九百九十四話 黒豹ロロディーヌの紅蓮の炎
2022年10月4日 11時17分 修正
蜘蛛魔族べサンの頭部は複眼といい蜘蛛そのものだが、口の周辺と体は人族と似ている。
声帯も人族と似ているのかもしれない。
二腕二足の体に装着されている甲冑の隙間からはタランチュラが持つような毛が飛び出ていた。
体毛だけなら虎獣人や豹獣人に近いか。
魔槍杖バルドークの穂先をそいつらに向けながら、
「――お前らが蜘蛛魔族べサンだな?」
と大声で聞いた。
蜘蛛魔族ベサンの連中は驚きながら、
「随分と流暢なベサン語……」
「しかも、額に角が無い。魔炎印も頭部に無い……」
「デラバイン族ではないようだな」
<翻訳即是>のお陰だとは言わない。
「……その通り、デラバイン族ではない。助っ人だ」
「にゃご」
相棒の黒豹が、俺の言葉に同意するように鳴いて俺の右前に出る。
「あぁ? この人数で助っ人とは……」
「流れの魔傭兵か」
「黒魔族シャントルのような面ではないからそうだろう」
刹那、魔軍夜行ノ槍業が揺れる。
『ほぅ、シャントルか』
『黒魔族共……その名は倒すべき連中の名だ』
『ここは魔界王子テーバロンテの領域。我らが知るシャントルの奴らがいたルグファント平原は、もっと北のはず』
『元々が魔傭兵、南のほうに流れたのでしょう。それより弟子! 八大墳墓の破壊が先だって言ってるのに……』
『シュリ、弟子も忙しいんだ。仕方ない』
『そうだ。それよりも獄魔槍を使い、敵を蹂躙しろ』
『……カカカッ、そうじゃな。こやつらは、蜘蛛魔族の連中。嘗ては大蜘蛛バイバルアに連なる者だったはずじゃが……今では魔界王子テーバロンテの支配下に堕ちたようじゃ』
『弟子よ、トースンの上半身と骨装具・鬼神二式を使うのか?』
『否、弟子は、妾の<女帝衝城>を愛用しておる。この戦いでも、良い贄を、妾をつこうてくれるにちがいない♪』
魔軍夜行ノ槍業が振動しながら、八人の師匠たちがそれぞれ思念を寄越すが、今は戦いに集中だ――。
俺と相棒の周囲にいる蜘蛛魔族ベサンの部隊の数は、二十人を超えている。
大ホールの右側では、バーソロンとバーソロンが率いるデラバイン族に、ヘルメ&イモリザが連携しながら百足魔族デアンホザーの部隊を屠りまくっていた。
相棒は俺の右後方。
まずは、蜘蛛魔族ベサンたちの手前にいる蜘蛛頭に向け、神槍ガンジスを消し――。
左の掌を見せるように掌を向けて、右の前腕と脇で魔槍杖バルドークの柄を抱えながら、
「――で、かかってこないのか?」
と言いながら左手を返し、左手の指先を数回手前に引くようにチョイチョイと動かす。
挑発を行った。
すると、蜘蛛魔族ベサンたちの先頭の奴らが「「ふっ」」と薄ら笑いを浮かべる。
正面ではなく、右の蜘蛛魔族ベサンが、
「……ルトジ三千人長が率いる蜘蛛襲牙五番中隊の中枢を挑発するとは!」
「バーヴァイ城の五番門を一度も抜かれたことがない我らを……」
左側の蜘蛛魔族ベサンの一人が、
「ルトジ隊長は戦場で――」
その口上の最中にその蜘蛛魔族ベサンの頭部に<鎖>をぶち込んでやった。
その蜘蛛魔族ベサンの頭部が爆発したように散る。
「「「「……」」」」
「ここは戦場だぞ? さっさと皆で掛かってこい」
と、<鎖>を消去しながら魔槍杖バルドークに魔力を込める。
汚れていた魔槍杖バルドークは直ぐに綺麗になった。
「くそが……」
「……その鎖の攻撃は……」
「お前らも口から糸を吐いているが、俺の場合は手首から<鎖>を出すだけだ」
「ケッ」
「……百人長ジェイクを殺しやがって……」
「……蜘蛛襲牙五番中隊の古参ビイクンが相手をしよう……」
巨漢の蜘蛛魔族ベサンの名はビイクンか。
大蜘蛛と人族が融合したように見えるが、巨漢なのは見かけだけかな。
「俺も出る……」
「バメクにビイクンも前に出るな。俺がこの鎖を扱う槍使いを倒す……」
そう喋った蜘蛛魔族は<魔闘術>系統が巧み。
確実にビイクンより実力は上だ。
「ルトジ隊長、はい!」
「激戦を潜り抜けた隊長ならば楽勝です!」
「ふむ。この黒髪の見知らぬ魔族は、多少は腕がある魔傭兵のようだがな? まぁ、我が捕まえて溶かしてやろう……」
ルトジ隊長がそう発言。
ルトジ隊長は、
「――が、戦いだ。個ではなく、集団でかかるぞ」
「「「おう!」」」
蜘蛛襲牙五番中隊の正面にいたルトジ隊長と四人が後退しつつ口から糸を吐く。ルトジ隊長が、
「喰らえ――<魔重蜘蛛溶糸>」
と吐いたのは、普通の糸ではない。
酸染みたモノが糸に大量に付着していた。
やや後れて、正面の左と右にいた蜘蛛魔族の連中が、俺に向けて突撃してきた。
両手から剣と似た爪を伸ばしつつ口からも糸を吐いてくる。
《王氷墓葎》などの広範囲魔法は、環境的にまずい、もしものことがあるからな……。
すると、黒豹が前に出た。
「にゃごぁぁ――」
黒豹ロロディーヌが吐いた紅蓮の炎――。
前方に扇状の雲か火砕流にも見える紅蓮の炎が展開された。
その紅蓮の炎は、正面から飛来してきた糸の<魔重蜘蛛溶糸>を飲み込むと――そのまま指向性を持っているように直進し、ルトジ隊長と蜘蛛魔族ベサンの連中を飲み込む。
ルトジ隊長の魔素はあっさりと消えた。
黒豹は吐いていた炎を口の中に吸い込むように消す。
ルトジ隊長たち蜘蛛魔族ベサンの前方の部隊が壊滅していた。
紅蓮の炎の威力を物語るように、前方にはぽっかりと空間が誕生していた。
天井が焼け焦げていたから、バーヴァイ城が壊れてしまったらヤヴァいぞ……。
が、まだ左右にいる蜘蛛魔族ベサンの連中は、
「炎を吐いた黒き獣を狙え」
「隊長の仇!!」
「おのれがぁぁぁ!」
「うあぁぁ!」
即座に両手を左右に伸ばす。
相棒との位置を測りながら――《氷命体鋼》を意識、発動させる。
ハルホンクの防護服の上に氷の魔法鎧が装着されながら、右から飛来してきた糸に向け――。
《連氷蛇矢》を数十と放った。
左から俺たちに近付く蜘蛛魔族ベサンには――<光条の鎖槍>を五発放つ。
宙を直進した無数の《連氷蛇矢》はすべての糸を貫き、口から糸を吐いていた蜘蛛魔族ベサンの連中と衝突、その体を次々と蜂の巣にした。
左側の蜘蛛魔族ベサンの二名は、<光条の鎖槍>を、剣と似た爪で斬ろうとした。
が、<光条の鎖槍>は斬れずに機動がズレて首に向かい、喉元を貫く。
首が消失した蜘蛛魔族ベサンの頭部は体から離れて飛ぶ。
突き抜けた<光条の鎖槍>は、背後の蜘蛛魔族ベサンの頭部をも突き抜け、そのまた背後の蜘蛛魔族ベサンの二体の体に突き刺さり止まる。
と、<光条の鎖槍>は一瞬で後部が分裂し、いつものように光の網と化す。
その光の網の<光条の鎖槍>は、蜘蛛魔族ベサンの体を一瞬で切り刻んだ。
「相棒」
「にゃ」
肩の竜頭装甲を意識し、
「魔雅大剣を出せ、ハルホンク」
「ングゥゥィィ」
右肩の肩の竜頭装甲は竜の口から魔雅大剣を吐いた。
「ンン」
黒豹は跳んで魔雅大剣を咥えると、前転、飛来してきた糸の攻撃を魔雅大剣で真っ二つ。
前足から着地を行うと、魔雅大剣の切っ先が床と衝突し、火花が散る。格好良い黒豹を守るように右手が持つ魔槍杖バルドークを照準器代わりに<鎖>を放った。
黒豹に向けて糸を吐いた蜘蛛魔族ベサンの頭部を<鎖>でぶち抜いて倒す。
倒れゆく蜘蛛魔族ベサンを見ないで相棒と左斜め前に前進しながら、蜘蛛魔族ベサンたちに近付いた。
左右の蜘蛛魔族ベサンは口から糸を吐いてきたが――。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>。
加速し跳躍しながら糸を避けた。
その宙空から左斜め下にいる蜘蛛魔族ベサンの頭部に向け――。
血を纏った神槍ガンジスの<血穿>を繰り出し、方天画戟と似た穂先が蜘蛛魔族の頭部をぶち抜いた。
同時に、右斜め前にいた蜘蛛魔族ベサンの胸に魔槍杖バルドークを突き出す<血穿>を喰らわせる。
「ぐおぁ――」
着地際、魔槍杖バルドークで貫いた蜘蛛魔族ベサンの胸を右へと開くように魔槍杖バルドークを横に動かし、右斜めに前進しながら、左手の神槍ガンジスで<光穿>を繰り出した。
右半身が千切れたような蜘蛛魔族ベサンの体を方天画戟と似た双月の矛が貫いた。
蜘蛛魔族ベサンの残りの体は溶けるように四散。
ややオーバーキルだったが――。
気にせず<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚する。
イモリザとヘルメが戦う大ホールの右に相棒と共に足を向けた。
続きは今週。
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