皆で夕食
寮の部屋に戻ると、既にシェラもマリールもいた。もう薄暗くなる時間になっていたから、部屋にランプを灯している。このランプも魔法式。村で使っている人もいたけど高価だったはず。
「遅いわよ。早くご飯に行くわよ」
ありがとう。二人とも私を待ってくれていたのか。
神殿の仕事終わりは部署で違う。というか、本人に割り当てられた仕事に関しては裁量が認められているのかな。
だから、夕食の時間はバラバラになるみたい。料理が載ったプレートが用意されていて、それを持って、各々が好きなテーブルに座ればいい。
朝ご飯と違って、量は決められている。そこは不満だわ。育ち盛りの私には耐えきれない。
マリールとシェラにとっては量よりも質が不足してるんだって。私には意味が分からないわ。粥じゃなくてパンを食べられるのよ。
夕食を取りながら、お互い今日の出来事を話し合う。
「貴重な本がいっぱい有るのよ! 凄いわ。古い文字で書かれたのもあって、そっちの勉強も必要って分かったわ」
マリールが食事中なのに、大きく口を開けて喋ってくれる。
「前の前の前の薬師長さんの本なんて、薬草の絵と採れる場所の地図と効用が書かれてるのよ! 凄いわ、凄い!」
何が、そんなに彼女を興奮させるのかしら。疑問に思って訊いてみる。
「マリール、薬草が好きなの?」
「えぇ、もちろん! 草が薬にも毒にもなるのよ、不思議じゃない! その裏表がデキル女って感じしない!?」
しないわよ。
暗殺者にでもなりたいの?
「シェラは?」
「私も今日は勉強です。神殿の成り立ちからの歴史をルーシアさんに教わっていました。歴々の巫女様がどのような思いで聖竜様に感謝したのか、出来事を交えつつ学びました」
凄いな。
シェラは正しく巫女さんだ。
「で、メリナは?」
私か。
「色々ありました」
ぼやかした。言えないもん。
「言いにくいの? 私、バカにした言い方をしてたけど、メリナの部署が何をする処なのかは興味あるのよ」
マリールがスープを匙で掬いながら言う。
本心なのかどうかは分からないけど、その言葉が私を少し楽にする。
興味を持ってくれて、ありがとうです。
でも、私も何をするのか知らないのよ。
「メリナ、私たちに秘密事は良くないのではなくて? 折角の同室の友よ」
シェラも突っ込んでくる。
うー、困ったわ。
私が黙っていると、後ろに人の気配を感じた。
「また問題発生? ほんと、あなた方は懲りないわね」
この透き通った声はアデリーナ様だ。
王位継承権を持ち、この神殿の巫女見習い用寮の管理者。私たちにとっては、神殿の外でも内でも絶対権力者。
「違うんですっ。アデリーナ様。今日は違うんです」
昨晩の事もあって、マリールが汗を浮かべながら必死に弁解している。
「そうです、アデリーナ様。メリナが今日の魔物駆除殲滅部の活動について教えてくれないのです」
シェラの口からそんな物騒な言葉が出ると、自分の部署名ながら何か面白いわね。真面目に何を言ってるのと思うわ。
「あら、今日はメリナが悪いのね。私もあの部署には興味があるわ。今日は何をされたの?」
アデリーナ様は空いている席に座りながら、私を見据えて言ってきた。
顔は確かに笑顔なんだけど、やっぱり目が怖い。
「ほら、昨日も言ったでしょ。私たちは皆、リンク、連携して聖竜様にお仕えしているの。だから、些細な事でも他の方が何をされているのか知るのは大変有意義な事なのです。それをお分かりして頂きたいわね」
えぇ、とても明確で筋の通ったお話です。
「お分かりにならない?」
こわっ。
私が俯いていたら、下からアデリーナ様に覗き込まれた。目が全くお笑いになられていませんよ。
「部長に氷」
「氷? 差し上げたの?」
惜しい、シェラ。
仕方ない。ちゃんと言おう。
「今日、部長の頭に氷を突き刺しました」
何よ、これ。どういう事よ。
口にした私も大混乱よ。
一番インパクトが強い出来事だったのよ!
焦って一言で説明しようとしたら、この大失態だわ。
唖然とするマリールとシェラ。
その横で大爆笑するアデリーナ様。
絶対、アデリーナ様は性格悪いわ。




