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荒廃のアルマ  作者: オスカ
第1章 東京編
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第1章 #4  アルマ


「どうしてこの国は崩壊したの?」



 幼き声で少年は老人に問いかける。質素だがしっかりと燃え滾る暖炉を前に、毛布をかぶった少年はその好奇心を木のイスに座る老人にぶつける。少し困ったように笑う老人は少年の頭をなでる。



「信じられないかもしれないが・・・この世界には不思議な力がある。その力が暴走してこの国を崩壊させたんだ」



 老人は悲しそうな、或いは寂しそうな目で揺れる暖炉の火を見つめながらそう呟く。



「ふしぎなちから?」



 無邪気な声で更に聞き出す。少年は老人の気持ちを汲み取ることが出来るほど成長はしていなかった。それでも老人は怒ることも、渋ることもなく少年に教えていく。



「そう、不思議な力だ。人智を超えた力。その力は清き心を持った者が扱えば、とても便利で国を豊かにすることも出来た。だが・・・」



老人は少しうつむいて・・・それでもさらに続ける。



「悪しき者がその力を使い、この国は崩壊していった。その力の名前は・・・」
















#4











「アルマ・・・!」



それは人智を超えた力。その者の願いに呼応し発現させる力。幼い頃にそう伝えられたユラ。実際に超能力のような力が眼前に広がっていた。息を呑む光景。まるでおとぎ話のような力をユラは目にしていた。



 瓦礫によって塞がれていた地下への道が、銀白の髪の少女の振りかざす手に誘われるようにみるみると開かれていく。浮いた瓦礫は邪魔にならないところへと落下させる。



 呆然とするユラの姿をみて、彼女は怯えるように顔を伏せてしまう。ああそうか。彼女はこの力を使った事で村の人に怖れられたのだ。アルマの存在を知らない人がこの力を目にしてしまえば、化物だと思い込んでしまっても仕方のない事かもしれない。

 また怖れられてしまうかもしれない、そんなトラウマを抱えてなおユラ達の為にアルマの力を使ってくれたナシロに対し、ユラは彼女の頭をそっと撫でて、笑顔で「ありがとう、これで先に進めるよ」と呟いた。

 

 予想外の反応だったのか彼女は照れるように顔を背けてしまった。この力を褒められた事など一度もなかったのだろう。ずっと無表情だったナシロにも、年相応に感情を表す事が出来ると知ってユラは少しホッとした。



『それにしても、実際にアルマを使う人に会えるなんて思いもしませんでしたね』


 共にナシロの力を見ていたコロが呟く。


「ああ、それもこんな小さな女の子がアルマの力を持ってるなんて」


 

伝承の中でしか聞いた事のない力。その身をもって体験するなんて思わなかった。驚きはあるがそれとは別に、ユラの心は微かな興奮を覚えていた。アルマの力の事をもっと知りたい。世界が崩壊した真実や、アルマ自体の謎について何か知る手がかりを得たいという感情が沸き上がっていた。


 しかし、それをナシロに強く聞き出すのは彼女のトラウマを引き出してしまう可能性がある。彼女には、彼女自身の事も知りつつ、ゆっくりと聞いていくしかない。少なくとも今は


 そう思っている合間に、コロが地下道への入口付近の様子を伺う。地下道は当然のように真っ暗である。地上の浄水機のように太陽光発電で電力を賄う事も出来ないのだろう。



「流石に地下まで快適に歩けるってわけにはいかないか」


『仕方ないですね、私が照らすのでついてきてください』

 

 コロは自身の球体の一部から光を発し、ライト替わりに辺りを照らす。コロに続いてユラも階段を降りていき、その後ろにナシロがついてくる。



 地下通路は通路を挟んで両側に様々な種類の店舗が並んでいる。服屋から飲食店、お土産屋なんかもある。シャッターが開いている所と閉まっている所と半々で、中には埃も少なく当時の面影をしっかりと残している店舗も幾つかあった。


 地上と比べて、地下は厄災の影響をあまり受けなかった為か、通路に物は散乱してはいるものの、天井が崩壊したり、完全に通路が塞がれている場所も無い。



「よし、これなら進めそうだ。目的地まで一気に進もう」



 ここについてそこそこ時間が経ってしまった。早くしないと日が沈んでしまうかもしれない。地上に統制軍がうようよいる所でコロのライトを使うわけにはいかない。



 そう思い、進もうとするが、ナシロがじっと何かを見ている。服だ。忘れていたが、ナシロの身に着けている物はボロボロになった布きれ一枚だ。文明が崩壊したとは言え、この格好はこの歳の女の子が身に着けるようなものじゃない。

 ナシロ自身も、様々な色や模様のついた服を見てそわそわしている。



「・・・ここで何か着替えて行くか?」



 いくらなんでも布きれ一枚で歩いていくのは可哀想だ。



「いいの?」



 無垢な瞳をこちらに向けて聞き返す。「ああ」と答える。直後、ナシロが身に纏った布きれをその場で一気に脱ごうとする。



「まてまてまてまて!!こんなとこで脱ぐな!!」



 突然の暴挙に思わず制止する。止められたナシロはと言えば、なぜ止められたのか不思議そうな顔をしている。ああ・・・この子に羞恥心なんてものは無かったのか・・・。




『こんな小さな子の身体をみて欲情ですか?マスターがロリコンだなんて知りませんでした。軽蔑します』



「欲情もしてないしロリコンでもない!!コロ、俺はここで待ってるから奥で着替えさせてやってこい・・・」



 ちょうど奥に試着室のようなスペースがあったのでそこに行くように促す。



『わかりました、へんt・・・マスターは少し待っててください。さあナシロ、奥で着替えましょう』


 

 悪意が隠しきれてないぞ。ユラは溜め息を吐きながら店外の通路でナシロの着替えるのを待つ。ふと自分の服装を見てみると、長旅で受けた雨風や砂嵐によってあらゆる所が傷んでいた。



「ホームに帰るまではこれは脱げないな」



 コロのライトが無い分、地下通路は闇に包まれている。店の奥から時折聞こえるコロとナシロの声が無ければ、この闇と静寂さに飲み込まれてしまいそうになっていた。

 



 不安


 

 

 自分で決めたこととは言え、常にそれはユラの心に秘めていた。アルマや世界が崩壊していった真実を知る旅に出る事。全てを知った所で無意味で手遅れかもしれない。それでも年相応の好奇心や、統制軍が支配する今の現状を打破したいという気持ちが確かにユラにはあった。

 それでもユラはまだ17歳であり、自分がしている事の全てを自分で背負いきれるほど心が大人になっていたわけではなかった。



「・・・コロが居なかったら、途中で折れてたかもな」



 小声で、つい本音を漏らしてしまう。毒舌でいつも小突いてくるが、それでも挫けそうになった時コロの存在は大きかった。





『何か言いました?』




「うわっ!おま・・・突然耳元で喋るなよ・・・」



『すみません、変態マスターがすごく暇そうにしてましたから少しドッキリも交えてみました』



 毛頭隠す気は無いようだ。コロがユラを蔑んでいる後ろで、少し恥ずかしそうに新しい衣装を纏ったナシロが佇んでいる。ふわふわとしたブラウスに短めのスカートを着衣している様は、さっきとは打って変わって可愛らしさが増していた。

 

 

「うん、似合ってる」




 文明が崩壊した後も、文明が残した遺物はこうやって残っている。都市も、建物も、地下道も、そして服も。何気ない物でも、そこには人々の営みがあった証明として存在し続ける。それが存在している限り、何度でもやり直せるはずだ。

 




『何を黙ってるんですか?やっぱりロリk』



「何でもないよ。さあ、寄り道ばっかりしてたらいつまでも目的地に着かなくなってしまう。早くいこう」



 ユラの想いに水を差すようにコロが再三陥れようとしたが半ば強引に話を逸らす。






パッ



 



 突然、地下道の電気がついた。急激な光度の変化によって目が眩んでしまう。



「なっ・・・!!これは!?」



 通路の前後から複数人の走る足音が聞こえる。眩しさでかすんだ眼が徐々に回復していくが、そこに見えるのは統制軍の兵隊だった。それも通路を挟むように複数人。完全に退路を断たれてしまった。兵士たちは各員が手に持った銃をユラ達に向ける。



「しまった・・・」



 うかつには動けない、この状況では下手に動けば身体に風穴が開くだけだ。数人の兵士が銃口を向ける中、一人の他の兵士とは少し違った服装の男が現れた。その男は銃を持たず、ただユラを睨み付ける。








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