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宝玉の退治屋  作者: さくらゆき
第一部
3/5

霖雨2

土砂降りの雨の中、草木を分け、森の中を琥珀と共に進む。


『村の外れの森にいる人食いの妖鬼を退治してほしい─』。

都から少し離れたとある村。

そこに妖鬼が現れたのは一ヶ月程前。

夜中、村に下りては家畜を食らい、とうとう村人が一人、森に入ったきり戻って来なかった。

村人達はそれを少し離れた処に拠点を構えていた地元の退治屋に相談したが、その退治屋も同じく森に入ったきり戻って来ていない。

それが三日前の話だ。

『人食いの妖だ』と恐れた村人達は、強力な退治屋に依頼しようと考えた。

この国の退治屋は都に近い程強力、というふうな暗黙のルールがあり、その力量に見合わない退治屋が都に拠点を構えても、依頼がやって来なくなり、いずれ立ち行かなくなる。

特に都は、この国お抱えの退治屋がほとんどである。

お抱え以外も少しはいるが、強力な退治屋なのは間違いなく、依頼料は桁外れだ。

都の周辺も依頼料は高いのだが、私達は一般人、特に貧困層な者の依頼が主にしているので、そこそこの値段で依頼を受けている。

この方針は師匠の下にいたときから受け継いでいる。

だから村人達は比較的格安なうちの退治屋に依頼を持ち込んだのだ。



森の中に入るほど暗い雰囲気に満ちて来る。

妖鬼の気配が充満しているのだ。

この森が完全に妖鬼の支配に落ちるまであと三日、村が落ちるまで五日ぐらいだろうか。

人を食い、禍々しさと力を増した妖鬼はあっという間にこの地を侵食していくだろう。

その前に退治し、食い止めなければいけない。


ふと足下にボロボロの布切れが落ちているのを見つけた。

しゃがんで手に取ると、その前にも点々と布切れが落ちていっているのが見えた。

琥珀と目を合わせ頷き、二人で進んで行くと、広い空間に出る。


空間の中央には血溜りと人の骨の残骸。


そのとき、殺気を感じ咄嗟に上を見上げると妖が襲いかかって来るところだった。

瞬間、琥珀と共に後ろに飛び下がると、ドゴッと音と共に今まで私達がいた場所の地面が抉れる。



「あれが、依頼にあった妖鬼か」


「そうみたいだね、向こうは食らう気満々だ」


短い言葉を交わすと琥珀は後ろに下がる。

それを見届けると、私は持っていた刀を抜いた。

退治屋の武器は特別製だ。普通の武器では妖に攻撃がほとんど効かない。

邪悪なモノには特に。



「ゲフッ⋅⋅⋅ニ、ンゲ、ン⋅⋅⋅ゲフッ⋅⋅⋅ニンゲン⋅⋅⋅マタオイシソウナ⋅⋅⋅ニンゲン⋅⋅⋅ゲゲゲ」



その妖鬼は、獣のような、人間のような形をしていた。

妖鬼は不気味に笑い声をあげる。

こうなった妖はもう救いようがない。

向かって来る妖鬼に刀を振るい、敵を受けとめながら攻撃を与えていく。

流石に人を食っただけあって力が増している。

さらにこの天候、泥濘に足を取られ滑りそうになる。

それでも少しずつ妖鬼に攻撃を与え続けると、妖鬼の動きが一瞬止まった。



(いける⋅⋅⋅!!)



ザシュッと音と共に妖鬼を斬った手応えがあった。

終わった⋅⋅⋅そう思った時、急に目の前がぼやけ、立ちくらみで倒れそうになる。

薬飲んでおけば良かったな⋅⋅⋅なんてことを考えていたら、斬った妖鬼がニヤリと笑った気がした。


勘で危機を察知し、妖鬼の目線を辿ると、ギラギラとした目をこちらに向けている禍禍しい気配がもう一つあった。



(やばい、殺られる⋅⋅⋅!!)



逃げろ琥珀⋅⋅⋅と、ぼんやりと熱い頭で思いながらゆっくりと倒れてゆく。

今までのことが流れるように思い出され、これが走馬灯かと呑気にそんなことを思う。

そして流れる記憶を見るうちに、そのほとんどが琥珀だったことに気づいた。

いつか琥珀離れをしなければと思いながら、離れ難かった。

でも何故離れ難かったのか、よくわからなかった。

ここが、冷たい昔のような空虚な場所ではないから、温かい平和な場所だから、そんなふうに思っていた。

だけどそれ以上の理由がある気がするのに、いくら考えようとも判らず、そのうちに考えるのを止めていた。

何故離れ難かったのか今になって少し判った気がした。

琥珀は、私にとって──。



「⋅⋅⋅っ!翡翠っ!!」



琥珀がこちらに走って来るのがゆっくりと見える。

一瞬が長く感じられ、私はその意識を手放した。

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