商人の街「セルリム」
ノアという人物は意外と身勝手な部分が多いかもしれない。
あの紛争地域の異世界から異動して別の異世界へついてから数日が絶ったころ、ノアは一人で買い物をすることが多い。
最初は一緒に行動しようという話で一緒に行動していたのだが、最初の日にちだけで、それ以降は「一人で行動する」といい、ぼくを置いて一人で店に出向くようになった。
この異世界「セルリム」は、産物が盛んな世界で、行商人や商人といった品々を会計し、売り買いを行う職業の位が最も高いとされている。
奴隷といった階級はなく、商人が権利的には高い場所にあり、それ以外はすべて平民という扱いで生活している。平民は訊いた話だと、商人みたいに他国へ移動して話しあったり物を売り買いしたりすることはないそうだ。
何よりも、平民は常に商人が売る品々を買うという役割を覆っているそうだ。
平民という位に満足はしているのかどうかも聞いてみたが、彼らから反対や不満という意見はなく、みな口ぞろえて「負(不満などの意味)を抱くのはおかしい」というのだ。
これ以上聞いてはいけないのだと思い、根深い部分までは立ち入ることはしなかった。
街の人に話しを訊きつつ、セルリムにおける話題や歴史、文化などを調べていくといろいろと面白い発見に出くわした。
歴史は浅く、故郷のように3000年以上の歴史はなく、300年という浅かったということだ。この世界では、最大10歳までしか生きられないようで、日も1572日という長い周期で回っているようである。
話題はどこの商人が一番仕入れが高いか、安いか、人気があるかといった具合の話しか聞けなかった。平民としての暮らしや教育なども興味はあったが、だれとして平民たちは口を閉ざし、何も言わなかったことに不思議に思ったことだ。
平民の生活について尋ねたのだが、誰一人、自分自身の生活や過去を話さないのだ。いうなればプライベートなのだ。
商人など位が高い人には過去の話や生活の知恵など教えてくれたが、平民からの生活に関しては何も聞けなかった。
疑問が重ね、ある日図書館に出向いたことがあった。
歴史や文化など多く点在し、保管している場所だ。故郷のように読み貸出できればいいのだけど。図書館は古代のローマの王宮をイメージしたような外観だった。
何よりも驚いたのは、中は空洞で何もなかったことだった。
もちろん、管理人となる人や警備人もいない。無人なのだ。
おかしいと思いながらももう一度、外観から見やる。たしかに「図書館」と書かれているのだ、しかし、何度除いても中は空洞で、何もないのだ。
このことをノアに打ち明けてみようかと、今晩、ノアに尋ねてみようと思う。
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青白い満月が夜の街を照らすなか、それを見つめながらノアの帰りを待つエルク。
昼間の出来事について、この街がなにか異様に感じていたのだ。
「ただいま」
ノアが戻ってきたようだ。
率直にノアに尋ねた。今日の出来事、街の様子。すべて話た。
すると、ノアは顎に指を当てながら「別の異世界へ行くか、そろそろ」と言い出したのだ。まさに勝手だ身勝手だ。でも、契約ではその異世界での出来事に首を突っ込むのはおかしいことだ。
それはわかっているはずなのに、気になって仕方がないのだ。
「気になるのか? セルリムのこと」
ああ、と答えるとノアは一つだけ作り話するよと言い、話しだした。
この街のもとの姿は知識が薄れた人たちで埋まっていました。彼らは他人から奪い、自分で作ろうとはしなかったそうだ。ある日、その街に流れ着いてきたみすぼらしい格好をした青年が流れ着いたそうだ。その恰好は黒ずんでおり、灰かなにかで覆われていたようにも見えた。
街の人たちはその青年に相手をしなかったそうだ。というよりも興味は抱かなかった。
青年が街の現状を知っていたようで、街の人たちに少しでも話をして変えようとしていた。それは何年かかっても成し遂げようとしていたらしい。
ところがその話を邪魔に思えたゴロツキの大人たちがいた。彼らは、汚れるのを嫌い、自分勝手にその青年をもてあそび殺したそうだ。
その現場を見ていた街の人々に勇気づけよう、考えるのを止めようといった。けれど、興味を抱き始めていた街の人たちは、ゴロツキの大人たちがしたことに目を疑い、今までしたことが異常に思え、彼らと離れることで、街の人たちは知識を手にして。
街を青年が言ったような街に作り替えていったらしい。
そこまで話すと、ノアは言葉を閉じ、机の上に置いてあったガラス製のコップを手に取り、中に入ってた水を飲む。
「以上が、作り話。信じるかは任せるよ」
ノアはそういうなり、空になったコップを机に置き、ベットの上へと飛び乗った。
「寝る、明日出発な」
というなり、彼はしずかないびきをかきながら眠りに落ちた。
ノアが寝たのを確認したエルクは、この街についてノアが言った作り話のことが気になっていた。あの話が本当だったら、歴史の過去がないのはなぜなのかと疑問が浮かぶ。
けれど、ノアがどこでその情報を知り、明日ここを絶つのかを考えたら、なにかやばい件に首を突っ込んだような気がしてならなくなった。
気になるけど、ノアの言う通り、明日旅立とうと思った。
その時、扉が軽くノックされた。
「だれ?」
とエルクが扉に近づきつつノアに聞こえない程度で声を出した。
「貴方に譲りたいものがあるの」
と、不審に思ったが、扉を開けるとそこには金色の髪をした腰まで長いウェーブ上の女の子がいた。すらりとした容姿にうっすらい黄金色を放つ布のような服を着ており、ラインが分かってしまうような薄着だった。
女の子は切羽詰まっている様子で、エルクに本を渡すなり、「私はこれで」と言い、駆け出してしまった。
意味が分からないまま、扉を閉め本のタイトルに目を配った。そこにはこの街での〔歴史〕と書かれていた。
一晩かけてこの本を読んだ。
ノアが言っていた内容の一部も書かれていたが、この街の恐ろしい出来事が過去にあったことが書いてあった。それは、決して開いてはいけない禁忌ともいえる本だった。
半分まで呼び上げていたエルクは軽く嘔吐しかけた、この本を最後まで読んでいると、気が気でいられなくなりそうな感覚になっていたからだ。
ノアの横に本を置くなり、明日早々旅立つ準備をして、今日は寝ることにした。
起きたときには本は無くなっており、ノアは「いこうか」と涼しげな様子だった。少し安堵しつつ、本の話題を避け、この世界から離脱した。




