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ブラックマーケットブルース Part.4


 アーノルド=モンド美術館に怪盗ハンターから、書庫の悪事の記憶を盗むと予告状が届いたのはオークション開催前日のことである。

 『悪事の記憶』。予告状を目にした傷面の男、バーキンスが思い浮かべたのはただ一つ。

 美術館の地下にある書庫に眠っている取引の記録と顧客リストだ。


「何の真似だ、あのコソ泥」


 予告状。すなわちそれは宣戦布告。

 嘗められることを最も嫌うブラックマーケットの経営者バーキンスの心も穏やかではない。


「ウチの記録を盗んで何をするかは知らねえが、こんなコソ泥風情に嘗められるわけにいくか」


 足を大きく揺すって苛立ちを現すバーキンス。周りを囲んでいたゴロツキ達は彼の姿から目を背けるばかりで、何の言葉を絞り出すこともできない。

 しかし彼らは仮にもバーキンスの経営するブラックマーケットを警備する立場。自分に怯え、ハンターからの予告状に対して何の発言もない彼らにもまた、バーキンスは苛立ちを募らせる。


「テメェらっ! 分かったらさっさとハンターの情報を集めて来い、それから奴が狙うとすれば次のオークションで人の出入りが激しくなる時に違いねえ、ラグナ教団の連中にも連絡を取って人員を増やすぞ」


 各地のギルドを寄せ集め、資金を提供することで疑似的に同盟関係を築く。

 そうやって資金提供源のラグナ教団を中心に成り立つ同盟の中には、バーキンスの経営する違法商人ギルドもいれば傭兵ギルドも存在する。

 片や怪盗ハンターの情報を仕入れに、片やラグナ教団に連絡を取る為に動かすが、それでもバーキンスは満足せず自分の部屋に戻って歯ぎしりをしていた。


「クソクソクソッ! 高値で売れそうな奴等を仕入れたと思ったらこれだ! まるでツイてねぇ!」


 椅子を蹴り飛ばし、思うようにならない現実への怒りをぶつけるバーキンス。

 それもそのはず、盗賊ギルドが少人数で支え合うエルフの村を襲い、その際に戦利品として連れてきた若いエルフの女。

 それから単身で乗り込んできた帝国兵と名乗る若いヒューマンの女。

 どちらも奴隷としては非常に高値のつく商品で、次のオークションではそれらを始めた目玉商品が揃っていたにも拘わらずハンターの身勝手な行動で潰されかねないのだから。


「俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる!」


 儲け話に陰りが見え、プライドを傷つけられ、バーキンスは自室で一人怒号をあげた。


 ◇


 ハンターの情報収集、そしてラグナ教団へ鷹を飛ばしての緊急連絡。

 これら二手とは別にバーキンスは内密に書庫近辺の警備を強化させていた。


「おう、妙な奴はいたか?」

「いえ、今のところは」


 とはいえ、不安なことに変わりはないようで、不機嫌そうなバーキンスが書庫に姿を現す。


「書類を別の場所に移すぞ」

「は、はい?」


 唐突なバーキンスの言葉にゴロツキは首を傾げた。


「テメェ馬鹿か、野郎は予告状をこの地下に直接置いていきやがったんだ、今も何処に潜んで俺達の話を聞いてるか分かったもんじゃねえ」

「それは……確かに……」


 そう言ってバーキンスが取り出したのは紙袋に包んだ書類。


「この偽物をこっちに置いて本物を別の場所に移す」

「なるほど、ハンターがノコノコ来て盗んでくのは用意した偽物ってことっすか! 早速置き換えて――」


 バーキンスの意図を逸早く察したゴロツキの一人が彼の手に握られた紙袋を掴んだその時、凄まじい力で振り払われてしまう。


「触んじゃねえ! こいつは俺が置いてくる」


 鋭い眼光に怯え、後退りするゴロツキ。彼らを尻目にバーキンスは一人書庫の中へ入り、先程持ち込んだものと同じ紙袋を手に戻ってきた。

 万が一、ハンターに盗まれることがあってもいいよう、偽物を用意しておく。

 彼自身も周囲のゴロツキ共と同じ賊上がりでありながら、商人ギルドの経営者にまで上り詰めたのは腕っぷしや運だけではない。


「何処の出かも分からねえコソ泥の好きにされて堪るか」


 バーキンスという男は非常に賢い男である。

 とはいえ、彼の頭の働きの大部分を占めるのは悪知恵。

 ここでもまた、得意の悪知恵を働かせて傷だらけの顔面に笑みを張り付けた。


「こいつは金庫に保管する、口外するんじゃねえぞ」


 見るものに畏怖を植え付けるような威嚇の眼差しが向けられ、ゴロツキ達は何も言わず大きく頷く。


「テメェらはそこで偽物を守ってろ、テメェら含め誰一人書庫には入れるなよ」


 幾度に渡り出される指示にゴロツキ達はただ黙って頷き、指示の数々を心に刻んだ。

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