ダークアシュリンさん
遂に100話目です!
皆様、ここまでお読み頂き、ありがとうございます!!
ダークアシュリンは立ち上がる。そして、構えもそこそこに、一気に私との間合いを詰める。
本物並みに速いね。
近付きながら左右に揺れ動くダークアシュリンの頭を撃ち抜くべく、私はタイミングを計りますが、間合いに入る前に顎狙いのストレートが飛んできた。
リーチが向こうの方が長いものね。
左腕でそれを内側に弾く。と、同時に、同じく左足を一歩前に進めてから、右膝を突き上げて股間を狙う。男の人ほどでは無さそうだけど、女性でも痛みが強い箇所だから。
当たらなかった。
だって、空に逃げるとは思っていなかったんだもん。
羽根も生えてないのに、どうしてそんな事が出来るのでしょうか。もう一片の曇りもなく、魔族ですよね。
浮いたまま、魔族は言う。
「この女の体を傷付けて良いのかな?」
脅しですか?
無駄です。さっき殴ったばかりですよ。あと、ごめんなさい、殺す気で蹴りました。
「もう死んだも同然です。殺します」
その体がアシュリンさんの物であるとしてもです。
「我が体内で、娘は生きておるぞ」
しつこいな。
「私の中ではアシュリンさんは死んでます。明日は葬式です」
「体を取り戻す手段があったとしてもかな?」
魔族がニヤリと私に笑みを掛ける。
クソムカつく。
……そんな手に易々と引っ掛かる女だと思われたなんて。
「降りて来なさいよ! ぶっ殺してやるよっ!」
私は土を蹴って、宙に浮かぶダークアシュリンの足を掴む。それから、全身をバネにして勢い良く、それを地面に叩き付けた。もちろん、頭から。
私は止まらない。
『私は願う。氷、氷、尖った氷。そこに倒れる魔族の尻に刺され。何本も突き刺され』
その願いは叶わず、魔族は瞬時にいなくなった。氷の槍がダークアシュリンがいた所に刺さる。
私は前に出る。瞬間、首に風を感じる。
危なかった。……転移か。鬱陶しい。
さっきのは首筋への急所狙いだと思う。凪いだ感じだから蹴りかな。
私は密集して刺さっている氷を足蹴にして後方宙返りをする。途中、相手の位置を確認。
予想通り、そこにいた。何か持っている?
異様に長く禍々しい爪が見えた。刃の様に鋭くて、それが左腕に三本生えている。
足でなく、その爪で攻撃したのでしょう。私の髪が数本切られて舞っているのが見えました。切れ味がいいわね。
私は回転を活かして、このままヤツの頭を目掛けて蹴りを上から入れるつもりです。エルバ部長にお見舞いしたのと同じ技です。もちろん、ヤツも迎撃体勢だ。
どちらが速いかだよね。そのまま構わず、私は斧だとか大鎌だとかのイメージで足を振り落とす。
が、賭けには負けました。
鋭い爪で私の足は膝下で切断された。序でに着地に失敗して、私は額を土にぶつける。
「他愛もないな、人間よ」
汚れた顔を上げると目の前に爪の尖端が来ていた。私は怯えた眼で無言の懇願をする。無論、演技ですわよ。
涙が出そうなくらい痛いですが、そちらは歯を食い縛って我慢します。血は……吹き出ているかもでしょうね。
「ふん、反抗的な眼だな」
いえ、媚びている眼のつもりなんですけど。魔族とは感覚が違うのかしら。
それにしても、残り一着のズボンまで破られたわ。明日からどうすればいいのよ。絶対に殺してやる。
「死ね」
魔族は爪のある方の手を振り翳す。
さっきのまま、私の顔へ向けて前に突き出すだけで良かったのに、わざわざ振り上げた。
その方が私が怖がるとでも? 恐怖に震える私の反応でも楽しみたかったのかしら。
甘いわね。
そんな舐めた考えのヤツに負けるわけがない。破壊衝動だけを満たせばいいのよ。
他人の反応を見て遊ぶ余裕なんかが許されるのは、圧倒的な実力差と状況がある時だけよ。それでも悪趣味で悪手だけど。
先ずは血止めの魔法。足からの出血を抑えよう。大丈夫、これは本当に短い詠唱句で済むわ。
『私は願う。閉じて、傷』
足が生えてくる訳ではないけど、これで痛くない。
爪が弧を描きながら私に向かってくる。狙いは……顔か。切り苛むつもりね。
転がって避ける私。見た感じは無様でしょうよ。
「くく、虫けらだな」
ダークアシュリンは笑いながら、だけど、周囲を見回そうとした。
私は傍に落ちている、切断された先の足を投げ付ける。元々は私の体にあったものと思うと、少し不思議な気持ちです。本当は盾にして使いたかったのだけど。
簡単に避けられました。
ただ、その隙に私は片足ながら立つことは出来たよ。なかなかバランスを取るのが難しいわね。
「回復魔法か。しかし、未熟。傷を塞いだだけとはな。所詮は人間よ」
治せるけど治さなかっただけよ。ダークになってもアシュリンさんはバカね。
「……流石です。アシュリンさんの体を使っているから素早いのでしょうか?」
適当に話を合わせてやりましょう。
「まさか。似せているだけだよ。と、思わせつつ、これはあの女の体かもな」
口調は違うけど、声色も同じね。
「肌の色は隠せないのかしら?」
「そういう呪いだな」
呪いですか。意味分かんないです。
殺して解呪して差し上げますから、お待ちください。
「さぁ、お前を食べてやるよ、メリナ」
「私は美味しいでしょうかね」
「魔力は十分に補給できるさ。転移一回分くらいにはなろうさ」
ダークアシュリンが軽く笑う。
不愉快です。簡単に私を食料に出来るとでも思っているのでしょうか。
村ごと焼き払いたいのですが、アデリーナ様!
そもそも、何をやっているんですか!?
私はわざわざダークアシュリンがアデリーナ様に背を向けるように誘導したのですよ!
早く、あの光る矢を突き刺して下さい!
……それをしないとなると、……魔族から情報を得ようとしていますか?
そして、まだ情報が足りないと言うのですか。早く射殺して下さいよ。
仕方ない、アデリーナ様のお気持ちに沿いましょう。
「アシュリンさんはどこですか?」
「言うとでも? この体の中で生きているのかもしれんよな?」
おかしい。魔族も妙に会話に乗ってくる。
片足しかない、今の私を襲わないのは何故?
エルバ部長の言っていた通り、転移魔法で少し疲れているのかしら。
「その点については興味はないのです。アシュリンさんは死にました。墓標をどこにすべきかだけを知りたいのです」
冗談抜きで『アシュリンさん、ここに死す』って石を置いてあげよう。分からないなら、場所は村長の家の跡地にしましょう。それが、先輩にできる、精一杯の手向けです。
アシュリンさん、天国で喜んでください。
まずは、その跡地を作らないとね。魔法で全て焼き払いましょう。素晴らしい案だと思います。
「では、殺します。今から殺りますよ」
私は言い放つ。改めての挑発です!
「ふん。踏ん張りも利かないだろうにな。強気な娘だ」
魔族が爪を向けて走ってきた。今度は斬るんじゃなくて刺す気ですね。
私は片足で棒立ちになっている。
相手からすると逃げられないと思うわよね。
『私は願う。氷、氷、氷の壁。私の前に現れて』
ダークアシュリンの爪は出現した透明な壁を突き通すも、私の体までは届かなかった。
逆に刺さったまま、身動きが取れなくなっています。氷がぶ厚いですもの。
本当は殴り殺したかったのですが、アデリーナ様にアシュリンさんの仇を取らせてあげましょう。
あっ、私への100話記念にはブックマークと評価ポイントが丁度いいかな、うん(露骨)
……すみません。調子に乗りました m(__)m
皆様、本当にありがとうございます。




