九十七話 鼠と猿退治
暫く、【魔境の大森林】を移動し続けた。
ん~、いない。
レッサーデーモンとグリズベルばかりだ。
こいつらは無視して、ターザンのように移動を繰り返す。
数時間後、魔素を感じると同時に、お目当てのモンスターを発見した。
レグモグ、鼠男だ。
……大樹の枝の上から様子を窺う。
レグモグの数は五匹。
彼らの足元には苔を覆い尽くすように子鼠の群れが蠢いている。
子鼠たちの上に細い足を乗せ子鼠を利用しながら地上を滑るように移動を繰り返していた。
動きを止めて帽子をかぶったような毛並みの頭を左右へ動かしきょろきょろと周囲を見回している。
その際にレグモグの顔を凝視した。
反り上がった赤細い目尻が下がった目、テング猿のような赤鼻を持つ。
鼻の下には長細い髭を生やし、口からはネズミ男よろしく、というように鋭い前歯が飛び出ていた。
「……あの鼠を狩るぞ、俺が先に後ろから仕掛けるからロロは遊撃な」
「にゃお、にゃ」
黒猫は『了解ニャ』と言うように鳴くと、枝の上から跳躍した。
尻尾を細枝に巻き付け小さい身体を回転させながら鼠軍団の後方へ舞い降りていく。
俺は大樹に手をかけて、前方のレグモグたちの様子を窺った。
灌木を磨り潰す勢いで蠢く小さい鼠たちが、感覚を共有した斥候とかだったら嫌だな……ま、考えすぎか。
『閣下?』
デフォルメ姿のヘルメが視界に登場。
『ヘルメも殺りたいのか?』
『はい』
『分かった、出ろ』
左目から水が放出され女体化したヘルメが片膝を枝の上につけて出現。
「ヘルメもロロと同じように自由に遊撃で」
「畏まりました」
ヘルメは直ぐに身体をにゅるりと液体化させ水飛沫を周りに飛ばす勢いでスパイラル回転しながら地面へ降下していく。
俺は心地いい水飛沫を顔に感じながら外套を広げ右腕を真横へ伸ばし魔槍杖を出現させた。
魔槍杖の先端である紅矛が太い枝に当たり枝が焦げていたが、気にせずに<隠身>を使用。
そのまま、神秘たる樹海へ潜るように枝上から一歩踏み出す。
<導想魔手>を発動させ宙に足場を作りながら、湿った空気が満ちる地面に降り立った。
前傾姿勢で子鼠率いるレグモグたちの後方から近付いていく。
そして、小さい鼠たちがいる範囲に足を踏み入れた瞬間。
前方にいたレグモグたちが警鐘を鳴らしたように騒ぎ立て一斉に俺の方へ振り返ってきた。
――うはっ、<隠身>が看破された、気付いている。
思っていた通り子鼠と感覚を共有していたらしい。
嫌な予想が的中、子鼠が索敵の代わりとはな。
レグモグたちはぎゃぎゃーと叫んでは、赤目を光らせ黒い光沢が輝く爪指で、俺を差す。
すると、命令を受けたのか地面を這う小さい鼠集団が異常な速度で地を這いずり足元へ迫ってきた。
――こなくそっ!
魔槍杖を振り下げるように払い、近付く鼠共を紅斧で燃やすように打ち払っていく。
だが、小さい上に数が多い。
<鎖>か光槍を、試そうかと迷っていた時、
「閣下っ」
ヘルメの声が耳朶を叩くと同時に俺はバックステップで距離を取った。
俺がいた一帯の地面から闇色の靄と共に闇の魔法陣が浮かび上がり魔法陣がフッと消えると、地面から竹が生えるように闇の杭刃が無数に地面から発生。
小さい鼠集団は闇の杭刃に貫かれ宙に持ち上がり串刺しにされる。
小さい鼠の集団は悲鳴に近い声を出しては逃げるように距離を取った。
「ありがと、ヘルメ」
「ハイッ、閣下の前で差し出がましいですが、反応して、動いてしまいました」
一匹残ってた子鼠を踏み潰しながら、
「――いや、気にしないでいい。残りの鼠共を屠ってこい」
「ハッ――」
ヘルメは足もとから水飛沫を発生させ飛ぶように高く跳躍。
宙で身を捻りながら左右へ伸ばされた両手には闇と氷の靄を漂わせていた。
彼女は逆さまになりながらも笑みを浮かべ、左右の闇と氷の掌から魔法を撃ち放っている。
レグモグ数匹の頭に闇靄が掛かり、氷礫が頭を貫く。
華麗に着地したヘルメは混乱しているレグモグへ速やかに近付き氷剣を袈裟斬りに振るい、肩口から胸にかけてぱっくりと斬り捨てる。
迸った血がシャワーのように噴き出してはヘルメの身体から放出している水飛沫とぶつかっていた。
視力を奪われたレグモグたちは次々と氷刃によりざっくりと斬られ大きな傷を負い無残にも倒れていく。
魔法で攻撃されていなかった最後に残ったレグモグには黒豹型黒猫が襲い掛かる。
その動きは追い込み猟の如く。
レグモグの足へと触手骨剣を突き刺す。
動きを止めてから飛び掛かり押し倒しながら首を噛み切る。
「ガルルゥッ」
と、久々に唸る獣声を出しながら喉を食べるように殺していた。
レグモグはモンスターだが、少し可哀想に見えるから不思議だ。
俺に殺られるより悪夢だったと思われる……南無。
全てのレグモグが倒されると、子鼠たちは親を失った悲しみからか、キーキー音を立て、地中に潜り影の中へ悲しみの音と共に消えていく。
さて回収するか。
確か、こいつらの回収の品は爪。
……死骸に近寄ると、ぷ~んと異臭が漂う。
臭いネズミ男の腕から手の指を見ていく。
特異な形と言える汚い三本指の先には黒い巨爪が伸びていた。
汚く歪だが、こぶりで何処となく可愛い三本指だ。
そんな感想を抱きながら……爪を古竜の短剣で剥がしていく。
肉の買取りも書いてあったけど、どこの部分なんだろ……。
黒猫が食っていた喉の部分とかかな?
分からないから諦める。爪で良しとするか。
これで依頼の五匹分を回収した。
「ヘルメ、死んでいるレグモグから血を回収してきて」
臭いけど血は血だ。
「畏まりました」
指示されたヘルメは水に変化しては、レグモグの死骸に覆い被さった。
死骸は色艶が無くなる。
血や水分を吸収したヘルメの力か。
死骸は一気に乾燥していく。
眼窩に残る眼球は萎む。
薄く残った顔の皮が樹皮的に亀裂が入った。
カサカサの皺だらけな死骸顔となる。
ヘルメの液体は瞬く間に、液体から女体の人型へと変身を遂げる。
その美しい姿に戻ったヘルメは、
「――完了しました。今、お移しになられますか?」
「いや、今は急ぐ。目に戻ってから血を少し放出してくれればいい。余ったのはストックしといて」
水状態になったヘルメは放物線を描いて、俺の目に飛び込んでくる。
『はい』
目の奥にじわっと血が染み渡る感覚があった。
前にも体感したが不思議だ。味はない。
『まだ血は貯めておりますから、いつでもおっしゃってください』
デフォルメ姿のヘルメは、何故か注射器を片手に持っている姿だった。
『その姿はなんだ?』
『閣下の望む姿が投影されているだけです』
む、そういえば、俺、看護師さんが好きだ。
『それで、血はいったいどれほど貯め込むことできる?』
『分かりません。沢山としか』
曖昧だが、しょうがないか、精霊だし。
ヘルメはニコニコしながら注射器をフリフリと可愛らしく振り回している。
だが、視界でドアップは目障りだ。
『分かった。もう視界から消えていいぞ』
『はい……』
ヘルメは残念そうに消えていく。
さて、
「ロロ、【ソール砦】で依頼を完了させる。戻るぞ」
黒猫は地面に転がるレグモグの死骸から出た血を舐めていた。
「ンン、にゃ」
黒猫は俺の声に反応。
血を舐めるのを止めて喉声を発しながら、走り戻ってくる。
そのまま肩に飛び乗り、頭巾へ潜って丸まった。
んじゃ、出発だ。
いつものように<鎖>を背丈の高い樹木に打ち込み収斂し、<導想魔手>も使いながら樹木を伝い高速移動していく。
北西の方角へ直線で向かう。
もうモンスターは倒さず進む予定だ。
なので、南東のサデュラの森に来たときよりかは、速く戻れるはず。
【魔境の大森林】をスムーズに移動。
移動して三日ほど経った時。
魔素が集団で反応。
興味が出たので、移動を取り止め大樹の枝の上に着地。
そこから下を覗いて見た。
赤茶色の猿の魔族が率いる軍団規模の魔族だった。
すげぇ数……魔族の兵が蟻の行列のように続いている。
こんな軍勢と十字軍含め冒険者たちは戦っているのか……。
まぁ今の俺には関係ない。
移動を再開した。
暫く大樹の上を高速移動。
地上の魔族軍団には俺のことが探知できないようだ。
俺は魔族たちに露見することはなかった。
そんな時、んお?
何時もの軍団の中に、一際大きい魔素の反応があった。
また、枝に着地。反応を示す魔族は遠い位置だ。
魔力を目に留め、目だけで射殺せるぐらいに集中して遠くの魔力を豊富に持っているだろう魔族を見る。
その魔族の頭には左右からヘラジカのような大角を生やす。
顔はのっぺらぼう? ん、いや、微妙に違うか、不思議マークが描かれていて口が裂け上半身は縦長く骨厚の人型だ。
それに手長鬼のように長い腕が四本に、下半身の脚には馬のような鹿とも言える長脚が六つもある。
グリズベルに近い亜種か?
何千という魔族が犇めく中で、ボスのように君臨している。
強そうだ。あんなボスのような存在がいるとなると【聖王国】や【宗教国家】の十字討伐軍が簡単に全滅する訳だ。
しかし、壮観たる魔族の大軍だが、この大森林の中では小さく感じるから不思議。
高みの見物はここまでにして移動を再開だ。
ボス級の魔族なんて戦いたくないので、魔族集団は徹底して無視。
ひたすら背丈の高い樹木を伝って【ソール砦】を目指した。
そんな調子で七日間。
休憩を交えながらひたすら【魔境の大森林】を北西へ進む。
すると、掌握察にいつもと違う反応があった。
この大きさと動きからして、人族? しかも集団で入り乱れている。
魔族の魔素も多数混じっているので戦いと想像できた。
人族がいるということは、そろそろ【砦】に近い。
一応、冒険者たちが苦戦していないか、念のため、確認しとこっと。
反応があった場所へ急ぐ。
木々を抜けた場所が見えてきた。やはり争いの最中らしい。
攻撃魔法の灯りが宙を飛び交い、暗い森林の中を魔法の光源が周囲を明るく照らしている。
そういえば、初めて【ソール砦】に来たときも激戦中だった。
魔族の数が多い。冒険者たちは劣勢のようだ。
魔族たちはレッサーデーモン、グリズベル、レグモグといったモンスターが大半。
それと、指揮官と思われる腕から火炎魔法を繰り出している赤毛猿のマッカーヤが存在していた。
強大な魔素を放出していた、あの、のっぺらぼう的なヘラジカのような角を持つ、ボス魔族はいない。
おっ、冒険者側には見知った顔がいた。
戦姫と一緒にいた色黒のマッチョな大剣持ちの男。
マッチョ男は前線へ飛び出しては、段びらの大剣を縦横無尽に振り回す。
角張った肩を振るい大剣をスムーズに動かす、怪力無双。
<魔闘術>を扱う技術もスムーズ、凄まじい腕前と分かる。
戦場で一人、異彩を放っていた。
色黒戦士の背後には痩せた体格の魔法使いも居た。
マッチョ戦士と同じように姫の側に居た奴に違いない。
痩躯な体格の魔法使いが詠唱の言葉を叫ぶと、すぐに風の魔法を発生させていた。
その風魔法で色黒戦士に反撃しようとしていたグリズベルやレッサーデーモンたちを切り刻んでいる。
飛び出している色黒戦士の援護射撃か。
ということは……。
キョロキョロと視線を巡らせる。
――いた。
戦姫と呼ばれていた女性。
名前はシュアネ、桃色髪の縦ロール。
銀マントに銀鎖帷子と銀プレート。
左右の手に握られた二本の長剣を扱うのが上手い。
薙ぎ払いから袈裟斬りでレッサーデーモンを屠り、今度は違うレッサーデーモンを下から上へと掬うようなかち上げ斬りで、宙へ浮かせては、長剣を横に一閃。
レッサーの身体を空中で十文字のように分裂させる。
引き裂くように倒していた。
コワッ、挽き肉にするような殺し方だな……。
ま、人のことは言えないけど。
もうすぐ【砦】だから、俺も手伝うか。
あの姫様たちの周りは大丈夫と判断して、被害が大きいとこ……。
背丈の高い樹木から生える高枝の俯瞰位置から戦場を見回していく。
冒険者側が押されている場所を探す。
あった。やはり、指揮官の赤猿か。
また、赤猿の火炎魔法により一人燃やされた。
冒険者たちが、あいつ一人に苦戦を強いられている。
左手から蛇のような火炎魔法が放出された。冒険者たちを火炙りだ。
更に、魔脚を用いたフットワークの良さで、冒険者たちに間合いを掴ませない。
右手が握る長剣の扱いも上手い。斬り返しや突き返しによって次々と冒険者たちを長剣で倒していた。
あの赤猿魔族。武器は違うが本当に斉天大聖か?素早い剣術は圧倒的だ。
【聖都】付近で戦った同じ種族であるマッカーヤを倒した時、最初に<鎖>でアイツの脚を封じたのは大正解だった。
「ロロ、行くぞ。ヘルメは我慢」
「にゃ」
『はい』
今回は急襲なので、脚を封じることもない。
魔槍杖を右手に出現させて、高枝から飛び降りる。
<導想魔手>と<鎖>を使い、赤毛猿目掛けて空中を翔けていく。
距離を縮めると空中で<導想魔手>を消し、左手から火炎魔法を発してる赤毛猿マッカーヤの頭上へ急降下。
――急襲する。
「きゃぁ――」
「燃えろっ、燃えろォォッ!! ヒャッ――」
冒険者を襲い、叫んで嗤っている赤毛猿の脳天へ紅斧刃を生やしてやった。
魔槍杖は重力に逆らうことなく赤毛猿の頭から縦に真っ二つ。
俺が地面に着地するのと同時に両断された肉塊から血が迸る。
指揮官を倒すと、その場の敵、味方、の動きが止まった。
突然の闖入者に驚いたようだ。
その僅かな間に、黒猫が飛び出していく。
俺の肩から飛び出していった黒猫がむくむくっと小型の黒豹へと姿を変化させながら跳躍。
宙に浮いた体勢から触手を左右に同時に伸ばしていた。
その触手骨剣は左に居たグリズベルと右にいたレッサーデーモンの胴体へ深々と突き刺さる。
更に刺さった触手を収斂した。
グリズベルとレッサーデーモンは一気に宙にいる黒猫へと引き寄せられグリズベルとレッサーデーモンは黒猫の目の前で衝突。
それぞれが持っていた武器同士が体に刺さり合い死んでいた。
黒猫は二体同時に魔族を屠ったあとも隙を見せない。
猫型らしく四肢をくねらせ着地すると転がるように違う獲物に飛び掛かっていく。
周りにいたグリズベルやレッサーデーモンは爪、牙、触手骨剣により次々と転がされ斬られ、噛みつかれ、貫かれる。
俺も負けじと、周囲を見渡す。
弓に矢をつがえて構えるグリズベルを発見!
魔脚で地面を蹴り、標的のアーチャーグリズベルへと向かう。
魔槍杖の矛を地面に突き刺す。
その魔槍杖の柄を支えつつに、棒高跳びでも行うように足先を標的目掛けて伸ばす。
そのまま射手のグリズベルの胴体にドロップキックを喰らわせた。
グリズベルの胸元が、魔竜王のグリーブの足底の形に陥没。
グリズベルの胴体がひん曲がる。
背骨がひしゃげて千切れた。
上半身だった肉塊は吹き飛んだ。
血と臓物が付着した背骨の一部が残ったが、下半身のみとなったグリズベルは力なく倒れる。
もう周りに敵はいない。
俺は受け身をとって着地後に立ち上がりながら魔槍杖を正眼に戻し周りを窺う。
モンスターが減り完全に流れが変わった。
冒険者たちも奮闘している。
一人一人が一騎当千というように冒険者たちの怒号の行き交う戦場へ変わっていた。
やがて、戦いの流れが決まったように静かになっていく。
最後まで逃げずに粘って戦った一角グリズベルが屈強な冒険者に倒されると冒険者たちから勝鬨の声が上がった。
よし、冒険者たちが勝ったようだ。
魔族の死体が無数に散らばっている。
「ロロ、行くぞ」
「にゃ」
黒猫は殺した獲物を自慢しようとしていたが、俺の言葉を聞くと、すぐに触手を収斂させ獲物を放置して肩に戻ってきた。
【砦】へ戻ろう。
勝鬨を挙げて喜んでいる冒険者たちに背を向けて去ろうとした。
「待ってくださいっ」
ん? 冒険者たちから少し離れたところで、声をかけられた。
「どうした?」
見たところ、女の冒険者か?
戦士風の姿をしている。
「さっきはありがとうございました。マッカーヤに燃やされるところを、助けてもらいました」
あぁ、そういえば、助ける形だったね。
火炎魔法をモロに食らいそうな瞬間だった。
だけど、その魔法を食らう瞬間だったからこそ、マッカーヤを簡単に殺せたのもある。
「あの時か、怪我はない?」
「はい。少し火傷を負いましたけど、大丈夫です」
女戦士をよく見ると、手足に傷が見えた。
薬でも渡しとくか。
アイテムボックスからポーションを取り出す。
「これで怪我を治療できるから」
ポーションを投げて渡し、俺はすぐに立ち去る。
「あっ――お待ちください」
女戦士はポーションを受け取り、俺を呼び止めた。
「そうだぞ。――そこの槍使いっ」
ん、いつの間にか、あの戦姫の声が響いていた。
後ろを振り返る。
「どこへ行くのだ?」
やはり、桃色髪の姫様がいた。
怪我をしている女冒険者を押し退けて近付いてくる。
「いや、【砦】に帰って報酬を貰うとこだが?」
「……そうか。シュウヤ殿。少し待ってもらおう。さっきは見ていたぞ。マッカーヤを討ち取っていたな」
見てたのね。
「確かに俺が殺った」
「流星のような登場であったな……そんなことよりわたしからも礼を言う。危険なマッカーヤを討ち取ってくれてありがとう。後ろにいる怪我をしたコニーは違うクランだが、知り合いなのだ」
なるほど。
「助けられて良かったよ。んでは、それだけかな?」
「まてまて、そんな急がなくても良いだろう?」
「俺はさっさとギルドに行きたいのだが……」
「少し、待ってくれ。シュウヤ殿と話がしたい……」
姫様はすがるように俺を見る。
う、美人にそんな顔されると、少し……話を聞くか。
「分かった。それで?」
鼻の下を伸ばしながら聞く。
「では、その……何度も誘うようで悪いが、わたしのクランに入って欲しい。シュウヤ殿の言い値で雇おう。不満があれば、わたしが従うこともやぶさかではない」
また、勧誘か。
すると、戦姫の背後から色黒マッチョ戦士と白ローブを着た魔法使いが揃ってこっちに近付いて来るのが見えた。
「姫っ、勝手にそのような約束をされては困ります」
白ローブの魔法使いは誘い文句が聞こえていたらしい。
「タリャド、煩いぞ。この、シュウヤ殿が我がクランに入れば魔境などいくらでも切り取れるというものだ」
「しかし――」
「姫様、悪いがクランには入るつもりはないですから。では――」
タリャドという魔法使いと姫様が言い合いを始める。
今がチャンスと見て、挨拶を投げかけてから踵を返し、足早に去った。
後ろから姫様の声が響くが、無視だ。
美人さんの頼みは正直、くらっとなる。頷きたくなったが、我慢。
いつの日か、魔境の切り取りへの協力に来るかもしれないが……。
いや、無理か。ペルネーテにも行きたいし。
今は目的を優先する。
聖王国の行く末がどんな未来になるのか、暗澹たる気持ちになったが、ふと、あの巨剣を扱っていた凄腕冒険者が脳裏に浮かぶ。
きっと、凄腕の修羅的なあいつなら姫を守り、この魔境で魔族共を屠り続けて活躍するだろうと、イメージが湧く。
そんな妄想をしながら、森を走り続けること数時間。
大きい巨樹の木立を抜け【魔境の大森林】を脱することができた。
篝火の明かりでライトアップされたような【ソール砦】が見える。
森林独特の鬱々とした空気からの解放だ。やっと到着だよ。
さっさと冒険者ギルドで清算だな。
ホルカーが俺を呼んでいる。




