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史上最悪のクーデターPart.4


 ――――二日間、睡眠と言えば聖堂の屋根の上で小一時間の休憩を数度繰り返しただけで、後は徹底的にレオーナの周囲を探った。

 が、獲物に関する情報はまるでない。


 とはいえ収穫が皆無というわけでもなく、お陰で地下宝物庫の存在も分かったし、大聖堂のすぐ隣に建てられた祈りの塔の頂上が司教のみしか入れない神聖な領域だということも分かった。

 他にも大聖堂の内部構造は大体把握し、一人でフラついてみたが獲物の姿は見当たらない。


「宝物庫は見たけど、あれじゃ探すのは三日かかるし……祈りの塔は入れないし……」


 男性教徒に容姿偽装したアキラが、中庭で一人落胆する。

 現在、大聖堂にいる司教クラスは四人。その内二人は、総司教であるコヨーテ・ミルドバーグとその娘で司教の称号を貰っているレオーナ・ミルドバーグ。

 彼らの内、いずれかに容姿偽装して入ろうにも、祈りの塔へ侵入する為に必要なのは彼らが一様に持っている鍵だ。


 容姿偽装はあくまで見た目をそっくりそのまま偽装するスキルであって、物の本質を真似することはできず鍵の役割を果たせたはずのアイテムも只の装飾品と成り下がってしまう。


「審判の壁を越えてきたみたいに、亡者の進撃(ゴーストダイブ)なら入れない事もなさそうだけど一度入ったら暫くは出られないだろうし……もし中に妙な罠を仕込まれてたら袋のネズミ……私猫なんだけど。

 アタックをかけようにも、あそこに“ネフティスの聖杯”があるって確証がないと無理か」


 中庭から望める祈りの塔を見上げるアキラ。

 その最上階では、女性の形をした神ラグ・マリアをイメージしたステンドグラスが日光を浴びて輝いていた。


 ラーマは大聖堂に主神ラグ・マリアが存在すると言っていたが、実際のところは祈りの塔にその御神体があると信仰されている。これもまた、二日間の潜入でアキラが手に入れた役に立つかも分からない情報の一つだ。


「しっかし妙ね」


 祈りの塔の最上階から視線を降ろすと、アキラと同様に赤いローブを纏った教徒達が聖堂へ向かい歩くのが見えた。

 自分も立ち上がり、聖堂へ戻って行くアキラだったが、ここに来て改めて胸の中でモヤモヤしていた疑問が爆発する。


(この聖堂、教徒も司教もレオーナ以外は男しかいない……)


 無論、エヴァネスヘイム帝国に女性の信仰心は認められないなどという文化は存在しない。

 ラグナ教団全体を見れば、各地の教会にシスターや女性司祭だっている。しかし、このフォルトゥナ大聖堂だけはレオーナ以外の女性がいないのだ。


 モップを手にし、回廊の清掃をする教徒達に混ざってアキラも清掃活動に勤しむが、やはり周りには男しかいない。


(それとこの二日間、婚約の儀まで一週間を切ってるっていうのに何処からもネフティスの聖杯の話は聞こえてこない)


 深く被った赤いフードの下から、目をギラつかせていたアキラが聖堂を訪れる少し前のこと。

 ラーマから「この世界を救ってみる気はないかい?」と、今回の話を持ち掛けられたが、その際に彼女の知る大まかな概要を説明してもらった。



 ◇



「君の盗んできた取引記録の中に“ネフティスの聖杯”という盗品があったんだ」


 おおよそ三日前のこと、フォルトゥナの市街地区にある宿の中で自ら盗んできたリストの一ページを渡されたアキラ。

 そこには、ラーマの言うネフティスの聖杯なる商品の取引記録があった。


「オークションの落札日は六年前、落札者名は“ベルディヤヒ・ミルドバーグ”。

 コヨーテの妻であり、レオーナの母親でもある女性だよ」


 生憎、この時代にアキラが使っていたスマホもなければ一眼レフもない為、顔写真はないが直筆のサインと朱印が取引契約書に刻まれている。


「何よ、そのネフティスの聖杯って……お宝なの? 売り飛ばせば幾らになる?」

「まあ落ち着きたまえよ、確かにこれは純金で象った大杯に黒曜石で装飾をしている世界に二つとない美術品だ……今となっては美術品という以外に価値のない代物だがね」


 聞く者に疑問を抱かせようという魂胆が見え見えの言葉に、アキラは少々呆れ気味だった。


「何よそれ、美術品だったら高く売れそうだし、私はそれだけで十分なんですけど」

「実はこの聖杯はスキル付きのアイテムなんだ、とはいえこのご時世にスキル付きのアイテムなんて掃いて捨てるほどある。

 珍しいのはスキル付きという点でなくてね……聖杯の持つスキルが“唯一無二の技能(ワンオフスキル)”であるという点だよ」


 呆れ気味だったアキラの顔が驚愕の色で染まる。


唯一無二の技能(ワンオフスキル)って、どんな!?」

「ネフティスという魔物を召喚する召喚(サモン)スキルということ以外は何も分からない。

 何せ、古代王の墓とされるダンジョンで見つかって以来、いかなる魔導士も召喚師も発動させたことがないのだからね……」


 食い気味のアキラだったが、ラーマの回答に露骨な落胆を見せた。


「あっそ、それで今は只の美術品……ね」

「古代王の墓で聖杯を手に入れた部屋の石碑によれば、ネフティスの聖杯が発動した太古の時代に国が一つ滅んだという。

 伝承や夢物語と目を背けるのは容易かもしれないが、遥かな時を超えて再びネフティスを召喚できたのなら、史上最悪のクーデターが起こせると思わないかな?」


 ラーマは小さく笑顔を浮かべながら告げる。

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