文字通りの即戦力
アシュリンは私をここの敷地の中でもかなり奥にある小さい建家に案内した。
木で造られた小屋で、少しおんぼろ。
私は椅子に座るように促され、それに従う。体重を載せたら、ギギッと軋む。
私が重いみたいで、ちょっと不愉快だわ。
「さてと、メリナの調査書を読ませてもらうぞ」
アシュリンも座って、眼鏡の副神殿長から手渡された書類に目をやる。
ちなみに彼女の左肘は私が農作業していた巫女さんと話している間に治癒魔法を使用したみたい。
自分より私を優先して治してくれたのね。
この人、出会った時ほどの大声は出さなくなった。さっきの打ち合いで疲れたのかな。
「アシュリンさんは普通の大きさでも喋れるんですね?」
私の問いに書類から目を離さずにアシュリンが答える。
「あ? 新人が使い物になるか見極めるためだ。ウチは弱いと不幸になるだけだからな。挑発も、それに負けない根性か知りたいからだ」
そっか。演技でしたか。
そうだよね、曲がりなりにも巫女さんですものね。安心しました。
「お前、軍隊出身じゃないのかっ!?」
早速、前言撤回。
五月蝿いな。
「はい。村で家族と過ごしていました」
「よくここに入れたな。冒険者経験もないとはな……」
アシュリンは目を上げて、私を見る。
「戦闘経験はどこで積んだ?」
「野犬退治です。たまに魔物ともやっていました」
「小娘にそんな事をさせる所があるのか。巡回兵くらい、いただろ?」
いたよ。すぐには来てくれないけど。
「新しい開拓村だったので連絡も大変でした」
「人手不足の地域だったのか。にしても、誰かに教わっただろ?」
アシュリンは私を見詰め続ける。
目力が強くて少し落ち着かないよ。
「お母さんです」
「そうか。私と同じ構えだったから、お前の母も軍隊出身だな」
えっ、そうなの。聞いたことないよ。
あの優しいお母さんが戦場に立つなんて想像できない。きっとアシュリンの勘違い。
アシュリンが軍隊出身なのは、もちろん、納得。
「おい! 今のは侮辱じゃないぞ。そんな目をするな」
何もしてないよ。
私だって、自分で治せないのにまた拳を痛めるのは本意じゃないし。
「むしろ、ここまで育て上げた事に尊敬の念を感じるほどだ」
「いえす、まむ」
「なんで、このタイミングで言うんだよ」
アシュリンは苦笑いしながら、前に手を伸ばす。
「即戦力だな。よろしくな、メリナ。新人に襲われたのは初めてだ」
歓迎してくれているのよね。
私は早く異動したいだけに、気まずいわ。正直に言ったら悲しむよね。
あと、襲われるって表現はおかしいわ。正当防衛だったと記憶しているもの。
そもそもよ、巫女さんじゃなくて、文字通りの意味での即戦力ってことなんでしょ。おかしいでしょ。
ここ、女性しか働いていない神殿よ?
気持ちとは裏腹に私はアシュリンと、がっちり手を握りあっていた。
くぅ、流されやすい。




