史上最悪のクーデターPart.2
前を見ても、後ろを見ても、見る者に例外なく圧迫感を与える巨大な壁。
まるで外界との繋がりを一切断たんと言わんばかりのそれを眺め、麻袋を担いだアキラは大きな溜め息を漏らす。
「ここまで入ってくるのも苦労したけど、問題はあっちよね」
何処にでもあるどころか、下手な街よりも綺麗に整備された街道からアキラが見ていたのは、『認定の壁』と呼ばれる聖都フォルトゥナと外を遮断する分厚い壁。
更に彼女の遥か後方にそびえる壁に目を向けると、より大きな溜め息が零れた。
「上から……ってのは流石に無理か」
フォルトゥナに存在する二枚目の壁の名は『審判の壁』。
『認定の壁』は、フォルトゥナという神の膝下に立ち入る認可が下りる場所。すなわち、認可が下りなければフォルトゥナの市街地に入ることはできないのだが、一般人でも出入りできるほど突破は容易。
しかし、一年間様々な場所に容易く侵入してきたアキラでも頭を抱えるほど、『審判の壁』の突破は困難を極めた。
「ラグナ教の信仰上、あそこを超えた先にあるフォルトゥナ大聖堂は主神ラグ・マリアそのものがいると考えられてあるからね。
教団内でも司教クラスの声が無ければ門を開くことが出来ないし、今はさっきも話した通り教団傘下のギルドの反発運動も警戒したいところだ……そう簡単に開くことはないだろう」
アキラの腰元でラーマが得意気な顔をする。
宿屋を出て小一時間程度、認定の壁と審判の壁に挟まれたフォルトゥナの市街地部分を歩き回ってみたが、数名で肩を寄せ合うギルドの人間であろう集団は数回見られた。
認定の壁を突破し、クーデターでも起こしたい者達が色々と考えているのだろうが、その全てが審判の壁に阻まれてしまう。
「次に開くのは?」
「婚約の儀の前日、エイジャース皇子がこの地を訪れた時だよ……ギルドの反発を想定して帝国軍も相当な人数を投下することだろうね」
再びアキラは腕を組み、考え込む。
容姿偽装で帝国兵に紛れ込み、中に入ることは不可能ではないのだが――、
「できることなら事前に準備しておきたいところね、今回は少しのタイムロスも許されないみたいだし」
それでは婚約の儀までに準備が整わず、不完全なまま綱渡りのような盗みを実行するか、婚約の儀を迎えてしまうという最悪の事態になってしまう。
「なんとしても婚約の儀でレオーナ女史の指に熾天使の指輪がはめられるのは阻止して欲しい」
「簡単に言ってくれないでよ、門は開かない、壁をよじ登るのはまず無理、ヒポクリフを使おうにも上空には結界が張られてて不可能……スリーアウトチェンジね」
市街地の中で見つけた小さな噴水の縁に座り、ボーっと審判の壁を眺めるアキラ。
「流石の君もお手上げかな?」
「冗談止めてよ、負けっぱなしで終われるほど諦めのいい女じゃないの」
偽物を掴まされ、相手の望むがまま踊り狂ったアキラは、いつしか自身の中に芽生えていた闘志に気付き微笑んだ。
「何か策でもあるのかな」
「苦肉の策だけどね……。
だけど、最後に笑うのも世界を救うのも、ぜーんぶ私だってことを教団にも帝国軍にも教えたげるんだから」
そう言うとアキラは噴水の縁から立ち上がって麻袋を担ぎ直し、灰色に聳え立つ審判の門へ足を進めた。




