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旧友の会話

 マイア一家が広場にやって来て、それを確認したルッカさんは挨拶もそこそこに転移魔法を唱えられました。


 見える風景が一気に変わり、少しの照明しかない暗い空間に立つのです。

 芳しくて懐かしい匂いを堪能してから、私は魔法で光を作ります。来ましたね、ここは聖竜様のお住い、そして、私の終の住処となる所。


 あっ。私は気付くのです。

 魔力が、白い魔力がここには充満しています。全部を体内に吸収したい欲望に打ち勝ち、私は鼻から吸う空気に混ざった魔力のみを体に蓄えて行きます。欲張り過ぎて、聖竜様にはしたない女だと思われてはいけませんからね。


 シャマル君は緊張しているのでしょう。師匠の緑の手を握っていました。


 

 今日もお美しいです。師匠の事では決してありませんからね。この部屋で圧倒的な存在感を出している聖竜様のことです。

 聖竜様はいつもの通り、巨体を床に侍らせて、ぎょろりと目だけでこちらを見ていました。まるで私がそこに出現するのが分かっていたような様子です。いえ、分かっておられたに違い有りません。私達は運命に縛られているのですから、きゃっ。



『ルッカよ、みだりに他人を連れてくるでない。此処は聖域ぞ』


 うん、渋い声ですね。声量の大きさもあって体がじんと痺れますよ。


 ルッカさんは黙っています。そして、マイアが聖竜様の方へとゆっくり歩いていきました。私も付いていこうとしたら、マイアさんが振り向いて、私に会釈されたのです。


 私より先に聖竜様に近寄るなど死にたいのかと思いましたが、小さな声で「あなたの恋、応援しますよ」って言って来ました。

 思わず、私は赤面です。隠している訳でもないのに、他人に言われたら、こんなにも照れるのですね。


 大魔法使いマイア、その片鱗を味わいました。魔法の様にたった一言で、私の動きを完全に止めたのです。これはもうあれです、「さん」付けしないことには仕方有りませんよ。



 マイアさんが前に出ても聖竜様の反応は特に無かったのですが、途中で気付かれたのでしょう。突然、ガバッと首を立て、続いて四肢で体を持ち上げられました。砂埃が舞います。



『お主が持つ魔力!? マ、マイアか!?』


 聖竜様が驚愕の声を上げられました。

 私の後ろでもシャマル君の「大きいなぁ」って言う、珍しい動物を見た様な声が聞こえました。


「久々ね、ワットちゃん。かなり成長しているじゃない?」


『生きていたのか!』


 聖竜様の興奮はまだ止まりません。


「あはは、偉そうな物言いね。昔のワットちゃんなら、泣いて喜んだでしょ?」


 聖竜様は無言でした。

 マイアさんは聖竜様の友人。只の親しい友。血は繋がってないけど子持ちの人妻。私は歯軋りをしそうになる度に、そう心の中で連呼しました。

 だって、今までのマイアさんがしていた丁寧な口調でなく、本当に親しそうな感じに変わったんだもの。夫である師匠も正直やきもきしているのではないでしょうか。



『マイアと二人で話したい。皆の者、すまないが、扉の外へ行って貰えぬか』


 ルッカさんに肩を叩かれました。聖竜様に従い、一緒に出て行こうと仰るのですね。……苦渋の判断ですが、はい。


 マイアさんが私だけに告げた先程の言葉も有り、素直に従います。師匠もシャマル君も付いてきました。

 しかし、この部屋は大変広くて、目標の扉まで遠いです。マイアさんと聖竜様の会話は聞こえてきます。

 これは秘密にしたい話題ではなくて、古い知り合い同士の思い出話に近いのでしょう。



「フォビはどうしたの? 流石に寿命には勝てなかった、あのクズ剣士?」


 知らない人だ……。私は前を向きながらも残った方々の話に耳を集中させます。


『……独りで旅立たれた。お前達を助けられなかったのが心残りと仰っておられたぞ』


 ん!? 聖竜様が敬語を使われる方が過去にいたのか!!


「死ぬまでバカね。こっちサイドは覚悟を決めて囮の仲間ごと封印するのに同意したのに」


『そう言うな。我が騎乗を許した方ぞ』


 あぁ、竜の騎士の人ですね、フォビさん。色んな名前で伝承に出てくるから、最近の本では名前が書かれなくなった人です。

 聖竜様が乗せた騎士は一人ではなかったとか、実は騎士は存在しなかったとか、騎士の名前が大犯罪者と同名で過去の施政者によって消されたとか、様々な説が有ります。お母さんが持っていた本に書いてありました。



『…………カレンの事は訊かぬか?』


「知ってる。フォビとワットちゃんの物語が本になってたからね。読んだことがある。私とカレンは死んでいたよ」


 カレンは知っている。聖竜様が魔王と戦った時の聖竜様の仲間で格闘家だ。物語では最終局面で聖竜様を敵の攻撃から庇って散っているのです。



『そうであったか。助けられず済まなかった』


「いいのよ、さっき言ったでしょ。私達は覚悟していた。……でも、生き残った側が必ず後悔する事も知っている。それが他人の称賛から来る傲慢を消してくれるのだから、大いに後悔しなさいな」


『……マイアは強い……』


「あは、私は私で現在進行形で後悔中なのよ」


『ところで、ルッカとメリナは我の知己であるが、他は何者であるか?』


「私の家族よ。夫と息子」


『なっ! ええ!?』


 聖竜様でもそういう反応になりますよね。師匠はどう見ても醜悪なゴブリンですもの。




「ワットちゃんは私があそこにいると知っていたの?」


『あそこ? 我は存ぜぬ……』


「デュランの聖女は?」


『マイアを信仰している者であることは知っておった』


「ふーん」



 気になる会話に集中している間に、ルッカさんの背丈よりも大きい鉄の扉の前に来てしまいました。

 しかし、それよりも私は聖女が聖竜様から贈られたという腕輪を見る。聖竜様のお答えから察するに、魔王戦後のマイアさんの様子はご存じなかった。と言うことは、この腕輪も聖竜様からの物では無かったという事なのか。マイアさんの居場所を知らないのに、この転移の腕輪を聖女に渡すはずがないから。



「巫女さん、プッシュよ」


「えっ?」


 不意なルッカさんからの声で私は我に帰る。


 このタイミングで聖竜様のハートを射止めるべく動けと言うのですか。


 ルッカさんを見つめます。本当に今アプローチすれば、聖竜様は私だけの聖竜様になりますか? こういった事に疎いメリナであっても、かなり無理があると感じるのですが……。


「扉を押して」


 自分で押せよ。そっちのプッシュですか。

 とか思いましたが、お淑やかに行きましょう。私は見た目ほどは重くなかった扉を開きました。


 開いたと思ったら、両開きの扉が床に倒れてドシンと響く大音量です。


「お嬢ちゃんは凄いよ。この扉は引く物だったと思うんだ。本当に信じられないな」


 ルッカさんに騙されたのですよ。全く酷いものです。

 通路へ出てから、私は落ちた扉を持ち上げて、元の位置に戻しました。ダメになった蝶番の変わりに、魔法で出した氷で固定します。


「お嬢ちゃんの溢れる怪力が更に強まっている様に見えるんだな」


 ん? 少し魔力を取り込みすぎたでしょうか。また魔力酔いをするのは嫌ですね。



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