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戦端

 私達は王城を見下ろしています。お城の1番高い所よりも高所にいまして、人々が豆粒のように蠢いているのが見えます。

 聖女決定戦の決勝で作ったように氷の大きな棒を出しまして、それの頂点の平たい部分に立っているのです。

 さしずめ氷の塔みたいですね。屋根はありませんけどね。


 地上や櫓から魔法や弓矢が飛んできますので、王城の庭先にかなり高い物を作ったのです。


 ここまで簡単でした。

 本店へ転移した後、アシュリンさんを置いて、一度、ルッカさんに空から王城に運んで貰います。これは、私の転移魔法が一度訪れた所、若しくは、視界に入った近い場所じゃないと作動しない為なのです。遠くにうっすら見える山とかには、訪れていない限りは転移できないのですよね。王城も同様で、一旦、私が寄る必要があったのです。


 それから、本店に戻りました。パンを拝借して遅めの昼御飯とした後に、氷の塔を作り、転移したのです。


 本店、誰もいませんでした……。パンは並んでいましたが、鍵が閉まっていて開店準備はしたけれども臨時休業っていう印象でした。

 店長にご挨拶と思ったのですが残念です。



「ルッカ、どの辺りだ?」


 アシュリンさんが屈伸運動をしながら訪ねます。まさか飛び降りての強襲をされる気じゃないでしょうね?


「んー、さっきはお城の奥の方だったんだけど、ムーヴしてるわね。こっちに来ている感じ」


 呑気に話をしていますが、さっきから間断無く魔法を放たれています。でも、ここまで届くことはないので、安心です。たまに、王城の見張り台みたいな所から発射されるものは危ないと感じますので、私は吸収して美味しく頂きます。



「メリナっ! 貴様、ここまでの魔法を使えたのか!?」


 えぇ、自分でもこの才能が怖いです。ここまで大質量の氷を、ガランガドーさんの力を借りる事無く出せるとは思っていませんでした。聖女決定戦の時よりも明らかに魔法が上達しています。

 自分の中ではパン作りが最も優れた能力だと思っていましたが、それに匹敵しますね。天は私に二物を与えてしまったのでしょう。


「魔法勝負ならアシュリンさんに余裕勝ちで――うっ! 右腕が(うず)きました……」


「あんな変なものを腕に入れるからよ。早く出しなさい」


 黒いウネウネが暴れているのを体内の魔力を操作して、元の位置に戻します。油断していると腕の中を上がってくるんですよね。基本、魔力の塊で実体は無いみたいで体を傷付けたりはしないんですが、ムズムズします。



「アシュリンさん、下にワラワラと兵隊さん達が居ますが、全部殺すんですか?」


 戦うなら仕方ありませんが、私としてはクリスラさんが生きているのをこの眼で見ればミッション完了です。パットさんに生きてましたと伝えるだけですからね。

 王都と再戦する云々は、シャールの偉い人達だけで決めて貰えれば良いと考えています。


「どうする、アシュリンさん? 王城を陥とすなら協力するわよ」


 陥とす? 何て物騒な発言なのでしょう、ルッカさん。アシュリンさんがそんな難しい事を考える人じゃない事くらい分かっていなかったのですか?



「ふむ……。ルッカよ、巫女長の気配はないか?」


「無いわね」


「ならば、死体を回収したい。やはりシャールの地にお眠りになられた方が良かろう。闘うしかないっ!」


 そう言ってアシュリンさんは、まるで川に飛び込むように軽くジャンプして頭から飛び下りました。

 それだけでは有りません。体を白く輝かせて例の覇気を身に纏い、落下速度を増したのです。明らかに異常な速さで、あの速度なら私が転移をするのと大した時間差は無いかもしれません。


 大きな音は聞こえませんが、地上では戦闘が始まりました。いえ、アシュリンさんが一人竜巻のように周囲を巻き込み、吹き飛ばしていきます。

 私は落ちないように注意しながら下を覗いて確認していました。


「アシュリンさん、あんなに強かったんですね」


 外から客観的に見る事で分かることも有るのですね。私、よくあんなのと対等に、いえ、ちょっと上回るくらいで渡り合ったものです。コッテン村の一騎討ちが手加減済みだというのも負け惜しみでは無さそうです。


「巫女さんはもっとデンジャラスよ。その気なら、ここから一撃で王城を破壊できるでしょ?」


 えぇ、聖竜様やガランガドーさんにご協力を頂ければ、全てを燃やし尽くせると思います。でも、それってご褒美でも無ければ全く意味のない行為ですよね。


 地上ではアシュリンさんが暴れ続けていましたが、王都側の兵にも出来る人がいたようです。五人ほどの体がアシュリンさんの様に輝き始めました。覇気です。これはアシュリンさん、反撃を喰らうかもしれませんね。

 でも、関係なく内二人を仕留めるアシュリンさん。


「詠唱句からすると、アシュリンさんの精霊は鳥みたいよね」


「そうなんですか?」


 ルッカさんはたまに賢いので油断なりません。聖女決定戦の時に私に出題された筆記試験でも解けるのかもしれないと私は危惧します。私がバカみたいに思われるので悔しいです。


「王都の守護獣は幻鳥ブラナン。アシュリンさんはシャールにいた時よりも強くなっているから、類似精霊による魔力増幅を受けているのかな」


 うわぁ、分からないです。

 地の利みたいな物でしょうか。森の奥底に棲むトロルと森の外縁に出没するトロルは強さが全然違うみたいな事かな。

 うふふ、アシュリンさん、醜悪なトロルと一緒ですね。頭が弱いのも同じです。


「!?」


「巫女さん、どうしたの!?」


「すみません、また腕が疼きまして……」


「早く取り出しなさいよ! クレイジーよ!」


 でも、役に立ちそうだから手放したくないんですよ。


「ブラナンって、アデリーナ様の家名と同じですね」


「そうよ。幻鳥ブラナンの血を引くっていう伝説から来ている一族だから」


「へぇ、アデリーナ様、本当に王族っぽいですね」 



 余所見(よそみ)をしてしまった瞬間に閃光が周りを包みました。慌てて下を確認すると、私と戦った時と同様に双方が出した圧力波が正面衝突した様でした。証拠に衝撃波が向かってくるのが見えましたから。


「3対1は厳しいですね。私達も参戦しますか?」


「大丈夫よ。種は蒔き終えているから。私、スマート」



 ルッカさんは氷で出来た足場からはみ出て歩きます。空中歩行です。飛行できるので無駄な演出ですが、ミステリアス感を出してきましたね。私しか見ていないので無意味ですよ。


『我は願い命じる、その冥き途を往く獅子に、併せて、標を(はや)り繰れる玄鯉に。舞い降りたる花弁と矢原を踏み破り、(とかきぼし)が千歩を進む。そして、晨朝(じんじょう)も暮夜も略記の想いを潜め露る。此、即ち、宿儺(すくな)稼稷(かしょく)也り』


 いいなぁ、詠唱。私もしたいです。

 何でしたっけ?


 わっれっはうんびっんのぉぉ……。


 マイアさんはレベルが高過ぎるので先生にするには足り過ぎてダメでしたね。

 魔法学校に行きたいなぁ。デュランにもあるって言うけど、あそこの街は料理がくどいからなぁ。



 考え事をしている間にルッカさんの魔法が発動しました。たぶん、しました。魔力が動いて王城の色んな所に飛んで行ったのです。


 すぐに効果が分かります。庭での戦闘が大混乱に陥ったのです。今までアシュリンさんの突破に備えて、王城の建屋に続く道をそれなりに整列した重歩兵が守備していたのですが同士討ちが始まり、悲鳴と怒声がここまで響きます。


「コッテン村から王様の所に強襲したでしょ? あの時に兵隊さんを下僕化していたの。私、グレート」


 ……うーん、ルッカさん、吸いまくっていましたものね。文字通り、狂うほどに。


「本当に大丈夫ですか? 私もルッカさんに吸われているんですけど」


 マジ怖いです。魔族恐るべしです。


「大丈夫だって。安心してよ。セーフティよ。私と巫女さんの仲じゃない」


 うわぁ、根拠無しですよ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ルッカさん、 巫女さんを眷属化したら逆侵食されそうだから辞めてるのかな 腹壊しそうだから控えてるのか、どっちかな
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