといけません。


「フロン、私は今、あなたの背中を取っているのです。つまりは、私はいつでもお前の腹にでっかい穴を開けられるということなんです」


「はん? そんな非道なマネは出来ないでしょ?」


「うふふ、しないとでも? この私が?」


「…………にゃー」


 あっ、口で勝った! 勝った!

 うふふ、勝ちましたよね、私。


「素直で宜しい。では、行きましょう、ガランガドーさん!」



 ガランガドーさんはグインと急上昇。私の気持ちと同じですね。顔に当たる風が心地良いです。

 横穴を突破したくらいで少し速度が落ちたのは、回復を終えたアシュリンさんが跳んできて、ガランガドーさんの尾を掴んで同行してきたからです。

 この人、変わらずに元気ですね。


「メリナっ! 終わったか!?」


「まだです! が、たぶん、もうすぐで勝利です!」


「良しっ!」


 尾を両手で掴まるアシュリンさんを気にすることなくガランガドーさんは翔び続けます。天井が見えてきました。

 



『主よ、地上の建物を破壊するぞ』


 そっかぁ。お城の地下でしたね、ここ。

 はい、どうぞ。

 王様もヤギ頭もアデリーナ様も笑って許してくれるでしょう。ブラナンを倒す為ならと。

 しかし、ここで私は気付くのです。王様を底に置き忘れていたと。

 未来を順に考えると、ガランガドーさんが城を破壊、大量の瓦礫が落下、王様が埋もれる、後日アデリーナ様に怒られる。ここまで想像できました。



「フロン、大切な任務が出来ました。ここからお前を落とすので、王様を連れて転移しなさい」


「はぁ? 化け物、お前が行きなさいよ!」


「大丈夫よ、メリナさん。私が収納しています」


 小麦粉事件以来かもしれません。巫女長を有能かもと感じたの。しかし、あの時も無茶でしたよね。勘違いしたとはいえ、倉庫の小麦粉を全量窃盗したのです。

 あれの切っ掛けとなったパン屋さんの偉い人、生きてるかなぁ。



 ガランガドーさんは、咆哮と共に黒い何かを天井に叩き付けました。技名は地獄の呻きとかでしょう。



「ちょっ! もっと細かく砕きなさいよ!」


 落下してくる破片の大きさにフロンはビビります。うふふ、小者ですね。

 ここには荒事が専門なお方が居るのですよ。


「貴様っ! フロンか!?」


 アシュリンさんです。迫り来る巨石みたいな物には怯みもせずに、魔族の存在に叫んでいました。


「ここを脱出したら、覚悟しておけ! 鉄拳制裁だっ!」


 是非お願い致します。


「こんな感じで粉砕してやるっ!!」


 ガランガドーさんの尾から頭に曲芸者みたいに跳び移り、視界を塞ぐまでに近付いた瓦礫を、鋭く繰り出した拳からの衝撃波で破砕します。


「巫女長ぉ、あの人、怖い~」


 ここに来て猫なで声を出すフロン。お前、さっきまでブラナンを切り刻んでいただろ。それに無駄ですよ。グレッグさんみたいな人がいればイチコロだったかもしれませんが、ここにはお前と同性しか居ません。


「フロンさん、大丈夫よ。あなたは、岩よりも堅いわよ、きっと」


 的確な比較です、巫女長様。


「チッ」


 まぁ、何て腹黒い舌打ちなんでしょう。



『……主よ、我の頭に足を乗せた弱き者を除けてくれぬか?』


 無理です。

 アシュリンさんは笑みを浮かべながら、一心に岩を砕いています。止めたら、私に拳が向かって来そうだからです



 こうして、私達は地上に出ました。

 巨鳥ブラナンを再び目にしたのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「フロン、私は今、あなたの背中を取っているのです。つまりは、私はいつでもお前の腹にでっかい穴を開けられるということなんです」 「はん? そんな非道なマネは出来ないでしょ?」 「…
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