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失われた未来を頂きにあがります。 Part.9


(まだあっちは準備中か)


 視線を横に外せば遠くの方に映る中庭。そこではオズワルドを筆頭とした帝国兵達がアルカトラズの槍なる集団スキルの準備をしていた。

 中庭側へ逃げれば、バハムートの強烈な一息が彼らの陣形を崩すかもしれない。

 そう考えたアキラは中庭とは真逆の、礼拝堂がある方角へ走り出す。


 迫りくるバハムートを背に、同じ高さの宿舎の屋根へ飛び移った彼女の向かう先に待ち受けていたのは、大聖堂の壁面。

 石を積んで作られた壁は五階ほどの高さがあったが、幸いだったのは各所から飛び出る出窓の存在だ。


(あそこから登れば……)


 後方でバハムートが大口を開き、炎を蓄積し始めたのを察するや否や、アキラは慌てて壁面から顔を出す出窓を足場に、聖堂の屋根へ上がっていく。

 出窓を踏み、次の出窓へ。更に次へ――。


「壊せ、バハムート」


 あと少し、あと少しで屋根に届く。そんな時、背後から聞こえたレオーナの声は彼女の焦る心を更に駆り立てた。

 バハムートの口から放たれた紅蓮の炎は石造の壁を一瞬にして抉り取る。


「終わりだ! ハンター!」


 レオーナは勝利を確信し、豪快な笑い声を灰色の空に打ち上げた。

 ――――が、空間を飲み込む砂煙をかき分けて聖堂の屋根にアキラが姿を現す。


「終わんのは、あんたの方だっての」


 間一髪のところで屋根によじ登り、炎に足場を崩されたものの瓦礫を飛び移ってなんとか安定した足場に体を投げ込むことが出来たよう。

 生還と死の波打ち際に命を置いて尚、彼女は挑発を続けて余裕を見せた。


「逃げることしかできぬ泥棒猫が、減らず口を」


 バハムートが再び炎を溜め始めたのを確認し、アキラは背を向けて駆け出す。

 礼拝堂から各所へ繋がる回廊、資料室を含めた各部屋を含めての大聖堂。大方、今アキラが走っているのは回廊の上だろう。

 審判の壁の内側の中心地だけあって、逃げ道は豊富ではあるが当然中庭へは行けない。礼拝堂の入り口では婚約の儀に参加した者達が避難中。


(どうするか)


 使える逃げ道は少なく、下手な道を選んだり選択が遅れるようなことがあれば炎で消し飛ばされる。

 頭を急速回転させて、なんとか時間を稼ごうとアキラが考えていたその時、彼女の耳に希望の声が届いた。


「私の予感はやはり当たるようだ! 君の数少ない友人を連れて来たぞ!」


 聞き覚えのあるその声は間違いなくラーマのもの。


「ラーマ!?」


 しかし、何処から――。


「さあ、受け取りたまえ!」


 走りながら目を右往左往させていたアキラの視界に飛び込んできたのは、空を翔ける彼女の愛するペット『ヒポグリフ』と、背に乗る子供のような容姿をしたラーマ。


「君は本当に主人想いのいい子だ、君の愛する主人の為に行くがいいさ」


 刹那、ラーマはヒポグリフの背から飛び降り、聖堂の回廊の窓へ小さな体を投げ入れた。

 それでも尚、翼を大きく羽ばたかせてアキラの下へ飛んでくるヒポグリフの姿に表情を緩め、彼女は五階相当という飛び降りれば無事でいられないような高さから身を放る。


「後で沢山遊んだげる!」


 バハムートが吹き飛ばした屋根の砂煙をかわし、アキラの下へ飛び込むヒポグリフ。飛び込んだアキラも、向かってくるヒポグリフも、こうして触れ合うことができるのを確信していたらしい。

 空中でヒポグリフの背に乗ったアキラは聖杯を持っていない右手を、首に回してしっかりと掴まって空を翔け上がった。


「そんな小さな魔物で何ができる!」


 聳え立つ審判の壁目掛けて空を翔けるヒポグリフの背後から、バハムートが大きな口を広げて迫る。


「デカけりゃいいってもんでもないのよ! ウチの可愛いペットを馬鹿にしたこと、絶対後悔させたげるかんね!」


 鋭利に尖った牙が噛み合わされた時、既にヒポグリフとアキラは真上へ昇っていた。

 灰色の煙の隙間から見える太陽が彼女達を小さな影として見せ、レオーナの目を眩ませる。


「消し飛ばせ!」


 強い日差しに目をやられて尚、レオーナは怒号を上げてバハムートを動かした。

 大きな口は再び炎を吐き出して、未だかつて壊されたことのない審判の壁を容易く破壊してしまう。


「当たんないわよ! このバカドラゴン!」


 審判の壁の頂上に差し掛かったアキラとヒポグリフは、壁を飛び越えて市街地へ出ていく。

 レオーナとバハムートも慌てて追いかけるが、バハムートの飛翔が少しばかり足りなかったようで、壁の上部に巨体をぶつけた。

 それでも尚、バハムートは止まろうとせず審判の壁の大きな瓦礫を市街地にまき散らし、アキラ達を追い立てる。


「うっわぁ、なんかもう無茶苦茶するじゃん」


 市街地上空を飛びながら、あまりにも強引なバハムートに呆れていたアキラ達に、幾度となく吐き出した強烈な一息が再度襲い掛かった。

 口に蓄積してから吐き出すまでに時間を要する一撃は、空中を自在に動けるアキラ達にとって非常に避けやすかったようで、すぐに進行方向を右に変えてかわす。

 しかし、吐き出された炎は静止することを知るはずもなく、先日まで子供が遊んでいたはずの噴水広場や住宅街を吹き飛ばした。


「ヒポグリフ、ちょっと高度を下げて建物に隠れながら飛んでくれる?」


 人の言葉を理解するだけなら出来るであろうヒポグリフはアキラの要求に甲高い鳴き声で返答し、石造の建物が軒を連ねる住宅街に入って行く。

 物陰に隠れる算段をレオーナも見抜き、ヒポグリフ同様にバハムートもまた高度を下げて住宅街の真上を飛行。


 審判の壁を越えて聖堂内に侵入する以前、アキラの見た街並みは他と変わらぬほど和やかな雰囲気を見せ、少しぐらいはここで住んでみるのもいいだろうとまで思わせていた。

 にも拘らず、今となっては街は瓦礫の山でたまに見るのは地面に転がる人の死骸。遠くの方ではギルドの者達と帝国の兵士達が命を削り合う悲惨な戦火が上がっている。


「この街ももう終わりね」


 今飛んでいる道をもう少し真っ直ぐ行けば、ラーマと落ち合った宿屋に着く。更に進んで左に曲がれば各地からやって来た馬車の集会所がある。

 ほんの一週間前の何気ない風景を思い出してはやりきれない気持ちに襲われていたアキラ。

 無論、感傷に浸る暇などバハムートとレオーナが与えてくれるはずもなく、アキラ達など丸呑みされてしまいそうなほど巨大な口が背後まで迫っていた。


「口臭いよ! ちゃんとケアしたら?」


 本当は真っ直ぐ飛んで思い出の場所を見たりもしたかったが、即座にヒポグリフは右折。

 バハムートの大口は二階建ての住宅を噛み砕いた。


「あっぶなー、ナイス判断!」


 特に指示をすることもなく右に曲がったヒポグリフの首に回した手で撫でてやると、嬉しそうに鳴き声をあげる。

 アキラ達の目の前にあるのは、先ほど跨いだばかりの審判の壁。低空を飛行していたヒポグリフは再び空を翔け上がり、結界と審判の壁の隙間を目指す。

 その間もバハムートは炎を吐き出して妨害しようと試みたようだが、すんなりと避けられてしまい炎はまたもや審判の壁を抉り取った。


 地上にいる時は首が痛くなるほど見上げなければならなかった審判の壁も、空を翔ける今となっては容易く超えられるものだ。

 壁を超えるや否や、素早く下降してレオーナの視界から消え去ってしまうアキラとヒポグリフ。対するレオーナはそれを決して許さず、バハムートの炎がアキラの昇った箇所の真下にある壁を破壊した。


「聖杯さえ、聖杯さえあれば」


 壁を飛び越えるバハムートの背で呼吸を荒くしたレオーナが口から零す。


「私と母の願いに貴様は邪魔なんだよ!」


 今しがたの攻撃もかわし、聖堂上空を飛ぶアキラ達を必死で追い立てた。


「母様、もう少し……もう少しです……」


 迫るバハムートとヒポグリフの距離。

 あと少し。あと少し――。手を伸ばせば届くのではないか、そんなことすら思わせるほど近付いた時だった。

 一本の白い槍がバハムートの翼を貫く――――。


「何っ!?」


 しかしレオーナの驚きも束の間、更に飛んできた白い槍がバハムートの首を射止めた。

 一本、二本と下から飛んできた槍は三本四本と数を増して巨躯に襲い掛かる。


「放て! 放てっ!」


 突然の出来事に困惑するレオーナと、肉体を貫く槍に動きを止められてしまったバハムート。その真下で大声をあげたのは、十数名の帝国兵を束ねるオズワルド。

 最後にオズワルドの手から白い槍から放たれると鋭利な刃は見事にバハムートの胴体を貫き、巨大な図体を中庭に叩き落とした。

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