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メリナの学習成果

 にっくき裏切り者のシャプラはヤギ頭の横で、きったない椅子に座りました。

 表情は無く、じっと前を向いています。生意気です。


 対する私も椅子に座り直しました。ただし、場所は先程まで食事を取っていた場所ではなく、ヤギ頭の近くでもなく、いつでもシャプラの死角から襲い掛かれる、端っこの列の一番前。誰も席にいないミミズの皿の前です。

 私、「あぁ、ミミズも大好物でした。忘れていましたわ」って呟きながらの移動という完璧な演技でこの席に移動しました。余裕です。



 ヤギ頭の他に、腕が毛むくらじゃの男が正面にやって来ました。彼も獣人でしょうが、何の動物が混ざっているのか分かりません。熊か大猿の類いかなぁ。

 体は痩せ細っているだけに、その太い腕のアンバランスさが目立っています。上半身が裸なのは、腕が通らなくて普通の服は着れないからかもしれません。



 そうか!? 私は勘付きました。

 シャプラめ、プレゼントがその醜い獣人である事に驚愕なさい! 

 そして、結婚式場で自分の欲深さを反省するのです。

 いや、このまま結婚式に突入するのですね!



「皆の者、目を閉じ祈ろう。神の血肉とならん者へ」


 ふん、私はヤギ頭の言葉に従いません。

 薄目で見ています。キッスが始まるのですね。

 見届けましょう。その不埒な行為を! 今後の参考までに!



 腕だけ毛むくらじゃの獣人は手にしていたナイフをシャプラの首に当てました。


「同士よ、忌むること勿れ。これは――」


 私、思い違いにちゃんと気付けました。自分で招きながら危機一髪でした。


 目の前にあった皿をミミズごと投げ付けて、ナイフが進むのを阻止します。


 この状況では外せませんし、外しません。狙い通りです。


 ナイフを持っていた獣人は頭部への衝撃で意識を失い、一旦、シャプラさんに(もた)れ掛かってから床に倒れ込みます。


 危なっ!

 シャプラさんの命を無駄に散らすところでした。何ですか、これ。

 死をプレゼントって、どこかの闇宗教じゃないですか。そこに奉っている竜も邪竜でしょうね。

 シャプラさんが言ったみたいに邪教の如くですよ!


 皿が砕けた音と倒れた音で、呟いていた皆が目を開け、シャプラさんを見ます。その後、ヤギ頭の視線に沿って、私に注目が集まります。



「何のつもりだ?」


 ヤギ頭のセリフは、私が言いたかった言葉ですよ。


「女性を傷付けようなど非道です」


「これは神聖な儀式。肉体を離れ、魂の形で神に仕えるのだ。この者の覚悟を邪魔した罪は重い」


 生け贄を捧げようとしていたのですか。許しません。私を選ぼうとしたことも絶対に許しません。

 しかし、私が飢えた時に助けて貰ったのは事実。殺しはしません。



「ヤギ頭よ、あなたが先に神の下へ向かえば良いのです。私が送って上げましょうか?」


 あっ、殺す気マンマンのセリフになってしまいました。本意ではないのですよ。


 周囲のざわつきもあって、不穏な空気になって参りました。

 背後に気配を感じ、私は裏拳の一撃でそいつを伸ばす。奇襲でもしたかったのでしょう。


 石壁に埋もれるのではというくらいの衝撃音で、何人かの人は慌てて出口へと逃げていきました。しかし、ほとんどの人は様子を伺っている様です。



「しかし、私は聖竜様に仕える身。同じ竜を信仰する者として慈悲を見せましょう。ヤギ頭、お前には教育を与えてやります」


「……メリナ……」


 シャプラさん、ごめんなさい。私の身を案じて、前に出てくれたのですね。ありがとうございますっ!

 ならば、私もそれに応えるまでです!



 私は全速でヤギ頭に近付き、金的。潰します。口も眼も大きく開いて、悶絶しています。そして、回復魔法。

 ビーチャとデニスの教育で私は学習しています。これを何回も繰り返すと、男の人は従順になるのです。



「も、も、もう()めて……」


 うふふ、まだ6回目ですよ。言葉を発さずに、眼で必死に懇願して来る様になるまで続けるのです。



 20回を越えた所で、反応が薄くなりました。目が死んでいます。良い仕上がり具合ですよ!

 他の方々は膝を付いて祈りの言葉を呟いています。邪悪な竜にでも命乞いでしょうか。




「……メリナ……もう許してあげて……」


 ふむ。シャプラさんは優しいです。戦場では死んでしまいますよ。

 私は念入りにあと5回ほど潰しておきました。ヤギ頭は血と脂に(まみ)れて、ぐったりしています。



「メリナは……竜の巫女……」


 床に座ったままのヤギ頭にシャプラは言います。


「……あ……が……あぁ……」


 しかし、教育の後遺症で、彼は放心しています。私は竜の像の前に置かれた黒いゴブレットを手にし、そこに魔法で水を出して、彼に飲ませます。鶏の血が入っていたことは彼が口から吹き出してから思い出しました。


 しかし、気付けにはなったのでしょう。

 私と目が合うなり、ヤギ頭は私とシャプラさんに(こうべ)を下げ続けました。



 制圧――間違えました、教育完了。


 ヤギ頭以外の室内の人達も膝立ちの状態で両手を握り合わせて何やら呟いています。私とシャプラさんに祈っているかの様です。

 いえ、私達の背後にある竜の像に向けているのですね。気持ち悪い。


 私は拳で粉々に像を粉砕してやりました。


 悲鳴は上がらず、より一層呟きの声が大きくなります。不協和音の調べが不気味にも感じます。楽しいお食事会の気分がすっかり台無しです。



「……今日は……帰って」


 シャプラさんの小さな声は到底聞こえないと思ったのですが、これで皆さんの重唱の様な祈りはぴたりと止まり、扉から去っていくのです。

 去り行く後ろ姿は不思議と、いつもより背筋が伸びていて、しばしば彼らに感じた悲壮感みたいな物が減っています。



 残されたのは、私達の他にヤギ頭と私が倒して失神したままの二人の獣人だけです。

 私は四肢を這いつくばったままのヤギ頭に、この会の目的を問い質しました。

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