配属決定
「最後はメリナさんですね」
「はいっ」
元気よく返事をしよう。第一印象が大事なのよ。
「あなたは………ノノン村? 聞いたことないわね。どこにあるの?」
「ここからだと東南に四日ほど馬車で行ったところにあります」
「あぁ、小麦畑が広がる所ね」
大雑把な認識ね。でも、そんなものか。
「はい、森を開拓した比較的新しい村になります」
「あら、推薦者の名前がないわよ?」
それは私には分からない。だって、その書類は私が書いたんじゃないもの。
「どなたからの紹介?」
「すみません、名前は覚えていません。フなんとかさんです。半年程前に雨宿りして頂いたお婆さんに、その場で紹介状と、後日お手紙を頂きました」
すみません、お婆さん。
紹介状の筆跡が達筆過ぎて、私には読めませんでした。
「それらはどこに?」
「こちらの鞄の中です」
横に置いていた手提げ鞄を半分引き摺って前に出す。ほんとクソ重い。
あとで、向こうに座っているシェラさんだっけ、あの貴族様だったらどう表現するのか教えて貰えないかしら。
あっ、一番底にあるかも。
大事なものだからって、最初に入れたんだ。
「取り出すのに時間が掛かるかもしれません」
私の困った表情で、眼鏡の巫女さんは察してくれたのかな。そんな感じがする。
「分かりました。結構です。失礼ながら素性調査は行なっておりますので、あなたが推薦されていることは間違いありません」
眼鏡の人は、机に置いてある書類に目を移す。
「あら、あなた、魔法が使えるのね?」
「はいっ」
口に出すと不遜に思われるかもしれないけど、大得意。
火を付けたり、水を出したり、色々とお手伝いしてたのよ。
「どれだけ出来るのかは、具体的には書かれていませんね」
「そうですか。説明がお要りでしょうか?」
眼鏡の人は少し書面を睨む。
「……この報告者も名前がないのね。報告も中途半端だし。ちょっと調査部の規律が緩んでいるようね。後でしっかり言っておかないと」
眼鏡の巫女さんは私も睨む。
ちょっと怖いんですけど。
「あなた、森には慣れているの?」
「はい。小さい頃から慣れ親しんでいます。森の豊かな恵みも聖竜様のお蔭です」
本当は魔物の退治のお手伝いで森に入っていました。村の人手が足りなかったんです。
って、これは言わない。ごめんなさい。
巫女さんには必要のない事だもの。
「運動は出来る?」
「はい。足は村の子供の中でも速かったです」
少し眼鏡の巫女さんが考える。
緊張するわね。
これで、私の巫女生活が決定するのね。
「どこでもいい?」
「……はい」
出来るだけ、お淑やかなヤツをお願いします。洗練された都会の女性になりたいのです。
「そう、良かったわ。元気そうだし、あなたは『魔物駆除殲滅部』ね」
はい?
やたらと、逞しそうな部署名なんですけど。
それに、隣のヤツがくすっと笑ったのは聞き逃さないし、見逃さない。
ぶん殴りたい。
あと、あなたの薬師処と変わってよ。お願いします。
でも、今更、村に戻るのも気が退けるわ。少しは頑張らないと見送ってくれた皆に申し訳ない。
そうよ。どこに配属されようが竜の巫女よ。そのステータスは魅力的なんだから。