黒い陽光、暖かい氷 Ⅱ
あなたはいつもそう呼んでくれたのだったね。
黒い魔法繊維を全身に纏い、身の丈にも並びうる大鎌を振り回すその姿はまるで死神のようだ。
黒と白。
炎と氷。
赤い血に青い血。
私たちはいつも対極にいたね。
それは幸せだった日々。
だけど
今ではなくなった日々。
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それはまだ温かい光が一日中大地に降り注いでいた頃のお話。
世界に暗闇は存在しなく、世界に夜は訪れることはなかった。
私から始まった世界。
漆黒だった私は増殖をはじめ、あっという間に世界中の光を捕食してしまった。
私の唯一の栄養源だった。
お腹が空けば光を食らい、世界に闇をもたらし、お腹がいっぱいになれば増殖を繰り返しては寝る。
そんな味気ない日々だった。
私の始まりは何だったんだろうか?
疑問に思ったことすらなかった。
それでも私の知らないところでめぐるましく変わる世界。
いつの間にか生まれた奇怪の形を持つ生物。
急速に増え続ける奴らはいつも不快な音を奏でていた。
私は相変わらず同じペースで食事を行い、分裂と繁殖をつづけた。
気が付けば、奴らは集落を、街を、大規模な都市を、国家を築いていった。
それらは世界を脅威なスピードで侵食していった。
それは私の棲み処も危ういことを意味していた。
私はいつも己の領域を守るために侵入してきたやつらを丁重に潰しては体内で消化しては養分として大地に返した。
時間という概念のない私はただただそれを繰り返した。
そしてそれが日常になりつつある日、赤黒い体液を垂れ流した彼は現れた。
私を囲む森は珍しくもざわついた気がした。
私が唯一認めた”人類”だった。
あまりにも矮小な彼は透き通った赤い熱量を持っていた。
その時からだったのか、私がはっきりと意志を持てるようになったのは。
彼は私に言語を教え、彼らの”常識”や”文化”というものを長い間世界を回り私に伝え続けた。と同時に彼は私の素晴らしさを世界中に伝え続けた。
私はそれに応えるべく、時には人型をとり、時には元の姿の愛らしいスライムの姿をとり彼と旅を”永遠”に続けたのだった。
そう、永遠のはずだった。
私はスライム。世界を覆い光を食らう最古にして最大の生命。
寿命のない彼とともに世界を旅するもの。
これは世界を見届ける物語である。