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恐ろしき娘よ

 体の自由を奪われた私は、ガランガドーに罵詈雑言を浴びせ掛けて、鬱憤を晴らすくらいしか出来ることは有りませんでした。

 でも、ガランガドーは私の言葉を無視して、マイアさんへの攻撃に専念するのです。腹立たしかったです。


 私の体、うーん、いやぁ、今はガランガドーの体になるのかな、その体内の魔力を動かしてどうにかしようとしても、ガランガドーの制御下にあったのか、私の言うことを聞かずでピクリともしないし、外の魔力を使おうとしてもガランガドーの厚い皮膚で遮断されているみたいで私の願いは届きませんでした。


 やがて、視角や聴覚といった五感も無くなり、魔力感知もガランガドーの体内のものしか分からない状況におかれました。

 真っ暗で静かで上も下も分からなくて、これ、私は死んだのかなとか思ってしまいました。


 永遠にガランガドーを憎しみ、呪い、殺意を抱き続けるしかない。そんな思いで、聖竜様にお祈りをしていましたよ、私。あと、愛の言葉もお伝えしました。



 その甲斐があったのかもしれません。

 こんな状況でもチャンスは巡って来ました。そして、私はそれを掴み取れる女です。



 突然、ガランガドー以外の魔力を感じ取りました。即座に魔力を操作して、ガランガドーの体の中を素早く動く、それを捕らえて、物質とします。


 とりあえずは細長い針みたいな形にして、ガランガドーの体の中に埋め込みます。動く度に痛みに苛まれるが宜しいのです。



 その魔力をあらかた吸い取り終わると、外の魔力も感じなくなりました。

 私、分かりますよ。見覚えのない質の魔力でしたが、きっと、さっきのはマイアさんの攻撃です。それがガランガドーの皮膚を破ったから、私は外の魔力を穴のような断面で感じ取れたのです。うん、何かで貫通させる魔法に違い有りません。


 今は、そんな外部の魔力の感覚が消えてしまっています。マイアさんの攻撃が終わって、ガランガドーの皮膚が元に戻ったのかな。ガランガドーも回復魔法の一つくらいは使えるだろうなぁ。聖竜様と同じ竜だもの。


 私の脳裏に、魔法で首を焼き落とされた聖竜様が光に包まれて復活した時の光景が浮かびます。


 あの時の聖竜様、しばらく動かなかったから、私は泣かずに口付けすべきだったかもなぁ。永遠の眠りから目覚めるキッス。うーん、惜しかったかもなぁ。


 はっ!!

 ……流石におかしいです、それ。狂犬以上に狂気の塊ですよ。いやぁ、しかし、それくらい聖竜様を愛しているという表現に成り得るか。


 いやいや、でも、やっぱりダメですよ。

 私はブンブンと首を振って思考を切り替える。もちろん、今の私に体は無いので、思っただけです。


 聖竜様を思い出した事、それが私に火を着けます。

 次こそ、ガランガドーに極大のお仕置きをやってやりましょう!


 罵詈雑言を吐き散らしながら、しばらく好機を待つと、また、お外の魔力に触れることが出来ました。

 今度は大きな断面。うふふ、体が切断された感じですね。

 魔力的には、白に近い黄色、……これ、リンシャルのだ……。うわぁ、操りたくないなぁ。あと、赤いのも混ざっています。


 仕方ありません。贅沢は敵ですね。あの害獣の魔力でも使います。


 くいくいっと魔力を捏ねまして、リンシャル戦の時のように質量物を作ります。


 選択肢としては槍も有りましたが、より威力の高い物をと考えました。懐かしのリンシャル戦では盾や目隠しに使用した黒い壁、これを空高くに構築して、落とします。

 それから、外の様子が分かるように、鱗を貫く針を。



 ようやく外の様子を観察する事が出来るようになりました。ここの空間の魔力濃度は高くて、それを通じて、マイアさんやミーナちゃんがいるのが伝わってきます。目とか耳とかまでは判別できませんが、頭とか足とかはぼんやりと認識できます。

 ……うん? ……ミーナちゃん、一瞬で強くなってない? 成長期って凄いなぁ。



 !?


 そんなミーナちゃんの頭部が突然、砕けました。それから、胸を強く圧されて吹っ飛びます。瞬時にマイアさんから回復魔法が飛びました。


 魔法は間に合っていました。

 ……頭を潰されても生きていたミーナちゃん、凄いです……。あの一瞬では完全な死には至っていなかったということでしょうか。



 私の出した壁はようやくガランガドーに到達して、見事に首を切断しました。

 しかし、私の怒りはこんな程度では解消されません。もう一度、黒い壁を空高くに構築。

 


 ガランガドーの声が私に向けられます。


『何をした!?』


 おやおや、焦られています?

 先程までは完全無視でしたから、言葉を出すという行為だけでも、あなたの心情が読み取れますよ。

 これ、嫌なんでしょう? 不安なのでしょう?


 私は答えずに、再度、落ちてきた黒い壁で首を切断。



 それから、外に有る魔力を用いて、ガランガドーのあらゆる関節に内部から黒い槍を差し込みます。逃亡対策です。転移魔法で逃げるようなら、他の手を取りましょう。



『貴様っ、自らの体を傷付けているのだぞっ!?』


 知りません。

 私はお前が許しを乞い、深く反省するまで切断し続けます。



 私は延々と繰り返す。



 ミーナちゃんが意識を回復したのを確認して、宙に魔力で文字を描く。


″元の世界に戻ってお茶を一杯飲まれてから、また転移して来て下さい″


 マイアさん、読めるかな?


 何か、口っぽいところが動いた気がします。

 もう一度、魔力で文字を。


″聞こえません。私みたいに魔力で字を書いて貰えませんか? 若しくは、転移されるなら魔法を二発打ってください″


 マイアさんの火炎魔法かな、そんなのが二発放たれて、それから二人の気配が消えました。



『メリナよ……彼女らは戻ってこないかもしれないぞ』


 そうかもしれません。別に良いですよ。

 その場合、私は永遠にお前を痛め付ける存在になるだけです。


『わ、我の体が崩壊すれば、元になったお前の体も失うのだぞ?』


 もう失われているので、どうでも良いです。お前が消えてから考えます。ブラフかもしれませんし。

 私は断頭を止めない。


――――


 もう何日、ガランガドーの首を切り落とし続けているのでしょう。

 お腹を空かすことも、睡眠欲もなく、私は黒い壁を作っては落とすだけの日々です。

 最近のガランガドーは命乞いでしょうか、止めてくれとか言っています。

 たまに苦し紛れのブレスを吐いていますが、私には関係ありません。


――――


 あれから、幾日過ぎたのでしょうか。時間の感覚がなくて、もしかしたら、一月程度経ったかもしれません。

 まだ私は首を落し続けています。魔法で防ごうとガランガドーは頑張っていましたが、私の物量攻撃には勝てませんでした。


 最近、気付いたのですが、ガランガドーの復活速度が落ちて来ています。そして、ヤツの体内の魔力も私が扱える部分が増えている気がします。


『メリナよ……我は……お主に従おうぞ……』


 無視です。私は首を落とすだけです。


――――



『…………負けを認めて、どれくらい経ったのだろうか……』


 さあ?

 断頭。


『……恐ろしき娘よ。獅子身中の虫は、お主の方ではないか』


 断頭。


『何度言ったか分からぬが、体を戻したい』


 断頭。

 私はそんな甘言に騙されません。


『もう消えそうなのだ……』


 断頭。


『魔素に戻るのは――』


 断頭。


『聞いてく――』


 断頭。


『本当に消える』


 断頭。

 本当にって、お前は何回言うのですか。最初に言ってから千回は頭を落としていますよ。


 ふてぶてしかったガランガドーもだいぶ弱って来ました。当初に感じた膨大な魔力も体内に維持できず、半分以上は外へ漏れ出ています。

 空間の魔力が黒く濁っておりますね。



 ふぅ、宜しい。

 少し私は慈悲を見せます。お喋りに付き合ってやりましょう。


 ガランガドーよ、消えてはなりません。私の魔力の源なのですから。


 ……ん、いや、幼い頃に聖竜様のお力も頂いておりましたね。ガランガドーが消えることで、私は聖竜様100%の魔力となるのです。

 ならば、一刻も早くガランガドーには消えてもらわないといけないか。



『……誤解がある。我はスードワットより生まれた……』


 えっ、ふーん。断頭。

 ふ、ふーん。聖竜様のお子さまなんだー。

 ふーん。断頭。

 断頭。体を縦に割りたいなぁ。


 ふーん。お子様いたんだ、聖竜様。

 断頭。


 結婚してたのかぁ。

 断頭、断頭、断頭っ!!



 世界って、どうやって滅ぼせばいいのかなぁ。ねぇ、ガランガドーさん、一緒に世界を無くそうか?

 死を運ぶどころか、生死っていう概念が無くなるくらいに世界を滅茶苦茶にしませんか?

 断頭。



『ご、誤解がある! 我はスードワットに呼ばれ――』


 断頭。


『与えられたのだ! お主は』


 断頭。


『我はスードワットの声に応じ、生まれし精霊!』


 死ね。殺すぞ。


『瀕死のお主にスードワットが与えた!』


 ふーん、断頭。落ちた頭も粉砕。


 えぇ? ふぅん、ふーん? ふん?



 えっ? 与えられたの?

 私、確かに幼い時には毎晩、熱が出たりして辛かったんです。で、夢の中で聖竜様にお会いして、お力を頂いたのです。あのご恩は一生忘れません。



『我は二度と逆らわぬ。不義の契りを交わそうぞ』


 いやぁ、何か、その表現だと結婚的なニュアンスにも受け取られ兼ねません。聖竜様に誤解を受けそうなので、お断りです。


『くぅ! まさか、ここでそんな否定をされるとは!!』


 ガランガドーは、たぶん最後の気力で叫びます。


『しかし、我の存亡の危機っ! 絶対服従の証しだ! 受け取れぇ!!』


 情けない状況のはずなのに、無駄にカッコつけた響きのガランガドーの言葉の後、私の体に、いや存在していないんですが、感覚的には体に、何か熱いものが流れ込んできました。


『……我が存在できる魔力濃度では無くなった……。体を戻すぞ』



 私は私の体の中にいました。

 久々でして、立つという感覚を忘れておりまして、座り込んでしまいます。



『恐ろしき娘よ』


 ヤツの声が聞こえました。

 私は余裕を戻したその声色に腹が立ち、空間に残る黒い魔力を集め、捏ね、凝縮して、ガランガドーを顕現させます。


『えっ?』


 どれだけの時間と回数、お前を断頭するのに魔力を操作していたと思うんですか?

 これくらいは出来るようになりますよ。


 リンシャルが現れた時も、「魔力を圧縮して云々、凄いわ、素敵よ、メリナさん」的な事をマイアさんは言っておりました。

 つまりは、こういう事でしょう?


 小振りなサイズで現れたガランガドーを断頭。


 服従しなさい、分かったか?


『そう誓った。我はお主の請いに付き従い、生涯を捧げよう』


 断頭。

 お前、言葉を慎め。結婚したみたいになっているでしょうが!

 蹴り上げて、ヤツの死体っぽいのを引っくり返します。


 私は鋭い視線をヤツの股間に遣ります。

 ふむ。モノは無さそうです。しかし、ちゃんと見ないといけませんね。



 死んだままになっているヤツに近付き、穴が有るかの確認作業として、色々とまさぐっていました。そんな所を、突如出現したマイアさんとミーナちゃんに見られまして、ちょっと気まずいです。

 私が変態っぽく思われそうです。

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[一言] 断頭マシーンメリナ。面白かった。
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